ぬえの能楽通信blog

能楽師ぬえが能の情報を発信するブログです。開設16周年を迎えさせて頂きました!今後ともよろしくお願い申し上げます~

根津美術館で―虎屋の雛人形と雛道具―展

2006-03-08 03:48:50 | 日本文化
この記事は ふゆさんがミクシイに書かれた日記を読んで、せっかくの機会だから、と思ってこのブログでもご紹介させて頂きます。情報さんくす>ふゆ

根津美術館で『雛祭り ―虎屋の雛人形と雛道具―』と題された展覧会が開催されています(4/9まで)。虎屋さんの雛人形の豪華さは有名で、画像は美術館のサイトでも一部見ることが出来ます。

根津美術館~展覧会のご案内

ここで能に関係する点と言ったら、ふゆさんも指摘されていましたが「五人囃子」についてでしょう。

もともと雛人形というのは天皇家の婚礼を模したもので、「お内裏さま」という名前がすでにそれを表しているし、その「お内裏さま」かぶっている冠の「纓(えい)」が多く垂直に立ち上がっている「立纓(りゅうえい)」である事も、これが天皇である事を意味しています。

纓をつけた冠は能でも「初冠(ういかむり)」という名で『井筒』『杜若』『融』『玄象』『須磨源氏』などのシテや『花筐』の子方にも広く使われる公家の男子を表す冠で、能では纓は後ろに垂れ下がった「垂纓(すいえい)」か、纓を丸めた形の「巻纓(けんえい)」の二種が使われます。前者は文官の用で、後者は武官の用、と有職で定められていたもので、武官が「巻纓」なのは近衛兵として警護するときに、有事の際には纓が邪魔にならないようにまとめておいたのでしょう。さらに武官は「老懸(おいかけ)」と称する馬の毛で作った扇状のものを両頬に着けます。雛人形では下段の「随身」が武官の姿ですね。在原業平は武官だったので、能の『井筒』や『杜若』で業平の形見の冠として巻纓・老懸を着用するのはこういう理由からです。

さて天皇は文官と同じ垂纓を着用していたものが、江戸期には文官とは別格にするためだったのでしょう、天皇だけは「立纓」を着用するようになりました。雛人形の「お内裏さま」はまさにこれなのですが、実際には天皇も以前の通り「垂纓」を着る場合もあって、雛人形でも「垂纓」のものも多いのです。

こうして見ると、雛人形は最上段に新郎・新婦がぼんぼりを従えて座し、すぐ下にはそれにかしずいてお酌をしたり世話をする「三人官女」がいて、その下には典礼音楽を奏する「五人囃子」、さらに嫁入り道具の数々がそれに続き、下段には婚礼の御殿の外で警備をする「随身」、部屋に運び込めない大きな嫁入り道具~箪笥とか鏡台、さらにはそれを運んだ牛車が庭前に控えている。。という図式が見えてきます。女の子が生まれた際に雛人形をあつらえて飾るのは「幸せな結婚」を祈念する両親の気持ちの表れなんでしょうね。

で、「五人囃子」なんですが、この虎屋所蔵の雛人形では雅楽を奏する伶人の姿です。笙・篳篥・龍笛の三管に鞨鼓・楽太鼓を入れて五人。上記の通り宮廷の婚礼なのだから、これが本来の形なのですが、近来 我々が普通に頭に思い描くのは打楽器を持った「五人囃子」の面々でしょう。これは能の囃子方の姿で、笛・小鼓・大鼓・太鼓の四人に、楽器を持たずに扇を構えている人がひとり。。これは謡を謡っているのです。江戸期以後、能が幕府の式楽となってから、雛人形もその影響を受けて変わっていったのでしょう(仄聞するところでは関西では雅楽の五人囃子の方がいまでもポピュラーだとか。。ホントですか?)。

虎屋さんは羊羹で有名な和菓子の老舗で、この豪華な雛人形を所蔵しているのですが、なんでも長らく一族に女の子が生まれなかった、とかで飾る機会がなくお蔵にしまわれたままの状態だったのが、それではもったいないので数年前に赤坂の本店で展示された事がありました。今回の根津美術館での展示は、それらの機運が高まって実現したのでしょうか。いずれにせよタイムリーな企画ではあるし、眼福まちがいない展示なので、ご都合のつく方はぜひ観覧をお勧めします。

