のすたる爺や

文明の果てなる地からのメッセージ

月下氷人

2013年06月24日 | 日記・エッセイ・コラム

 「月下老」の話。

 唐の時代に「韋個」という青年がいました。一人身の気軽さもあって方々を旅して宋城という街に来た時のことです。もう夜も更けて通りには人影もなく、青い月の光が待ちに立ち並ぶ家の屋根を照らしていました。

 ある街角で韋個は不思議な老人を見かけて立ち止まりました。老人は地べたに座って、月の明かりでなにやら書物をひもといて調べものをしています。

 「こんな夜更けに、何をしておられるのですか?」韋個は老人に尋ねました。「わしのことかな?わしは結婚について調べているんだよ。」

 韋個は老人の傍らに置かれた袋が気になりました。「その袋の中は何が入っているのですか?」 老人は「これかね?ほら、赤い縄が詰まっているんだよ。この赤い縄が夫婦をつなぐ縄じゃ。ひとたびこの縄でつながれれば、二人がどんなに遠く離れようとも、たとえ仇同士の仲であろうとも必ず結ばれるんじゃよ。」

 「私はまだ一人身です。私の妻となる女性は今どこにいるのでしょうか?教えていただけないでしょうか?」韋個は老人に頼みました。

 「おまえさんの妻になる女性なら、この宋城におるぞ。ほら、ここを北に行った通りで野菜を売っている陳というばあさんがおるだろう、そのばあさんが抱いている赤ん坊だよ。」

 老人に言われたものの韋個には納得できる話ではありません。赤ん坊が未来の妻だなんて馬鹿にされたような気分になり、信じることもなくその場を立ち去ってしまいました。

 14年の歳月が流れました。韋個は相州という土地で官史になっていました。やがて、韋個にも縁談が持ち上がり、都の太守の娘と結婚することになりました。歳は16-7の美しい娘でした。

 幸せな結婚生活が続き、やはり、あの老人の予言は嘘だったんだなと韋個は思っていました。ある夜、韋個は妻に生い立ちを尋ねてみました。

 「実は、私は太守の養女なんです。実の父親は私がまだ赤ん坊の頃、宋城という町で役人をしているときに亡くなりました。でも、優しい乳母がおりまして、青物を売りながら私を育ててくれました。陳ばあさんという乳母です。あの青もの売りのお店を今でも思い出します ・・・・・・ あなた、宋城をご存知なのですか!あの町の北のほうに陳ばあさんの店があったんですよ…」

 「氷上人」の話。

 晋の時代に索耽という占い師がいました。あるとき、令孤策という男が夢占いを頼みに来ました。

 「夢の中で私は氷の上にたっておりました。氷の下には誰かがいて、私はその人と話をしました。」

 索耽は「氷の上は陽、氷の下は陰を意味します。陽と陰が語り合うということは、あなたが結婚の仲立ちをしてうまく行くことの前兆だな。氷のとける頃にその話はまとまるよ。」と予言しました。

 その言葉の通り、しばらくすると令孤策のところに太守からたのみがきました。太守の息子と、張家の娘を結婚させたいがその仲人になってくれないか。

 令孤策が両家の間をとりまとめ、そのカップルはめでたく結婚するはこびとなりました。式を挙げたのは春も半ば、氷が音を立てて河を流れていく頃でした。

 「月下老」と「氷上人」という二つの縁結びの物語が一つになってできた言葉が「月下氷人」。仲人さんのことですね。

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