我々一人一人は、長い目で見て、いや短い目で見ても、よりよい方へよりよい方へと導かれている。そうは思えなきときがたびたびあるのだけれど。ここはわたしが通っていかなければならないところであった。ここを通り過ぎると新しい広い大きな道に出る。その間が暗く細く小さく、不安をかこつのだけれど、ある日此処を通り過ぎる。そしてああそうだったのかと合点することがある。ああ、結局は導かれていたのだなと思う。ここへ出てみてやっと嬉しくなる。己の判断の小ささが領下される。わたしの小さな判断では、大きいところは見えないのであるから、これは致し方がないのである。だからこそ大きな大きな判断の主に委ねておけば、何事も首尾一貫して、よりよい方へよりよい方へと案内をされていたのである。
泰山朴が大輪の白い花を開いた。亭々とした大木である。余所様の家の庭である。美しい。はっとさせられる。この世のものではないように思う。でも間違いなくこの世に咲いている。翻って考える。泰山朴がこの世を別の世にしているのではないか。この世でないなら、ここは浄土である。あまつさえホトトギスが渡ってきて鳴き出している。しきりに鳴き出している。それがまたこの世を別の世にしている。楽しく美しい世界にしている。
現世利益(げんぜりやく)とういのは現在完了の受け取りです。これから先に得られる利益ではなく、今現に此処で受け取っている利益、様々な様々な利益をこの目で確認することのように思われます。ですから「これこれのものを下さい、お願いします」的請求書を突き出すことではなく、「これこれのものを頂きました、有難うございました」的領収書を差し出すことに近いのかなあ。領収書といっても代金を支払ったことはないのですけど。でもそのことにさえ気が付いてはいないのです。みんな当然と思い込んで、疑ってもいません。今日吸う分の空気を確かに満額頂きましたって言ったことすらないんだものね。でもわたしたちは生きている現世に堂々と利益を受けて暮らしています。
菊池川沿いにある植木温泉のあちこちを走り回った、自転車で。自転車は車に積んできた。車輪が小さい。小型で軽い。でも変速ギア付き。早朝の菊池川は靄がかかっているようだった。犬を連れた人、散歩の人、ジョギングの人とすれ違った。おはようございますの挨拶を交わした。朽ちかけた古い神社にも参詣した。公共の湯も数軒見つけた。入ればよかった。
朝が早くて旅館の玄関がまだ施錠されていたので、こっそり解錠して出た。履いていく靴がどこにしまってあるかわからなくて、宿の雪駄を突っ掛けて出た。自転車には乗りにくくて困った。でもともかく見知らぬ町へ来て爽快な朝のサイクリングができてよかった。
おはようさん。夜が明けています。この世のあらゆる活動が始まります。わたしもここに加わります。わたしは細々ですが、細々で許されています。後は眺めていればすみます。うっとりうっとりしていれば、済んで行きます。褒めて褒めて讃えて讃えていればいいのですから、ことは簡単になりました。我が事で喜ばないでも人事で喜べたらいいのですから。我が事の喜びも人事のそれも変わりはありません。楽になりました。それに飽いたら自然の恵みを讃えていればいいのですから。
