二草庵摘録

本のレビューと散歩写真を中心に掲載しています。二草庵とは、わが茅屋のこと。最近は詩(ポエム)もアップしています。

「闘うための哲学書」小川仁志/萱野稔人(講談社現代新書)2014年刊 レビュー

2018年02月04日 | 哲学・思想・宗教
生きるとは何ものかと闘うことであるという意味で、このタイトルが選ばれたのだろう。
入門書とは謳っていない。しかし、やや毛色の変わった入門書であることは間違いない。

本書で取り上げられている「哲学書」はつぎの22冊。
1.「饗宴」プラトン 2.「ニコマコス倫理学」アリストテレス 3.「方法序説」デカルト 4.「リヴァイアサン」トマス・ホッブズ 5.「統治二論」ジョン・ロック 6.「社会契約論」 ジャン=ジャック・ルソー 7.「国家論」スピノザ 8.「永遠平和のために」イマヌエル・カント 9.「法の哲学」ヘーゲル 10.「自由論」 11.「職業としての学問」マックス・ウェーバー 12.「存在と無」サルトル 13.「全体性と無限」レヴィナス 14.「技術への問い」ハイデッガー 15.「監獄の誕生」ミッシェル・フーコー 16.「悲しき熱帯」レヴィ・ストロース 17.「イェルサレムのアイヒマン」ハンナ・アーレント 18.「正義論」 19.「正しい戦争と不正な戦争」マイケル・ウォルツァー 20.「学問のすすめ」福澤諭吉 21.「善の研究」西田幾太郎 22.「風土」和辻哲郎

オビにつぎのようなキャッチコピーがある。
《古典は、頭を鍛え人間社会を学ぶ最強の教材だ! 哲学書はこんなにもおもしろい! ふたりの行動する哲学者が、22冊の名著を語り尽くす》(表表紙)
《愛するとは? 生きるとは? 働くとは? 権力とは? 悪とは? 正義とは? 文明とは? 日本とは? 知的興奮必至の大激論!》(裏表紙)

じつははじめに白状しておくと、わたしはここにピックアップされた書物は、ほとんどまっく読んでいない(^^;)
書庫の奥にうもれているものは存在する。あるいはビギナー向けの解説書は読んだことがある。
そういった体たらくなので、これまでハードルが高くてとても「読めない」と尻込みしていた書物へのとっかかりが得られるかもしれないと期待して、この対談を手に取ったわけである。
これらが最高の哲学書という意味ではなく、21世紀の日本に生きるわれわれが、物事の一番根本に返って考えるための22冊が選ばれている。お二人の問題意識が、これらの書物にとりあえず集約されている・・・とわたしはかんがえることにする。
ではなぜ古典を取り上げるか?

「時代制約的なテキストをどこまでアクチュアルに読めるかは、やっぱり読み手であるわれわれにかかっているんですね」「時代を超えた読み直しができるテキストこそが古典として残っていく」(萱野発言 189ページ)

これは非常にまっとうな意見であろう。古典へと回帰する先人の多くが、ほぼ同様の見解を述べている。
そういう意味で、古典は大半の人びとが忘れたころ、不死鳥のように蘇ってくる。

いまの気分では、人生論のたぐいは読みたくはないので「愛するとは? 生きるとは?」という問いは棚に上げ、むしろ「権力とは? 悪とは? 正義とは? 文明とは? 日本とは?」といった角度から、問題の根本を洗い直してみたいとかんがえる。
前者と後者は、もちろんそうスッキリとは分離できない。相互に浸透しあっている。

たとえば、最近のわたしの重要なキーワードの一つは「国家」である。

「(カントは)要は、国家というのは内戦の停止状態なんだと述べている」
「内戦の停止と国家の成立は同じコインの裏表」(萱野発言 本書154ページ)

これにはちょっとギョッとさせられた。
まず頭をよぎったのは、世に名高い関が原の役。徳川260年の平和が成立するためには、あの戦争が是非とも必要であったのだ。
また明治国家の成立には戊辰戦争が必須であった。多くの人びとが血を流し、傷つき倒れることで、平和を贖う。太平洋戦争は外部との戦いであるから、性格がまったく違う。
「内戦の停止」としての国家の形成と、平和の実現。
そうか、そうだったのだ・・・とあらためて思索にふける。そういったヒントが本書のいたるところにバラまかれている。

お二人とも1970年生まれの成熟した現役世代。
21世紀というグローバルな時代の真っ只中で、哲学者、社会学者として仕事をしている。
本書は「対談」のプラス面が十分発揮されていて、そこがおもしろい。それぞれの意見や基本思想が違うから、激論もあえて辞さない。そういう構えが、この本をすぐれたものにしている。

だれがいいだしたか知らないけれど「プチ哲学」という表現がある。本書もそれに近い味わいがないではないが、対談によって深められていく認識のプロセスに、見逃すことのできない論点が確固として存在する。
古臭いたとえを使えば、22冊の哲学書は22個の知恵袋。
ビギナーにはハードルが極めて高い・・・と思われているその袋の紐を、少しゆるめて、中身を見せてくれる。
そうか、そうなのだと納得できる場合があるし、そうでない場合がある。

さてそう思ったあなた、つぎのステージはここで取り上げられた古典と直に向き合うことですよ、と本書が教えている。
ただし、22冊ではなく、たとえば12冊に絞り込んで、紙幅をたっぷりと割き、議論をもっと深めるという方法もあったのではないか?
哲学科の学生ならどうかわからないが、一般の初心者にとっては22冊はとても数が多すぎて、絞り込む前にメゲてしまうかもしれない。

哲学・思想のジャンルに疎いわたし的には、9冊目「法の哲学」10冊目自由論」15冊目「監獄の誕生」16冊目「悲しき熱帯」17冊目「イェルサレムのアイヒマン」等がとても興味深く読めた。
価値観の違うお二人がときに激論を交わす、こういうガイドブックもあるのだ|・∀・|ノ*~



評価:☆☆☆☆

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