<台温泉(3) 岩手・花巻>
夕食時間になり、食事会場に降りて行き入口で部屋番号を告げると、決められた席に案内された。
「ひょっとして、この右側の鍋ものは・・・」
卓の上に置かれた<お献立>によると、先附は「旬彩先附三点」、その上の酢物が「〆鯖とズワイ蟹風味美味酢掛け」、左側の台の物は「紅木豚の温しゃぶ」、右側の鍋物が「ひっつみ鍋」と書いてあった。
(やっぱり、ひっつみ鍋だ!)
これは嬉しい。何度目かの岩手旅のときに繁華街のビジネスホテルに素泊まりで泊まり、夕食がわりに入った居酒屋で、初めて食べて気に入ってしまった郷土料理の「ひっつみ」だ。
そのときのことをこう書いている。
『腹が猛烈に減っているので、締めまで待てずに南部ひっつみを注文した。
ひっつみは、小麦粉を用いた汁物の郷土料理で、いわゆるすいとん(水団)の一種だ。小麦粉を練って固めたものをひっつまんで汁に投げ入れて作られるため、それがそのまま料理の名称になったのだ。
運ばれてきたひっつみ汁は、ずいぶんと具沢山であった。
基本の出汁に、野菜や肉厚の椎茸、魚介などの具材からくる出汁が絶妙に調和してなんとも美味である。
もっちりと厚みのあるひっつみも、その出汁がしみていて美味しい。
この出汁で、餅いりの稲庭うどんをつくって食べたい。痛烈に思ってしまったものだ。』
頼んだ酒で、造里の「海の幸三種盛」をつまみながら、ひっつみ鍋の食べごろを首を長くして待つ。
ゆっくり11時レイト・チェックアウトできる松島温泉なのに、送迎バスを待ち切れずに朝食後すぐに徒歩で出発、次の台温泉では朝食抜きとは、「なーんか、ゆとりのまるでない、オマエさんの旅はジツにせわしない旅やな!」と思われたことだろう。だからここで軽く自己弁護しておきたい。
今回、旅の目的地として組みこんだ「岩手県」は、けっこう難敵なのだ。とにかくすこぶる広い。
たいていの旅人が、距離感がヘンになる見当識障害に陥ってしまう日本総面積の2割、九州(8県)の2倍以上あるというべらぼうな北海道を超別格とすると、残りの都府県で広い2番手が岩手県で、なんとその広さは四国(4県)に匹敵する。
北海道と岩手を旅するなら、移動手段は車がベストだ。運転手は、厭になるほどの移動距離と所要時間が必要になるという覚悟はいるけどね。
鉄道を利用するなら、8割から9割くらい済んだあとがいい。ただ、盛岡だけが目的地なら新幹線を使えるが、たいていは本数の限られた在来線と路線バスを上手に組み合わせて使うしかない。
ひっつみ鍋の、ひっつみだけでいいのだが追加できれば嬉しいのにと思った。おでんの「ちくわぶ」が好きな人なら絶対に気にいる料理である。
煮物の「豆打饅頭他野菜煮」と、蓋物の「帆立の茶碗蒸し」も少量のせいもあるが、今回は食べきった。
締めの雑魚御飯、留椀はなめこ味噌汁と二点盛の香物。
水菓子の旬のフルーツとプチケーキも今日はめずらしく残さなかった。
早朝、出掛ける前の最後の入浴である。
内湯で充分身体を温めてから、露天風呂にいく。台温泉で露天があるのは、このホテルが唯一だそうである。
早いせいもあって独り占めだ。ゆっくり楽しむことにした。
がむしゃらに温泉を巡っていたころ、千湯を超えるまでまめに温泉リストを作成していたのだが1995年から始めて2003年で達成、もういいだろうとばったりやめてしまった。
そのリストをみつけて、調べると、台温泉と花巻温泉はふた昔前の2000年7月に日帰り湯で訪れていることがわかった。
となると、思わず目が釘付けになった、きっとあの廃墟ホテルになってしまったところで日帰り湯をしたに違いない。一度見たら忘れられないだろう寂しすぎる温泉街はまったく記憶にないし。
フロントで会計をすると、予想していた金額よりすこし安かった。勝手に抜いた朝食分を差し引いてくれたようだ。気のきく若女将に感謝だ。
降り始めた雨に、折り畳みをゴソゴソ出そうとしているところに、会計をしてくれた大女将から声がかかった。
「あの、こちらの傘をどうぞお持ちになって・・・」
ありがたいが、また傘を返しに戻ってこられないのだが・・・。
「バス停の、四阿の壁にでも立てかけておいてくれれば、こちらのほうで回収しますので」
懸念をあっさり払拭してくれたので、ありがたく親切を受け入れることにした。
振り返るとずっと見送ってくれていた。大女将のやさしい気遣いにも感謝である。
雨に濡れそぼる朝の温泉街には、予想通り、土産物や朝メシ代わりの肉まんでも調達できそうな店の一軒すらまったく見つけられなかった。
→「台温泉(1) 岩手・花巻」の記事はこちら
→「台温泉(2) 岩手・花巻」の記事はこちら
→「南部ひっつみ」の記事はこちら
→「おにぎりとひっつみ、ついでに冷麺」の記事はこちら
→「なか締め」の記事はこちら
→「魔力(続なか締め)」の記事はこちら
夕食時間になり、食事会場に降りて行き入口で部屋番号を告げると、決められた席に案内された。
「ひょっとして、この右側の鍋ものは・・・」
卓の上に置かれた<お献立>によると、先附は「旬彩先附三点」、その上の酢物が「〆鯖とズワイ蟹風味美味酢掛け」、左側の台の物は「紅木豚の温しゃぶ」、右側の鍋物が「ひっつみ鍋」と書いてあった。
(やっぱり、ひっつみ鍋だ!)
