<別府・鉄輪温泉連泊④>
④続・隣人
廊下の冷蔵庫から冷えた水をごくごく飲んでいると9号室の隣人の部屋の扉が
スーッとあいて、またもやギクリとしてしまう。
![](https://blogimg.goo.ne.jp/user_image/74/6a/7b639b173bd9bf0255fb10e27a401b13.jpg)
「あなたね、あたし、高崎山に行って帰ってきたの」
出てきたレイの女性が話しかける。どこかウキウキして声が弾んでいる。
「あ、はあ・・・」
よかった。てっきり朝の件でこっぴどく攻められるのかと思った。「そうです
か。あのサルで有名な」。水のボトルを冷蔵庫に戻しながらなんとなく質問のかた
ちで答える。
![](https://blogimg.goo.ne.jp/user_image/63/49/521a6f7b478d0397b514947bd3538684.jpg)
「そう。歩いて行ってきたの。往復とも」
「エーっ、たしか片道十五キロぐらいあるんじゃないですか!」
さすがに眼を剥いてしまう。別府は傾斜地である。途中、坂道もあるから片道
五時間はかかるだろう。いまが夕方だから朝一番、ほぼわたしと同じ時刻に宿を
出たことになる。
すこし開いた扉の隙間からみえる部屋のなかは真っ暗で不気味だ。連れの男性で
もいるのだろうか。それとも秘密めいた黒魔術の祭壇があったりして。
![](https://blogimg.goo.ne.jp/user_image/66/dc/adad0136ea94488ca569aaedf67cd97a.jpg)
「あたし、電車とかバスとか乗り物はすべて使わないの。自分の足で歩くのよ」
「へぇー、そうなんですかあ。すごいですね」
「薬も注射も手術も、身体になにか変なものは入れないのよ。温泉だって、入らず
浴びるだけなの」
なるほど・・・、だから朝、湯が張ってなくてもよかったわけだ。温泉の入浴の
スタイルもひとによって違うものだ。思わず新潟の「貝掛温泉」での出来事をチラ
ッと思い出す(『土座衛門』の記事参照)。薬も注射も拒否する、というところに
はなにか宗教めいたところも強く感じる。
それにしても、朝に初対面だったのにずいぶんと打ち解けている。まさか、昔の
時代劇映画じゃあるまいし、肌を見られたから、なんてワケでもないだろうなあ。
「あなた、どこから」
「えっと、横浜ですけど」嘘をついてもしょうがない、正直に答えた。
「あら、そう! あたしは、東京からよ」
東京からほんとうに歩いてきたのですか。その質問はぐっと飲み込んだ。あまり
話が長くなって、「お茶でも」などと部屋にでも誘われてもまずいし相当に怖い。
「なんで、別府が気に入ってずっといるかわかる?」
どこか楽しそうだ。温泉でないとしたら、わたしにはぜんぜん見当もつかない。
「・・・いえ」
「地獄、蒸し・・・よ」
なんか、もの凄く不気味に聞こえる。背筋がぞくりとしてしまう。「地獄蒸
し・・・ですか」
![](https://blogimg.goo.ne.jp/user_image/02/f2/d2db8ed55f056dd00e195c8def5b373d.jpg)
「肉でも野菜でも魚でも、どんなものでも蓋をして、数分たてば、それはそれは
美味しくいただけるの、よ!」
オマエもそこにいれて蓋すれば数分で、ご馳走に早変わりするのよ。なぜか、
そう、聞こえてしまう。レクター博士の女性版だったらどうしょう。朝の一件で
思いもかけぬ恨みを持っているかも知れぬ。最近の日本も猟奇的な犯罪は多いの
だ。
「あの、ちょっと予定がありますんで。失礼します」
時計をみながら早口で言ったてまえ、部屋にカメラを置くとそそくさとおはぎの
店に向かうのであった。
→別府・鉄輪温泉連泊①はこちら
→別府・鉄輪温泉連泊②はこちら
→別府・鉄輪温泉連泊③はこちら
④続・隣人
廊下の冷蔵庫から冷えた水をごくごく飲んでいると9号室の隣人の部屋の扉が
スーッとあいて、またもやギクリとしてしまう。
![](https://blogimg.goo.ne.jp/user_image/74/6a/7b639b173bd9bf0255fb10e27a401b13.jpg)
