おりおん日記

電車に揺られて、会社への往き帰りの読書日記 & ミーハー文楽鑑賞記

「聖者は海に還る」 山田宗樹

2008年04月19日 | や行の作家
「聖者は海に還る」 山田宗樹著 幻冬舎文庫 (08/04/19読了)
 
 うまいなあ。この人の長編を読ませる才能はスゴイ!「嫌われ松子の一生」は、まだ、映画化・ドラマ化される前のそれほど話題にもなっていない頃に読んだのですが…上下巻2冊をほとんど一気読みしてしまいました。そして、この「聖者は海に還る」も、かなり、ハイスピード系の読み物です。プロローグはブレーキペダルから足を離して、ゆっくりとアクセルを踏み始めるといった感じなのですが、第一章が始まるや、どんどん、アクセルを踏み込んで、ノンストップで行ってしまえ~という気分になってしまうのが不思議。

 舞台は地方の中高一貫の進学校。そこで起こった事件を発端にスクールカウンセラーが派遣されてくるのですが…。スクールカウンセラーの同僚である養護教員と、スクールカウンセラーの派遣元であるメンタルヘルスセンターの所長の2人の視点・心象が交互に入れ替わりながら物語が展開していきます。進学校で、心を病む子どもたちのために、カウンセラーが派遣されてくるというのは、いかにも、現代的でありきたりなテーマなようでいて、でも、ありきたりではないところが、さすがです。

 どれぐらい本当のことが書いてあるのかわかりませんが…前半に出てくるロールシャッハテストの描写は、リアルでとっても興味深かったし(でも、あんまりネタをバラすと心理テストの意味がなくなるから、デフォルメされているのでしょうが)、心理療法とか、催眠療法とか-普段、のぞきみることが出来ない世界が垣間見れて面白かったです。その一方で、スクールカウンセリングという制度に内在する危うさとかも考えさせられました。

 「嫌われ松子の一生」もそうでしたが、決して、明るく、楽しく、読後スッキリの物語ではありません。しかし、希望が無いわけでもないです。(恐らく、作者が伝えたいであろう)同僚の養護教員である律の言葉が救いです。