ところで雛人形について、別の考察があります。これも面白いのでちょっとご紹介。

元来、人形というのは すなわち「ひとがた」で、人間の身代わりとして災難を一身に引き受けるもの、という考えがあります。「流し雛」なんてのはその好例で、「災いの神」を「神送り」する神事だった、というのです。この習慣と豪華な雛人形とは、ちょっと結びつかないよなあ、なんて ぬえは考えていたんですが、それについて ぬえに教えてくれた方がありまして。いわく「雛人形も節句が済んだらすぐに仕舞わないと嫁に行きそびれる、なんて言うでしょう?」。。つまりしまう事がすなわち川などに「流す」事に通底するんだという。。雛人形ももとは立ち雛や紙雛だったらしく、廃棄される事が前提だったらしい。なんだか恐ろしい。。

や~まはしろがね

2006-03-05 17:42:13 | 雑談
行って来ました富士山のふもとのスキー場。
はいはい、そこのあなた。「ああ、あのお手軽スキー場ねー」と言わないように!
あ、そこのあなた。「えー?もう春なのに雪あるの? あ、人工雪ね」と突っこまないように!

しかし久しぶりだ。。スキーなんてやったのはもう数年ぶりではなかろうか。。ぬえはなぜかスキーは子どもの頃に始めたので、それほど不得手ではないんだけれど、大学時代にスキーが流行った頃には、これまたなぜか あんまり関心がなくなってしまって、それからは内弟子になったので、遊びからは10年ばかり遠ざかってしまいまひた。だから あんまり上手くもない。

今回は昔とスキーの形が変わっていたのに驚きましたー。(@_@;)いつの間に。。
そんでまた、やっぱりスノボもやってみたいなー、とも思ったのでした。転ぶときは顔から。。ってのが怖いけど。

。。ともあれ、ぬえの正月休みはやっと形を成しましたー。よかった よかった。

で、帰宅してまた撮り貯めたビデオをDVDに焼く、という永遠に続く苦行のような作業に戻ったのでした。(;_:)

。。と思ったら、近所にお住まいのワキ方からお電話を頂いて、ご結婚記念のパーティーにお呼ばれしてしまいました。。しかも明日! なんだか急なお話でしたが、お舞台でお相手をお願いする機会も多いお仲間なので、喜んで参上させて頂く事に致しました。こぢんまりしたジャズライブのお店が会場だそうで、能楽師は本当にご近所の方ばかりが参加するらしい。ああ、なんだか楽しみですー (^。^)

ひなまつり~ (#^^#)

2006-03-04 02:01:35 | 雑談
。。当然 姫の事でございます。

昨日は稽古の帰りに「ひなあられ」を買って帰って、マリカ姫に差し上げました。
姫はポリポリポリっと召し上がりました~♪

姫は若いお嬢様なので、ほかにも「干し芋」やら「チョコレート」やら「パン」やら「イチゴ」やら「ポテトチップ」やら「クッキー」やら。。お召し上がりになりまする。ジャンクフード好きらしい。。もちろん健康にあまり良くないかも、なので、ちょっとしか差し上げませんが。。

はあぁぁ。。梅もほころび始めたし、これ以上 暖かくなっちゃうと そろそろ姫も夜におフトンにもぐりこんで来なくなっちゃうなあ。。 (;_:)

一年中 冬だといいのに~。。 (ToT)

『朝長』。。あ!梅が。。。。咲きやがったっ!!!

2006-03-03 18:04:52 | 能楽
明日はスキー~ と浮かれながら、それでも今日から『朝長』の稽古を始めました。

『朝長』は「三修羅」と言われる大曲で、昔ならば ぬえのような身分では舞う事を許されなかったものですが。。師匠の勧めによって今年の6月3日(土)に開催される師家の別会「橘香会」で上演させて頂ける事になりました!

