<鶴岡、庄内ホテル水田テラス(2)>
庄内ホテル水田テラスには、夕刻の五時を廻ったころようやく辿りついた。
ホテルまでの道がとにかく判りづらい。迷いまくってかなりな時間を無駄にしてしまった。曲がり角に大きな矢印を書いた表示板一枚でも立てておいてくれたら助かったのにと思う。駐車場の表示板もいかにも小洒落すぎていて、昼間でさえ一目瞭然とはほど遠く、ここでいいのだろうかと疑心暗鬼で車を止めたのである。
どこにホテルの入口があるかもよくわからないが、たぶん目の前の建物がきっとそうだろう。
目の前を歩いている宿泊客が狂乱したように両手を振りまわして走り出した。どうやら蚊ぐらいの虫が空中を大軍で飛びまわる領域に突入してしまったようだ。気をつけねばいけない。
あとでエレベーターの存在に気がつくのだが、駐車場から重い荷物をえっちらおっちら運んできてのさらに長い階段をひいひい言いながらのぼった上がフロント、にはちょっとまいったぜ。
グランドオープンしたばかりなのでいたしかたがないが、フロントでチェックイン手続きするのに物凄い時間がかかってしまった。フロント業務の経験不足に加えて宿賃を先に会計するシステムのためでもあるが、客が滞留してしまい、少しでも早くしようとして今度は説明不足に陥るのも頷ける。
宿泊棟は三つ、G棟、H棟、Y棟で、出羽三山の月山、羽黒山、湯殿山の頭文字だそうだ。フロントやレストランがある共用棟と百四十三室ある宿泊棟はブリッジでつながっている。
鍵を受取り、ブリッジを渡って割り当てられた宿泊棟にいき、エレベーター前に積んであるアメニティのなかから館内着、タオル、髭剃りを取り部屋に持参する。
「なあに、ヘア・キャップがないじゃないの!」
女性グループの苦情を背に、エレベーターで一階に降りて部屋に向かった。
このホテルにはシングルルームはなく、一人泊でもセミダブルの部屋になる。荷物を広いベッドに投げだすと、鶴岡の酒場リストと携帯電話を取り出す。
海鮮系酒場リストの一番トップの酒場の予約が運よくとれ、またフロントに取って返した。
「タクシーって、呼んでもらえますか」
タイミングを見計らって訊いた。二キロ離れた鶴岡駅近くの居酒屋にいくつもりなのだ。
「すこしお時間いただかないと・・・」
「どのくらい?」
呑みたい一心で畳み掛けてしまう。酒場には三十分後くらいからで、と予約してしまったのだ。
「十五分から二十分ほど・・・」
「じゃあ、タクシーはいいや。ありがとう」
二キロは歩いてざっと三十分弱である。疲れているが歩いてしまおう。
夕闇の空には、無数の蝙蝠が複雑で急激な旋回と降下をしながら飛びまわっていた。
― 続く ―
→「鶴岡、庄内ホテル水田テラス(1)」の記事はこちら
庄内ホテル水田テラスには、夕刻の五時を廻ったころようやく辿りついた。
ホテルまでの道がとにかく判りづらい。迷いまくってかなりな時間を無駄にしてしまった。曲がり角に大きな矢印を書いた表示板一枚でも立てておいてくれたら助かったのにと思う。駐車場の表示板もいかにも小洒落すぎていて、昼間でさえ一目瞭然とはほど遠く、ここでいいのだろうかと疑心暗鬼で車を止めたのである。
どこにホテルの入口があるかもよくわからないが、たぶん目の前の建物がきっとそうだろう。
目の前を歩いている宿泊客が狂乱したように両手を振りまわして走り出した。どうやら蚊ぐらいの虫が空中を大軍で飛びまわる領域に突入してしまったようだ。気をつけねばいけない。
あとでエレベーターの存在に気がつくのだが、駐車場から重い荷物をえっちらおっちら運んできてのさらに長い階段をひいひい言いながらのぼった上がフロント、にはちょっとまいったぜ。
グランドオープンしたばかりなのでいたしかたがないが、フロントでチェックイン手続きするのに物凄い時間がかかってしまった。フロント業務の経験不足に加えて宿賃を先に会計するシステムのためでもあるが、客が滞留してしまい、少しでも早くしようとして今度は説明不足に陥るのも頷ける。
宿泊棟は三つ、G棟、H棟、Y棟で、出羽三山の月山、羽黒山、湯殿山の頭文字だそうだ。フロントやレストランがある共用棟と百四十三室ある宿泊棟はブリッジでつながっている。
鍵を受取り、ブリッジを渡って割り当てられた宿泊棟にいき、エレベーター前に積んであるアメニティのなかから館内着、タオル、髭剃りを取り部屋に持参する。
「なあに、ヘア・キャップがないじゃないの!」
女性グループの苦情を背に、エレベーターで一階に降りて部屋に向かった。
このホテルにはシングルルームはなく、一人泊でもセミダブルの部屋になる。荷物を広いベッドに投げだすと、鶴岡の酒場リストと携帯電話を取り出す。
海鮮系酒場リストの一番トップの酒場の予約が運よくとれ、またフロントに取って返した。
「タクシーって、呼んでもらえますか」
タイミングを見計らって訊いた。二キロ離れた鶴岡駅近くの居酒屋にいくつもりなのだ。
「すこしお時間いただかないと・・・」
「どのくらい?」
呑みたい一心で畳み掛けてしまう。酒場には三十分後くらいからで、と予約してしまったのだ。
「十五分から二十分ほど・・・」
「じゃあ、タクシーはいいや。ありがとう」
二キロは歩いてざっと三十分弱である。疲れているが歩いてしまおう。
夕闇の空には、無数の蝙蝠が複雑で急激な旋回と降下をしながら飛びまわっていた。
― 続く ―
→「鶴岡、庄内ホテル水田テラス(1)」の記事はこちら
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