<海への鎮魂歌>
<アンタは、こんなご時世でもあいかわらず元気に旅は続けているみたいね。寺社物詣のたんびにアタシの息災を秘かに祈ってくれたお礼に、アンタが旅に出掛けるときに、「旅の無事を祈る念」をいつもアタシが強烈に送っていたのに気づいてた?>

「うん、なんとなく。ありがとう。猫にあるまじき爆睡スヤスヤ状態の寝顔をたしかに確認したのに、旅の出発でドアを閉めるときに振り返ると、遠くからいつも(ガン飛ばしてるみたいに)見送ってくれていたね」。そう、まるで狙撃手がスコープ(照準器)でロックオンしてるようだった。
(猛烈な抵抗を無視して)抱きあげちゃえば、真ん丸つぶらな瞳でメチャ可愛いのに。

<まさか、この前の“こんぴら参り”もアタシに関係あんの?>
「まさか・・・だけども、ちょっとはね」
海よ、(2020年5月某日から)オマエが旅立って早くも一年が過ぎてしまった。
去年の始め、年に数度連れていく動物病院の治療室で暴れながら“咆哮”することはあっても、常は「完全黙秘を貫く」のオマエが、突然、ニャアニャア言いだして目を丸くしたよ。
それも、短時間だが毎日だから魂消てしまった。
きっと、これは“風”だなと思った。
古い洋画に「愛情物語」というのがあって、たしか突然襲ってくる“風”が予兆となって幸せが毀れるというストーリーだった。エディ・マーフィーの妻マージョリーは、風が愛する夫を遠くに連れ去る夢をみてから風が怖くてならない。

オマエのニャアニャアは、あの“風”だ。
だから旅するのをわたしは控えた。おかげで、オマエを看取ることもできたし、簡素な葬儀も差配することができて嬉しかったよ。
それからが長かった。可愛いとはいえ、オマエはペットの猫なのに、まるでホンモノの子どもを亡くしたように深くズブズブと沈みこみ、すっかり落ち込んでしまった。
ようやく近頃、重い襖を閉めるときにオマエが通れるように少しだけ開けておいたり、夜起きたときにオマエを探したりするクセが抜けてきたよ。仕舞いこんだ衣類を着たときにふわふわのオマエの毛をみつけて、茫然としてしまうことはまだちょっとだけあるけどね。

似ている猫をみかけてもツライ気分にならなくなってきて、慣れたのかな。そろそろ、鎮魂歌みたいなのを書けるかもしれない。そんな気になったんだ。

<それって、あのコロンボ刑事が大好きな辛い料理のこと?>
「えっ!」
<チリコンカン>
「こらあ、チンコンカじゃ! 『鎮魂歌』」
<ふふふ・・・。まあまあそんな張りきらずに、重々しいのはやめて、肩の力抜いてカルーク書き飛ばしたほうがいいと思うよ>
<ねぇ・・・>

「ン! (ドキリとする)」
<アタシに逢いたい?>
「そ、そりゃ・・・」
<逢ってあげようか>
(ゲッ、それって、まさか・・・オレがそっちへ行くってこと)
<違うわよ。猫か女性に乗り移って逢うってことよ)
「そ、そんなことできるの?」

<女性のほうに強く反応していたから、ネコじゃないほうがよさそうね>
「・・・」
<アタシも二十歳越えという、イチオウ“化け猫”クラスのネコだかんね、秘術のひとつくらいは会得してるわ。長い時間は無理だけど、少しならできるはず。でもさあ、せっかく苦労して登場しても、気がついてくれないと困るんだけど>
「オマエの目力のこもった眼差しをみれば気がつくって! 逢いたいな」
<じゃあ、約束する。時間をもらうけどね。でもでも、これって絶対に忘れないでね>