本当は ぬえ、一昨年 自分の会「ぬえの会」を催して『朝長』をやってみようかと思ったのですが、囃子方の友人に「どうかなあ。。『朝長』」って聞いてみたら、言下に「無理だよ」と言われてしまった。。(ーー;)

まあ、若年で勤める曲ではないでしょうが、でも じつは ぬえは『朝長』が大好きなんです。この「語リ」をいっぺん舞台でやってみたい、と思っていました。結局一昨年の「ぬえの会」は開催さえ断念する結果になってしまったけれど、今年 師匠から別会で一番の能を勤めるようお勧めがあって、候補曲もいくつか示して頂いたところ、なんとその中に『朝長』も入っていました! (@_@;)

もう、一も二もなく飛びついて「『朝長』。。やらせて下さいっ」とお願いして、上演が決まった、というようなワケです。稽古を始めてみて思ったのですが、この曲の前シテの謡が難しいのは当たり前なのですが、沈鬱な前シテとはうって変わって明るく華やかに演じるものだと思っていた後シテも、じつは演じる上では前シテの雰囲気を踏まえている、というか、必ずしもサラリと若々しく演じるようには作られていないようにも感じます。

まだまだ取りかかったばかりなので、これは段々と研究していこうと思います。

。。さて、その稽古を終えて、稽古のために借りている近所の区民館を出たら、どこからか良い香りが。。

ををっ! 梅がほころび始めているじゃないかっ!!

。。明日はスキーなのにぃ。 (/_;)

開花予想!? 潮干狩り情報!?

2006-03-02 22:00:31 | 雑談
正月から続いていた催しもようやく一段落して、ぬえはいま正月休みモードです。
もうずぅ~~~~~~~っと懸案になっていた「撮りためた能のビデオをDVD化する!!」という大事業に取りかかっています。捨てる!捨てるぞぉ、VHSテープの山!

そんで「正月休み」ならば やっぱスキーだろっ、とステレオタイプな単純発想で計画を練っていました。で、ヤフオクでタイヤチェーンも買い込んで、じつは先週の日曜にスキーに行くつもりだったんです。ところが、そういう時に限って、そーいう時に限って、雨、なんですよねえ。。(/_;) そのうえ天気予報では「記録的な降雨量」「落雷にご注意」なんて言ってる。なんじゃそりゃっ。?(゜_。)?(。_゜)?

。。そんなワケで(゜-゜)b

今度の土曜か日曜にスキーは延期にしたのですが、またしても中止に追い込まれるんじゃないか、と、もうビクビクしながら天気予報を見てみたら。。

「開花予想」「潮干狩り情報」なんてイヤ~な予感の言葉がテレビから流れてる。。

ああ。。

『能楽タイムズ』で褒めらりた

2006-03-01 22:47:40 | 能楽
昨日 ぬえも購読している能楽界の月刊新聞『能楽タイムズ』の3月号が届いておりました。

能評のページを見ると、1月の舞台の批評が載っていました。。ををっ、研能会での『翁』付き『賀茂』も載っている。。ややっ! ぬえもほめられているでわないか。「千歳」も「天女」も総じて好印象だったようで、よかったよかった。かなり余念なく稽古したつもりなので、結果が出せたようで安心しましたー。

。。と言ってもこの能評は『賀茂』のツレの役を混同していて、前ツレまで ぬえが勤めた事になっている。。またその前ツレが、「素働」の小書の時に前シテに代わって中入で踏む「来序」について、「シテの分極と考えれば格が上がっても悪くない」と書かれてあるけれど、それならば後ツレ 天女が床几に腰掛ける方がよっぽど特別な演出なんだけどなあ。

ところで同じ『能楽タイムズ』の一面のトップ記事は「野村萬斎氏が二賞を受賞」というものでした。二賞とは『紀伊国屋演劇賞』と『朝日舞台芸術賞』だそうで、萬斎氏は相変わらず活躍していますね。

少し前に ぬえは公演地へ向かうバスの中で萬斎氏の隣りの席になって、1時間半 ずっと彼と語り合った事があります。

ぬえも外国の大学などでひとりで話したり略式ながら公演をする機会が比較的多い方なので、萬斎氏とは主に海外での活動について話したように思いますが、その時 ぬえは「ははあ、この人は公演だけじゃなくて、古典芸能に親しんでもらう事などについて とてもしっかりとした考えを持った人だな」と感心しました。会話もかなり盛り上がって、ぬえもいろんなアイデアを彼からもらいました。