つれづれと空ぞ見らるる思ふ人天(あめ)降(くだ)り来むものならなくに 和泉式部
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僕もいま空を見ている。ぼんやりと。青い空に小さく千切れた白い雲が幾つも幾つも浮かんでいる。よおく見ると西から東の方角へ流れている。和泉式部の頃、古代にも空が有ったらしい。で、彼女も暮らしのつれづれに、合間合間に空を仰いでいる。溜息をついている。どうして溜息になるかというと思う人がここにいないからだ。やさしく抱いてくれないからだ。溜息の先にはだからいつも思う人がいる。これほど思いやっているのだから、空から降って来てくれるかもしれない。来たら直ぐさま我が身の思慕ごときつく抱いてくれるはずだ。「式部さん来ましたよ。ずっとずっとあなたに会いたかった」などと言いながらふんわりふわり降りて来る。そういう想像をする。想像をするとその像だけでも堕ちてきてくれそうな気がする。でも、それはとうとう起こらない。ついに式部さんは諦めて平常平穏の暮らしに戻って行った。僕も妄想だけは式部さんにも劣らない。見上げている空から美しい天女の出で立ちをした彼女が薄衣一枚纏ったきりでするすると僕の隣に下りてきて欲しい。でもねえ、もしもそれがその通りになったら大変だよ。僕の醜悪を隠しようがないので、僕はきっととても困ったような顔、迷惑しているといった顔をしてしまうかもしれない。
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