ノエルのブログ

シネマと海外文学、そしてお庭の話

秋の理由

2016-11-06 09:54:38 | 本のレビュー

「秋の理由」 福間健二 思潮社。

ご近所のNさんからお借りした詩集。著者の福間健二さんが、Nさんの義兄(お姉さまのご主人)で、萩原朔太郎賞まで受賞している詩人ということも今まで知りませんでした。

さて、この「秋の理由」――福間さんは、ずっと自主製作映画を撮り続けていらしたそうなのですが、このたび公開される映画の名もずばり、このタイトル。
寺島しのぶ出演ということで、メジャー公開(こんな言葉あるのかな?)もされるというのだけど、詩集そのものは映画のストーリーとは直接関係なくはない、現代詩。

正直言って、「詩集」なるものをほとんど読んだことがなく、コクトーの「私の耳は貝の殻。海の響きを懐かしむ」とか、ランボーの「見つけたぞ。何を? 永遠を。それは太陽に溶ける海だ」と言ったものしか口をついて出ない私。
この詩集も、とても「わかった。理解した」といった範疇にはありませぬ。でも、著者の若い頃書かれたものに違いない、と思わせるみずみずしさページの間からこぼれおちてきて、「ああ。何だかいいな」と思わせるものが。

詩とは頭で理解するものではない。感覚で、五感で、手の平に熱を、冷たい水を受けとるように感じ取るもの……なぜか、十代の頃、小説の詩的なタイトル(例えば、フランソワーズ・サガンの「冷たい水の中の小さな太陽」とか「ボルジア家の黄金の血」といったもの)に魅せられ、詩的な言い回しこそ最上と思っていた文学少女時代を思い出してしまいました。
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季節風大会

2016-11-02 23:15:53 | 児童文学

先週週末、東京へ行ってきました。 「季節風大会」に初参加するため。

「季節風」とは、なんぞや? と言われそうですが、実は私も昨年入会するまで、この同人誌の存在も知りませんでした。
全国の児童文学の書き手が、年一回、東京は本郷に集結して1泊2日の合宿をする――それが、「季節風大会」というわけなのですが、行ってみて驚いたのなんの。
かなりのカルチャーショックでありました。

東京大学近くの古~い、古い旅館で催されるというので、すぐ足を運んだ私ですが、最初は旅館(鳳明館というところ)の佇まいに、びっくり。だって、あんまりに古びて、時代を超越してるんだもの。「こりゃ、絶対戦前の建物だわ」と確信し、聞いてみたら、戦前はおろか明治の頃にさかのぼるのでは? のお言葉。

そして、廊下には、レトロなというか、時代から取り残された風情のトイレと洗面所が……洗面所は長~いタイルに蛇口がずらりと並び、コップが上にいくつも並べられている。真正面には、窓があり、その向こうにはこじんまりした庭が見える。
そして、原稿の合評をする部屋(泊まる部屋でもある)は古びた畳がしかれ、机をギシギシに並べて、白熱の論評が行われるのでした。何だか、昭和の昔に帰ったみたいな感じ。

はっきり言って、生原稿を読むのって疲れます。私も初めて書いた長編に少し手を入れて220枚近くの枚数になったのですが、それ以上の枚数の方が何人もいらっしゃいました。生原稿というのは、精製されていない穀物のように、「生」のままの香りが濃厚なのかもしれません。
ジャンルごとに分科会という、グループに分かれ、それぞれが10人くらいで構成されています。互いの原稿を容赦なく、手厳しく批評しながら、気持ちの良い空気が流れていたのは、初対面であるにもかかわらず、「同志」だという意識の表れだったのかも。


これは、あのケロリン風呂桶であります。この旅館には地下に降りるみたいにして、古色蒼然とした木の階段があり、女性用とさししめされている方には、何と「ローマ風呂」の表示が! ローマ風呂とは何ぞや?と入浴を楽しみにしていた私。 答えは……円形に黄緑色のタイルが張られた大衆浴場。

そりゃ、古代ローマの公衆浴場のように壮麗なものを期待していたとは言いません。でも、「円形」というところだけ、確かにローマを彷彿とさせて、思わず笑ってしまいました。
そして、ここで初めて使った「ケロリンおけ」。 黄色い洗面器なんだけれど、何とも愛らしく、ファンになってしまいました。
名前だけは知っていた「ケロリン」に会えたのも、うれしいですね。

     
翌朝、二日目の合評が行われる前、作家の方に連れて行って頂いた東京大学への散歩。昔、訪れた時も思ったけれど、赤門は重厚で、朱色が美しい。
日曜日のせいもあって、学生の姿はまったく見えません。「三四郎池」への道を降り立つと、雑木林のような木々が覆いかぶさって、池というよりまるで深い「淵」のようです。
ここも、昔来たことがあるのですが、こんなところだったかな? 池の水は薄緑によどんで、太った鯉(東大生が、エサをやっているのだろうと推測)が幾匹も、悠々と泳いでいました。

時がとまったような旅館と、そこで行われる長時間の合評。聞けば、季節風には、今、200人ちょっとの会員がいるのだそう(38回目の大会というから、ずっと続いてきたのですね)。 世界は広いとしみじみ思います。

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