ある独身の妙齢女優が言っていた。「死ぬまでに、このひとしかいないというひとにめぐり逢いたい」と。

きっと、わたしは「コイツしかいない」という猫に出逢ったのだ。
<アンタは、こんなご時世でもあいかわらず元気に旅は続けているみたいね。寺社物詣のたんびにアタシの息災を秘かに祈ってくれたお礼に、アンタが旅に出掛けるときに、「旅の無事を祈る念」をいつもアタシが強烈に送っていたのに気づいてた?>

「うん、なんとなく。ありがとう。猫にあるまじき爆睡スヤスヤ状態の寝顔をたしかに確認したのに、旅の出発でドアを閉めるときに振り返ると、遠くからいつも(ガン飛ばしてるみたいに)見送ってくれていたね」。そう、まるで狙撃手がスコープ(照準器)でロックオンしてるようだった。
(猛烈な抵抗を無視して)抱きあげちゃえば、真ん丸つぶらな瞳でメチャ可愛いのに。

<まさか、この前の“こんぴら参り”もアタシに関係あんの?>
「まさか・・・だけども、ちょっとはね」
海よ、(2020年5月某日から)オマエが旅立って早くも一年が過ぎてしまった。
去年の始め、年に数度連れていく動物病院の治療室で暴れながら“咆哮”することはあっても、常は「完全黙秘を貫く」のオマエが、突然、ニャアニャア言いだして目を丸くしたよ。
それも、短時間だが毎日だから魂消てしまった。
きっと、これは“風”だなと思った。
古い洋画に「愛情物語」というのがあって、たしか突然襲ってくる“風”が予兆となって幸せが毀れるというストーリーだった。エディ・マーフィーの妻マージョリーは、風が愛する夫を遠くに連れ去る夢をみてから風が怖くてならない。

オマエのニャアニャアは、あの“風”だ。
だから旅するのをわたしは控えた。おかげで、オマエを看取ることもできたし、簡素な葬儀も差配することができて嬉しかったよ。
それからが長かった。可愛いとはいえ、オマエはペットの猫なのに、まるでホンモノの子どもを亡くしたように深くズブズブと沈みこみ、すっかり落ち込んでしまった。
ようやく近頃、重い襖を閉めるときにオマエが通れるように少しだけ開けておいたり、夜起きたときにオマエを探したりするクセが抜けてきたよ。仕舞いこんだ衣類を着たときにふわふわのオマエの毛をみつけて、茫然としてしまうことはまだちょっとだけあるけどね。

似ている猫をみかけてもツライ気分にならなくなってきて、慣れたのかな。そろそろ、鎮魂歌みたいなのを書けるかもしれない。そんな気になったんだ。

<それって、あのコロンボ刑事が大好きな辛い料理のこと?>
「えっ!」
<チリコンカン>
「こらあ、チンコンカじゃ! 『鎮魂歌』」
<ふふふ・・・。まあまあそんな張りきらずに、重々しいのはやめて、肩の力抜いてカルーク書き飛ばしたほうがいいと思うよ>
<ねぇ・・・>

「ン! (ドキリとする)」
<アタシに逢いたい?>
「そ、そりゃ・・・」
<逢ってあげようか>
(ゲッ、それって、まさか・・・オレがそっちへ行くってこと)
<違うわよ。猫か女性に乗り移って逢うってことよ)
「そ、そんなことできるの?」

<女性のほうに強く反応していたから、ネコじゃないほうがよさそうね>
「・・・」
<アタシも二十歳越えという、イチオウ“化け猫”クラスのネコだかんね、秘術のひとつくらいは会得してるわ。長い時間は無理だけど、少しならできるはず。でもさあ、せっかく苦労して登場しても、気がついてくれないと困るんだけど>
「オマエの目力のこもった眼差しをみれば気がつくって! 逢いたいな」
<じゃあ、約束する。時間をもらうけどね。でもでも、これって絶対に忘れないでね>

ある独身の妙齢女優が言っていた。「死ぬまでに、このひとしかいないというひとにめぐり逢いたい」と。

きっと、わたしは「コイツしかいない」という猫に出逢ったのだ。
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