これは嬉しい。何度目かの岩手旅のときに繁華街のビジネスホテルに素泊まりで泊まり、夕食がわりに入った居酒屋で、初めて食べて気に入ってしまった郷土料理の「ひっつみ」だ。
そのときのことをこう書いている。
『腹が猛烈に減っているので、締めまで待てずに南部ひっつみを注文した。
ひっつみは、小麦粉を用いた汁物の郷土料理で、いわゆるすいとん(水団)の一種だ。小麦粉を練って固めたものをひっつまんで汁に投げ入れて作られるため、それがそのまま料理の名称になったのだ。
運ばれてきたひっつみ汁は、ずいぶんと具沢山であった。
基本の出汁に、野菜や肉厚の椎茸、魚介などの具材からくる出汁が絶妙に調和してなんとも美味である。
もっちりと厚みのあるひっつみも、その出汁がしみていて美味しい。
この出汁で、餅いりの稲庭うどんをつくって食べたい。痛烈に思ってしまったものだ。』
頼んだ酒で、造里の「海の幸三種盛」をつまみながら、ひっつみ鍋の食べごろを首を長くして待つ。
ゆっくり11時レイト・チェックアウトできる松島温泉なのに、送迎バスを待ち切れずに朝食後すぐに徒歩で出発、次の台温泉では朝食抜きとは、「なーんか、ゆとりのまるでない、オマエさんの旅はジツにせわしない旅やな!」と思われたことだろう。だからここで軽く自己弁護しておきたい。
今回、旅の目的地として組みこんだ「岩手県」は、けっこう難敵なのだ。とにかくすこぶる広い。
たいていの旅人が、距離感がヘンになる見当識障害に陥ってしまう日本総面積の2割、九州(8県)の2倍以上あるというべらぼうな北海道を超別格とすると、残りの都府県で広い2番手が岩手県で、なんとその広さは四国(4県)に匹敵する。
北海道と岩手を旅するなら、移動手段は車がベストだ。運転手は、厭になるほどの移動距離と所要時間が必要になるという覚悟はいるけどね。
鉄道を利用するなら、8割から9割くらい済んだあとがいい。ただ、盛岡だけが目的地なら新幹線を使えるが、たいていは本数の限られた在来線と路線バスを上手に組み合わせて使うしかない。
ひっつみ鍋の、ひっつみだけでいいのだが追加できれば嬉しいのにと思った。おでんの「ちくわぶ」が好きな人なら絶対に気にいる料理である。
煮物の「豆打饅頭他野菜煮」と、蓋物の「帆立の茶碗蒸し」も少量のせいもあるが、今回は食べきった。
締めの雑魚御飯、留椀はなめこ味噌汁と二点盛の香物。
水菓子の旬のフルーツとプチケーキも今日はめずらしく残さなかった。
早朝、出掛ける前の最後の入浴である。
内湯で充分身体を温めてから、露天風呂にいく。台温泉で露天があるのは、このホテルが唯一だそうである。
早いせいもあって独り占めだ。ゆっくり楽しむことにした。
がむしゃらに温泉を巡っていたころ、千湯を超えるまでまめに温泉リストを作成していたのだが1995年から始めて2003年で達成、もういいだろうとばったりやめてしまった。
そのリストをみつけて、調べると、台温泉と花巻温泉はふた昔前の2000年7月に日帰り湯で訪れていることがわかった。
となると、思わず目が釘付けになった、きっとあの廃墟ホテルになってしまったところで日帰り湯をしたに違いない。一度見たら忘れられないだろう寂しすぎる温泉街はまったく記憶にないし。
フロントで会計をすると、予想していた金額よりすこし安かった。勝手に抜いた朝食分を差し引いてくれたようだ。気のきく若女将に感謝だ。
降り始めた雨に、折り畳みをゴソゴソ出そうとしているところに、会計をしてくれた大女将から声がかかった。
「あの、こちらの傘をどうぞお持ちになって・・・」
ありがたいが、また傘を返しに戻ってこられないのだが・・・。
「バス停の、四阿の壁にでも立てかけておいてくれれば、こちらのほうで回収しますので」
懸念をあっさり払拭してくれたので、ありがたく親切を受け入れることにした。
振り返るとずっと見送ってくれていた。大女将のやさしい気遣いにも感謝である。
雨に濡れそぼる朝の温泉街には、予想通り、土産物や朝メシ代わりの肉まんでも調達できそうな店の一軒すらまったく見つけられなかった。
→「台温泉(1) 岩手・花巻」の記事はこちら
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