おりおん日記

電車に揺られて、会社への往き帰りの読書日記 & ミーハー文楽鑑賞記

「羊の目」 伊集院静

2008年04月26日 | あ行の作家
「羊の目」 伊集院静著 文藝春秋社 (08/04/26読了)

 気持ちが乗らないままノロノロと何日もかけて読んでいたのですが-最後からの2番目のストーリーの後半ぐらいから、ようやく、小説として楽しめたというか…素直に、次のページをめくりたいという気持ちになりました。実は、とても考え抜かれた凝った作りの物語です。伊集院静作品を読むのは初めてでしたが、本格派のストーリーテラーであることは良く分かりました。

 物語は太平洋戦争中から現代(新幹線が品川に停まるってことは、かなり最近ですよね?)まで。浅草からロスアンゼルスのリトルトーキョー、果てはニューハンプシャー州の山奥の刑務所へ。時間的にも、空間的にも広がりがあり、スケールの大きなストーリー。全く境遇が違う、住む国すらも違うもの同士が思わぬ運命の糸に手繰り寄せられて遭遇し、新しい物語が始まる。

 なのになのに、なぜ、気持ちが乗らなかったかといえば、任侠モノなのです。「2人を殺した罪で逮捕されたが、これまで、何人を殺してきたかは言えない」「オヤジに手を出そうとするものは、誰であっても徹底的に叩き潰す」-とか言われても、そんな、共感できるもんじゃないです。とにかく、前半は、ヤクザ的には理屈が通っているものの、一般人には理解不能な殺し合いがあまりにも多くて…。なんか、救いがないな-という気分になって、疲れてしまうのです。「いったい、読者をどんな気持ちにさせたいの??」と素朴に疑問に思ってしまいました。

 ページをめくる気力が出てきたのは…終盤に入って「純粋任侠モノ」の域を離れて、一般人のニーズも満たす物語らしさが出てきたあたりから。最後まで、任侠は任侠として生きていくしかなく、ゆえに、みんなが幸せになれるようなハッピーエンドというわけにはいかないのですが、でも、ちょっとだけ救いがあり、ホッとした気持ちで読み終わりました。ただ、いい年した私が言うのもおこがましいですが、伊集院静という人は“大人向け”の作家なのかなぁと思います。大人になりきれていない私には、背伸びしてもなお、ちょっと遠い世界です。