二草庵摘録

本のレビューと散歩写真を中心に掲載しています。二草庵とは、わが茅屋のこと。最近は詩(ポエム)もアップしています。

仏教の叡智に学ぼう~わたしは仏教徒・・・

2021年02月05日 | 哲学・思想・宗教
■宮元啓一「仏教誕生」講談社学術文庫(2012年刊 原本はちくま新書1995年)


わかりやすい本だが、内容が十分展開されず、しばしば尻切れトンボで終わっているのはどうしたことか?
本当の初心者に向けて書かれている。しかも思弁的な議論はおこなわず、平明な表現に終始。
初期仏教は、昔は原始仏教とよくいわれた。初期仏教も原始仏教も、意味するところは同じである。

釈尊・・・つまりブッダの生涯と思想に焦点を合わせてある。
宮元先生によると、ブッダの思想をひとことでいうと、
《生のニヒリズムに裏打ちされた経験論とプラグマティズム》であるという。

《古代インドに生まれ、今もアジアの人々の暮らしに根づく仏教。インドの宗教的・思想的土壌にあって他派の思想との対立と融合を経るなかで、どんな革新性をもって仏教は生まれたのか。その生成の場面に光を当て、比較思想研究の手法によって「経験論とニヒリズムに裏打ちされたプラグマティスト」釈尊の思想の本質に迫る。インド思想史研究の意欲作。》(BOOKデータベースより)

仏教はどのようにしてインドで誕生したのかは、昔からたいへん興味があった。そのため、インドへもいった(友人二人と一週間)。
インドの大地を、この目で見たかったのである。しかし、デリー、ジャイプール、アグラの三都市を観光タクシーで回っただけ。
むろん現在インドはヒンドゥの社会であり、仏教の伝統と教えはは13世紀ごろインドではほぼ滅亡している。
わたしたちが巡った三都市は、イスラム文化の繁栄が栄華のあとをとどめている地域であった。
インドの大地をこの足で踏みしめただけで満足感はあった。雨季だったので、30-35度の蒸し暑さ、そして雷雨と停電を、久しぶりに経験させてもらった^ωヽ*

しかし、はっきりいえば本書は初心者向けの啓蒙書の範囲を一歩も抜け出るものではない。
宮元啓一さんの本は「ブッダ(人間謎辞典シリーズ)」(光文社文庫)も持っている。こちらもいたって平明簡易な本で、遺跡や仏像の写真が豊富に掲載されている。

第一章「仏教前夜」には貴重な記事があり、参考になった。
また最後に「さらに知りたい人のために」というブックガイドがあるのはありがたかった。
中村元さんの教え子なので、中村元博士の原典からの現代語訳「ブッダのことば スッタニパータ」(岩波文庫)「ブッダの真理のことば 感興のことば」(岩波文庫)等を推奨しておられる。

この機会に仏教をめぐる言説のいくつかを検証しておくのも悪くないなあ(^^♪ 仏教の本はかなりの数が手許にあるし。



評価:☆☆☆





■三枝充悳(さいぐさみつよし)「仏教入門」岩波新書(1990年刊)


《アジア文化の源流となったインド仏教は、中国、朝鮮を経てわが国に渡来し、日本文化の形成に計り知れない影響を及ぼした。本書は、ブッダを育てたインドの社会的背景、ブッダの出現およびそれ以後の布教活動と思想の変遷、西欧思想との比較、さらにその後仏教が各地に波及していく様を描きながら、現代人のための新しい仏教論を展開する。》(BOOKデータベースから)

入門書と銘打ってあるから、beginner向けのガイドブックと思って読みはじめた。宮元啓一さんが、「仏教誕生」の巻末で推奨しておられたのだ。
第一部 インド仏教史
第二部 インド仏教の思想史
第三部 各地の仏教

この三部構成となっていて、中心はインドにおける初期仏教の歴史と思想の概観である。
思想の解説は難解な表現を多くふくみ、基礎知識がないとついていけなくなる。
元東大教授であった三枝充悳(さいぐさみつよし)先生は、サンスクリット語、パーリ語、チベット語にご堪能なのであろう、語源探索に熱心。
そこから初期仏教の“初期”、つまり仏教誕生の経緯を論証している。
「いやはや」語学に弱いわたしは、ときどき頭を抱えざるをえなかったが・・・。

岩波書店の求めに応じて書かれたものだろうか? 学術研究の成果がたっぷり盛り込まれた硬派な一冊となっているので、たとえばこれを、大学の教養課程で読まされたりしても、かなりな読解力を必要とすると思われる(´Д`)

わたしはこれまで、いたって気ままに、渡辺照宏さんや梅原猛さんなど十数冊の仏教の書籍を読んできた。
にもかかわらず、第二部“インド仏教の思想史”を十分読みこなせてはいない。
仏教の全般にわたる仏教総論であり、概論であるが、学問的な姿勢は、高踏的で、思弁的な内容をふくんでいる。
そのため、読者の理解を助けるために、カントの「純粋理性批判」をひきあいに出して、解説しておられる。カントが苦手なわたしは、かえって混乱せざるを得ない部分があった。

基礎知識をもっている読者は、難なく読みこなせるのかもしれない。
さきの宮元啓一さんによると、中村元・三枝充悳著の「パウッダ (仏教)」(講談社学術文庫)を凝縮したものだという。
第三部の「各地の仏教」は東南アジアと朝鮮、日本の仏教史に、ほんのわずかではあるが、ふれている。
発祥の地インドでは消滅してしまった仏教が、これらスリランカ、ビルマ(ミャンマー)、タイなどの国々では、在来の宗教と習合しながら生きながらえている。そのほとんどが、釈尊(ブッダ)一仏の信仰に依っているとは、はじめて知った事実。

初期仏教には、若いころから関心を抱いていたが、これまであまり親しんではこなかった。
わたし的には、インドへいったこと、そして高野山の宿坊で一夜を過ごしたことが印象に鮮やか!
わが家は真言宗の檀家だが、密教は初期仏教からは遠くへだたっている。しかし、儒教や道教等の中国思想よりはおもしろいとかんがえている。
ただ、仏典があまりに多く、これまでたびたび親しんできた般若心経や親鸞の「歎異抄」だけで仏教を理解した・・・とは到底いえないのである。

仏教がわれわれに開示する“叡智”は、あまりに広大無辺!
いつかわかるときがくるのかもしれないし、生涯わからないのかもしれない。はっきりいって群盲象を評すに類するのだ(ノω`*)タハハ
まあ、手許に備えた書籍を、気の向くまま、もう少し読みすすめてゆこう。



評価:☆☆☆☆

コメント    この記事についてブログを書く
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする
« 大木毅「独ソ戦 絶滅戦争の... | トップ | チェーホフの風景 »
最新の画像もっと見る

コメントを投稿

ブログ作成者から承認されるまでコメントは反映されません。

哲学・思想・宗教」カテゴリの最新記事