二草庵摘録

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日本史を縦に輪切りする ~本郷和人「日本史のツボ」を読む

2022年02月13日 | 歴史・民俗・人類学
本郷和人さんは、近ごろの歴史学者のなかで興味をもっている人のお一人。わたしより大分若く、東大資料編纂所の研究員。ご専門は、日本中世史、著名な石井進さんの教え子の一人である。
このあいだは「北条氏の時代」を読んでいる。今回はBOOK OFFで手に入れた2018年刊行の「日本史のツボ」である。

あらゆる歴史は現代史である、と割に素朴に信じていると、ご自身がおっしゃっているように、くだけた語り口は読みやすく、すらすらと最後のページへたどり着いた。
「歴史は暗記科目じゃありません」
・・・だとしたら、こんなにつまらない科目もないだろうねぇ(ノω`*)

《「天下分け目の関ヶ原」は三度あった
律令制は「絵に描いた餅」
応仁の乱、本当の勝者は?
銭が滅ぼした鎌倉幕府
皇位継承 ヨコとタテの違い
川中島の戦い、真の勝者は武田信玄
貴族と武士の年収は一桁違う?
などなど、目からウロコのトピックも満載》BOOKデータベースより

第一回  天皇を知れば日本史がわかる
第二回  宗教を知れば日本史がわかる
第三回  土地を知れば日本史がわかる
第四回  軍事を知れば日本史がわかる
第五回  地域を知れば日本史がわかる
第六回  女性を知れば日本史がわかる
第七回  経済を知れば日本史がわかる

設定したのは、天皇、宗教、土地、軍事、地域、女性、経済。この7つのキーワードをめぐってこの講座は展開されていく。
はやい話、7回連続の一種の市民講座なので、日本史を知らない人を対象にした啓蒙の書である。
大学教授も、たこつぼにこもって専門的な研究さえしていれば生活が保障されるという時代ではない、とご自身がおっしゃっている。

えーと、たとえば富本銭、和同開珎が日本最初の貨幣であるという見解に懐疑的な本郷さん、こう述べている。
《何故コスト(製造コスト)でいえば二十円の紙切れを、私たちは一万円の価値があるとみなして、日々交換しているのでしょうか? それは①日本政府が一万円の価値があるというお墨付き与えて、かつ、②私たちがそれを承認して使用しているからです。前にも述べましたが、お金は使われるからお金なんです。誰も使わなかったら、一万円札には二十円の価値さえないでしょう。》(経済を知れば日本史がわかる。190ページ)

したがって、本郷さん、中国から大量に輸入され、全国で使用された銅銭こそが江戸時代半ばまで日本の“銭”であったと説く。
また、1225年1250年のあいだに、土地を売買する証文が、○○石という表示から、○○貫と銭による表示に変わっていることに注目している。
こういった知見をいくつも披露され、本編は目からウロコの本音トークとなっている。
第一回、第四回、第五回、第六回あたりが、わたしにはことにおもしろかった。
講義の中身は市民講座レベルなので、ときおりジョークを飛ばして読者を笑わせてくれる(ˊᗜˋ*) 

あまり堅苦しいと、出席者の多くが居眠りする危険があるのだろう。
講談社学術文庫には、
日本の歴史
天皇の歴史
この二つのシリーズがあり、わたしは愛読しているのだけれど、ずいぶん違ったいわば“初心者”相手の本である。学術文庫クラスのレベルを期待したら「物足りない」ことになる。

日本史の流れを重視しながら縦に輪切りにし、トピックでつないでいく手法が、斬新といえば斬新。
そんな印象を抱いた。



評価:☆☆☆☆

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