何十年も働きに働いてきたのに、それでも重労働の労役にめげずに、今もしっかり元気に機能している身体の各機関に頭が下がる。じっと守備の部署を見る。見入る。
手、足、指、爪。小便するところ、大便するところ。汗を掻くところ。
首、頭、肩、背中、胸、腹、腰。
目、鼻、口、耳。唇、口の中、歯、舌、歯茎、喉。
食道、気管支、胃袋、肺。
五臓六腑。皮膚、骨、筋肉、神経、細胞。
血液、血管、リンパ腺、ホルモン。et cetera。
すまんなあが出る。有り難う有り難うが出る。よくやってくれたなあのねぎらいが出る。疲れただろう、すこしやすんだらどうだを言いたくなる。
真夜中。心臓が動いている。鼓動がぴくぴくしている。鼻が呼吸している。腹部が膨らんだん収縮したりしている。
沖合を絵にした船が消えかかりサイレンが昼を知らせる 僕はひとりだ 薬王華蔵
１２
車に積んだ自転車の出番が回ってこない。起伏のある坂道が多くて、とても。
とか何とか言って。お昼のサイレンが鳴って。たんぽぽが咲いて黄色い。それを風のない車の中で見ている。
１１
クレヨン水彩のスケッチをする。まずは４Ｂ鉛筆で。青い海を船が行く。
１０
お腹が痛い。公園の公衆トイレが見つかった。駈け込む。間に合った。公園には誰も人影がない。
何を喰ったのだ？ 下腹がしくしく痛む。
しかし、これくらいを恐怖（くふ）とはすまい。僕は仏陀の教えの法華経を読む者である。
９
僕は？
僕は花粉症。マスクをしているのだが、鼻水が垂れる。マスクを外してちり紙で鼻をかむ。クシャミが止まない。目蓋が痒い。口の息でマスクがなま臭くなる。
８
行くところ行くところに、ハクモクレンの白い花。美しい花々。
花が咲き誇って、この世を美しく荘厳（しょうごん）している。
７
生きている内に涅槃が届くということはないか。
生きている内に安らいで生きられるのなら、そこは、現世の浄土である。
６
死者にニルバーナの涅槃が届けられる。「む・う・くふ」の寂滅界に往生する。
涅槃界は無有恐怖（むうくふ）の安堵の世界である。
此処は安らぎに満ちている。
５
怯（おび）える。震え戦（おのの）く。
生きて、様々な苦しみ悲しみに震え戦く。
死んだらどうなるだろうかと怯える。
心配をこまごまと集めて来て、暮らしの中に貯え込む。
不安が昂じていたたまれなくなって、仏陀に縋る。