「あなたね、あたし、高崎山に行って帰ってきたの」
出てきたレイの女性が話しかける。どこかウキウキして声が弾んでいる。
「あ、はあ・・・」
よかった。てっきり朝の件でこっぴどく攻められるのかと思った。「そうです
か。あのサルで有名な」。水のボトルを冷蔵庫に戻しながらなんとなく質問のかた
ちで答える。
![](https://blogimg.goo.ne.jp/user_image/63/49/521a6f7b478d0397b514947bd3538684.jpg)
「そう。歩いて行ってきたの。往復とも」
「エーっ、たしか片道十五キロぐらいあるんじゃないですか!」
さすがに眼を剥いてしまう。別府は傾斜地である。途中、坂道もあるから片道
五時間はかかるだろう。いまが夕方だから朝一番、ほぼわたしと同じ時刻に宿を
出たことになる。
すこし開いた扉の隙間からみえる部屋のなかは真っ暗で不気味だ。連れの男性で
もいるのだろうか。それとも秘密めいた黒魔術の祭壇があったりして。
![](https://blogimg.goo.ne.jp/user_image/66/dc/adad0136ea94488ca569aaedf67cd97a.jpg)
「あたし、電車とかバスとか乗り物はすべて使わないの。自分の足で歩くのよ」
「へぇー、そうなんですかあ。すごいですね」
「薬も注射も手術も、身体になにか変なものは入れないのよ。温泉だって、入らず
浴びるだけなの」
なるほど・・・、だから朝、湯が張ってなくてもよかったわけだ。温泉の入浴の
スタイルもひとによって違うものだ。思わず新潟の「貝掛温泉」での出来事をチラ
ッと思い出す(『土座衛門』の記事参照)。薬も注射も拒否する、というところに
はなにか宗教めいたところも強く感じる。
それにしても、朝に初対面だったのにずいぶんと打ち解けている。まさか、昔の
時代劇映画じゃあるまいし、肌を見られたから、なんてワケでもないだろうなあ。
「あなた、どこから」
「えっと、横浜ですけど」嘘をついてもしょうがない、正直に答えた。
「あら、そう! あたしは、東京からよ」
東京からほんとうに歩いてきたのですか。その質問はぐっと飲み込んだ。あまり
話が長くなって、「お茶でも」などと部屋にでも誘われてもまずいし相当に怖い。
「なんで、別府が気に入ってずっといるかわかる?」
どこか楽しそうだ。温泉でないとしたら、わたしにはぜんぜん見当もつかない。
「・・・いえ」
「地獄、蒸し・・・よ」
なんか、もの凄く不気味に聞こえる。背筋がぞくりとしてしまう。「地獄蒸
し・・・ですか」
![](https://blogimg.goo.ne.jp/user_image/02/f2/d2db8ed55f056dd00e195c8def5b373d.jpg)
「肉でも野菜でも魚でも、どんなものでも蓋をして、数分たてば、それはそれは
美味しくいただけるの、よ!」
オマエもそこにいれて蓋すれば数分で、ご馳走に早変わりするのよ。なぜか、
そう、聞こえてしまう。レクター博士の女性版だったらどうしょう。朝の一件で
思いもかけぬ恨みを持っているかも知れぬ。最近の日本も猟奇的な犯罪は多いの
だ。
「あの、ちょっと予定がありますんで。失礼します」
時計をみながら早口で言ったてまえ、部屋にカメラを置くとそそくさとおはぎの
店に向かうのであった。
→別府・鉄輪温泉連泊①はこちら
→別府・鉄輪温泉連泊②はこちら
→別府・鉄輪温泉連泊③はこちら
その心は、期待した場面が放映されずに引っ張られた50分間。
そして無駄に過ごした50分のため、確実に睡眠時間が減ったことに対する、砂を噛むような後悔。
鉄人9号とは、その後どうなったんですか!!!
もう、腹が立って、膨らんだしっぽが元に戻らないですにゃぁ!
この試験管ブラシを何とかして欲しいですにゃぁ!
食べ物のほかに、混浴露天風呂とかこういう話題に必ず食いついてきますね。
わたしは元来真面目な性格で温泉一筋のため、いつもにゃあさんのご期待には残念ながら添えないのであります。
(だいたい、そんなことここに書くかよ)
いつも失敗の巻なのですよ。
すみませんねえ。
これに懲りず、なにとぞ今後ともご愛読くだされ。