温泉クンの旅日記

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麒麟山温泉、絵かきの宿(1)

2018-09-16 | 温泉エッセイ
  <麒麟山温泉、絵かきの宿(1)>

 また来ちまったぜ・・・。



 宿の入口で思わず呟いた。
「麒麟山(きりんざん)温泉 福泉」は、いつも頭の片隅のどこかしらに残っていつづけている宿のひとつである。昭和九年(1934年)の創業というから八十年を超す老舗宿だ。



 フロントでチェックインしていると、貸切露天風呂が一回無料で利用できるという。前回泊まったときに入った記憶がまるでなかった。当時は有料だったのかもしれない。
 部屋に荷物を置き、浴衣に早変わりすると、さっそく貸切露天風呂をいただくことにした。



 思ったよりも広いぞ。



 景観を楽しむのはあとにして、まずは温泉だ。
 たっぷりの掛け湯をして、ゆるゆると広い湯船に滑り込む。



 わたしは生粋の温泉好きだが、この宿が気にいったのはめずらしいことに温泉ではなく景観なのだ。部屋からの、温泉からの、眺めに強烈な愛着があるのである。



 見渡せばすべてが大自然だけだ。
 見える範囲すべてに人工物がないのがたまらない。絶景の基準はひとさまざまだろうが、わたしは自然のみというのが絶景だと思う。

 阿賀野川は栃木・福島県境の荒海山から源流を発し、広大な流域と長大な流れをもって新潟県を抜けて日本海に注ぐ大河である。
 もちろん一級河川だ。



 この川の流域に生きるすべての命が営む、<刹那>という一瞬を水滴という形に変え、無限無数の滴たちを集めて、いま目の前を静かに滔々と流れている。
 あの日いだいた希望もあの時あじわった後悔も涙も微笑みも、星の数ほどのため息や思い出も、すべてを含めて、膨大な刹那の途方もない塊が層のように混然一体とうねり、海という母の胸に寄せられていく・・・。
 柄にもなく、そう思えてしまうのだ。

 貸切を切りあげて、通常の露天風呂に移動する。



 貸切と近い並びなので、ほぼ同じ景色が迎えてくれる。



 あれっ、さっきは気がつかなかったが、なんかあそこに小屋みたいなのが出来てるぞ。仮設トイレじゃあるまいな。ひょっとして覗き小屋だったりして。

 二食付き宿泊の際のルールに従い、途中にあった道の駅「R290 とちお」で、揚げたてのぶ厚い栃尾揚げが入った蕎麦で昼食を軽くすませてきたが、温泉パンチの乱れ打ちで猛然と腹が減ってきた。



 空きっ腹でのこれ以上の入浴もまずい。大浴場と、空いていれば入れる貸切の内風呂があるのだが、これくらいで部屋にいったん戻るか。
 ここに来る直前に越後長野温泉の日帰りで、本館と別館の、内風呂と露天風呂をそれぞれ二回入ってきたのである。


  ― 続く ―


   →「越後長野温泉」の記事はこちら
   →「咲花温泉(1)」の記事はこちら
   →「咲花温泉(2)」の記事はこちら
   →「角神温泉」の記事はこちら


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