見つけたの雨の日バスの窓ガラスに誰かのひたいのあぶらののこり 鳥栖市 岡崎陽子
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これは新聞の読者の文芸欄に載った入選歌。一読してその場の実景が浮かんできた。バスの座席の窓ガラスににんげんの額がつけた脂汗の跡が残っている。人を特定できる指紋のように。外が暗くて内が明るいとよく見えるのかも知れない。この誰かは、窓ガラスに額をつけて、夜の町のネオンを目に流しつつ、恋しい人のことを偲んだのだろうか。バスに揺られつつ、あの人のことをぼんやりと考えていた作者は、そこでその人に幾分の親しみを感じてはっとする。「見つけたの」のメスが入る。いやいや、そんなロマンチックな状況ではなくて、その脂汗の人は、勤め帰りの疲労困憊者がつけた居眠りの残骸に過ぎなかったかもしれないが。初句の切り口が生き生きしている。いい作品には新しい発見が光っている。
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