4月終わりの日に
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孫からの画像「春が終わる」と、私はいつものスマホでパチリ。定番散歩道。日常の買い物スーパーへ向かう道でもある。
私の定番の「散歩道・緑道」も皐月を迎えて初夏の景色となる。新緑のなんと美しいこと!小さな疎水に添って歩いていると、真っ青な空と若い緑の木々、目を細めたくなる眩しい陽光、さあ、いよいよ初夏の色に景色は染まると足取りも弾む。いつも散り敷いている路傍の枯れ葉の間からは野の草花が。ところどころに、小さな花壇が町の人たちの手で作られている。これから梅雨の季節がやって来るまでは、心地よい風の中で、散歩を楽しむとしよう。
佐藤春夫の【望郷五月歌】という詩にこんな一節が
空靑し 山靑し 海靑し
日はかがやかに
南國(なんごく)の五月晴(さつきばれ)こそゆたかなれ
心も輕(かろ)くうれしきに
海(わた)の原(はら)見はるかすとて ・・・・・
佐藤春夫の故郷は紀州、みかんと青空と輝く光の国である。その故郷に寄せる想いを謳った長い詩。目の前に鮮やかに初夏の紀州の風景が、作者が故郷に寄せる想いが、熱く伝わる素敵な詩だと、昔目にした時から気に入っている。佐藤春夫といっても、今の時代の人には??だろうなあ。
爽やかな初夏の日和に心がホワッとなったこの日の夕方、太宰府からLINE。「Sさんが亡くなった!」「えっ!」思いもかけない悲報に声も出ない。夕飯後倒れて救急搬送、だが…。その侭、永眠。【大動脈解離】血管が裂けて出血し、その場所によっては手の施しようがないという病気。私よりは一回り以上年下だ。【古典文学サークル】で共に楽しく学び、芭蕉の「奥の細道」の時は東北まで。2泊3日、芭蕉を偲びながら最上川下りや「山寺」にも。松島・平泉へも。中尊寺・毛越寺、晩秋の季節で見事な紅葉に初雪が舞った。私達夫婦にとっても、初めての東北の旅でもあった。江戸文学の時は四国へ。江戸時代そのままの芝居小屋「金丸座」での金毘羅歌舞伎&観光で栗林公園などへ。日帰りの文学散歩では、遠藤周作や松本清張などの「文学記念館」などへ。私はサークルと歌舞伎の会での繋がりだが、元アナウンサーの彼女は、太宰府市の大きな催しや、「市の男女共同参画委員会】始め多くの方面で活躍していた。それだけの才能と素早い対応は見事で、忙しすぎるのではと思う程だったが・・・。我が家に来る時はいつも手作りのケーキをお土産に。いろんな思い出が一気に浮かんで来た。最後の日もいつものように、早朝散歩をした、彼女の親しい友人との電話の後では、気が付いたら涙でグシャグシャになっていた私だった。長命が当たり前の時代、早すぎる旅立ちだった。でも、人がいつ終りを迎えるかは、この世に生を受けた時から定まっていると私は思ってはいるのだが。
今日も空は何事もないように青く明るく晴れ上がって、新しく萌えいでた若葉は、力強く風に揺れていた。彼女の旅立ちを、次の世での穏やかな日々を、ただただ祈るだけである。