二草庵摘録

本のレビューと散歩写真を中心に掲載しています。二草庵とは、わが茅屋のこと。最近は詩(ポエム)もアップしています。

静かな時間が流れてゆく

2012年06月01日 | Blog & Photo
   ***この日記=blogをマイミクいーさんに捧げます***



『つまり、愛は記憶の中に育つ。写真はその記憶をときに鮮明に思い出させる。愛はより深まり、世界をさらに愛おしいものにさせる。
写真を撮るのは、世界との愛ある関係をたしかめ、あるいは取り戻し、深める行為なのだ。』
――藤田一咲「愛ある記憶」(「ハッセルブラッドの日々」より/エイ出版社)


あー、そういうことなのか?
よほどの変人でないかぎり、なにものかへの愛なしに、この世を生きながらえていくことなんてできない。藤田さんのこのことばを読んだとき、こころの奥から、なにか音楽のようなものが聞こえてくるのを感じた。

高崎を、そして昨日は、前橋を運動がてらカメラ散歩しながら、わたしはこのことばを反芻していた。そうしていろいろな音楽が聴きたくなり、YouTubeで、その「聞きたい歌」を検索してみた。そうしたら、つぎの二曲が浮かび上がってきた。

☆「愛しき日々」堀内孝雄
http://www.youtube.com/watch?v=abdoobSe3kg

☆「群青」谷村新司
http://www.youtube.com/watch?v=svVsV6hUqd4

両方ともたぶん映画の主題歌・挿入歌として作曲されたものだろう。
その映画は観てはいない。むしろ、この歌に耳をすまし、眼をつぶって、背景のひろがりに想像力のつばさを羽ばたかせるのをわたしは好む。

いくさで死んでいったのは、なにも「郷土の英雄たち」ばかりではないだろう。
われわれは、いずれは死んでこの世から消えてゆく運命をかかえた人間として、いま、ここにいる。センチメンタルでも、ヒロイックでもない。ある年齢を過ぎ、人生の経験が深まっていくと、人のまなざしは、ささいなことに、こころの震えを感じるものである。あわただしい日常の中にひっそりとかくれた、音のない音楽・・・。

トップに掲げたのは、昨日の前橋散歩で見かけた光景で、この日のベストショット。
白いワンピースを着た女性が、カフェでひとり、紅茶を飲みながら、本を読んでいる。
「あれは、なにを読んでいるんだろう?」
わたしは足をとめ、シャッターを押す。X10は無音にして使うことが多いので、シャッター音は、わたしには聞こえない。ここは前橋の文学館にほど近い紅茶の専門店。
わたしも過去に・・・そう、十数年まえに、何度か訪れた記憶がある。

背景のヤナギは、広瀬川河畔のヤナギで、この下を豊かな水が流れている。
前橋は詩人、萩原朔太郎を生んだ町である。



このオブジェは、文学館のファサードに置かれた朔太郎愛用のマンドリン、そしてシルクハットのブロンズ像。





わたしはわたしの中から聞こえてくる音楽や、町の鼓動に耳をすますようにしながら、時間が許すかぎり、ふらふらと前橋の町をさまよいあるく。「この日」も、たちまち、過去になってゆく。
「もう少し時がゆるやかであったなら」
「もう少し時が優しさを投げたなら」
「もう少し時がたおやかに過ぎたなら」

ことばが、こころのやわらかな部分にくい込んでくる。わが愛しき日々の静かな時間が流れてゆく。



『写真を撮るのは、世界との愛ある関係をたしかめ、あるいは取り戻し、深める行為なのだ』
うーん、藤田さん、たまにはいいこというねぇ・・・な~んてからかってみたくもなるけれど、いまこれを書きながら、いろいろな過去の出来事が脳裏を、障子に映る影絵のように横切ってゆく。カメラをもったひとりの男が、ある場所で、ふと立ち止まる。
彼の指がかすかに動く。
ほんの数秒。そして彼は、何事もなかったかのように、また歩き出す。

愛は、・・・記憶の中に育つ。




※いまこの日記を読み返し、その内容がつたないながら惜別の譜になっていると判断したので、先日奥様を亡くされたマイミクいーさんに捧げます。いーさんの新たな出立(旅だち)のために。
「愛しき日々」は白虎隊の少年少女のはやすぎる死を鎮魂するための歌です。しかし、町を歩いていると、そこは死者たちの町であり、鎮魂の碑がそこかしこに、ひっそり佇んでいるのを眼にします。「愛は・・・記憶の中に育つ」のですね。

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