おりおん日記

電車に揺られて、会社への往き帰りの読書日記 & ミーハー文楽鑑賞記

「破裂」上下 久坂部羊

2008年04月09日 | か行の作家
「破裂」上下巻 久坂部羊著 幻冬舎文庫 (08/04/08読了)
 
 久坂部羊氏の作品、初めて読みました。「破裂」というタイトルから、なんとなく、爆弾モノを連想してしまいがちですが…医療ミステリーです。「医者にして作家」というご身分は、今、売出し中の海堂尊氏と同じ。海堂氏の最新作「ジーン・ワルツ」は最近、書評で取り上げまくられ、新聞広告にもしばしば掲載されていますが、個人的には、「破裂」の方が圧倒的に面白かったです。「ジーン・ワルツ」は台詞回しの不自然さで読みづらかったけれど…こちらは、上下巻2冊という大部でありながら、スピードに乗って読めました。

 テーマは高齢化問題。健康保険制度の破綻、安楽死など極めて今的な話題を盛り込んでいて、色々と考えさせられました。単純な私は、どちらかというと勧善懲悪のわかりやすいヒーロー側に肩入れしてしまうのですが…「破裂」では善と悪の境界線が曖昧です。登場人物は明らかに、善と悪にグループ分けできるのですが、善人グループも公明正大な善ではなくて、足元はぬかるんでいるし、悪人グループの言っていることを全て否定できるかというと、それもそうではなさそうな気がするのです。どちらかに肩入れしてスッキリした気分を感じさせるよりも、まさに、何が善で何が悪なのか考えさせる作品です。そして、問題提起をしつつも、ちゃんとストーリーとして成り立っています。「ジーン・ワルツ」を読んでいる時は「そんなに、厚労省に言いたいことがあるんなら、それはそれで、別のところで主張したら」と思うぐらい、主張がストーリーを邪魔している印象でしたが、「破裂」はそのあたりのバランスが良いように思います。

 ただ、なんとなく「白い巨塔」に似ているんですよね。物語の後半戦は、医療裁判場面が中心。それに微妙に教授選をめぐる思惑がからんだり、組織のためにウソをつくベテラン看護士と患者側に経つ若い看護士のバトルとか-どっかで読んだような気になってしまうのは仕方のないことでしょうか。もちろん、裁判場面は、大テーマである高齢化問題を考えさせるための重要なパーツではあるのですが…。

 そして、久坂部羊に限ったことではないのですが…オジサマの書く作品のマドンナ役って、結構、ステレオタイプなんですよね。ま、自分ではない性の感情というのは想像しにくいのかもしれませんが、数々の小説に出てくるほど都合よく人妻が恋に落ちたり、気の強い美人がオヤジに惚れたりしないと思いますが。「破裂」でも、ひそかに思いを寄せていた人妻が実は聖母マリアであった的展開には、ちょっと笑わせていただきました。