二草庵摘録

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「知の教科書 ウォーラーステイン」川北稔編(講談社選書メチエ)レビュー

2018年03月07日 | 歴史・民俗・人類学
世界システム論のウォーラーステイン・ガイドブック。
ウォーラーステインの著書が、文庫や新書になっていないため、Webで探していたら、この本があった。
わたし的には、目下のところAmazonは利用していないので、紀伊國屋書店に注文して入手。

期待通りというか、まずまずのガイドブックで、編集人は川北稔さん、ほかに7人の執筆者がいる。

・生い立ちと思想
・ウォーラーステインのキーワード
・三次元で読むウォーラーステイン
・作品解説

こういったカテゴリーに分類されているため、あとから「その部分だけ」再読する場合、見つけて読みやすいだろう。索引をふくめ、237P。

ウォーラーステインの日本における唯一の教え子たる山下範久さんの論文「生い立ちと思想」は力のこもったもので、説得力があった。ほかには平田雅博さんの論攷「世界システムと帝国主義論」がおもしろかった(^^♪
川北さんの「イギリス風朝食の成立 庶民生活史のためのウォーラーステイン」は、「砂糖の歴史」に書かれてあった内容のほぼ敷き写し。ほかに書きようがあったのではないかと思えたのがいかにも残念。
《楽しい「知」の世界へようこそ――
世界を解読する新しい思想家ウォーラーステインのすべて

世界はひとつのシステムである。「ヘゲモニー」「周辺」「反システム運動」といったキーワードを用いて、近代の仕組みと成り立ちを明かすウォーラーステイン。資本主義とは何か、人種とは何か、学問とは何か――。彼の思想を基礎から平易に解説し、その可能性を読み尽くす格好の入門書。》(講談社の内容紹介より引用)

世界をどのように見、どう考えたらいいのか・・・非常に大雑把ではあるが、論理的にたいへん興味深い、鳥瞰図的な世界観を、資本主義の起源とその展開を軸に構築しようとするウォーラーステイン。その中の重要な論点を8人の論者が分担しながらほぼ網羅していると思われる。
これまでの歴史認識は、政治史、事件史に偏りすぎていることが、ここにおさめられた論文の中から見えてくる。社会史、文化史、食物史・・・さらに隣接する社会科学として、文化人類学との関連性が浮かび上がる。
さらにこれを敷衍すれば、より根源的、現代的な課題としての人種差別、女性差別の起源に、あらたなスポットを当てることもできるようになる。

素材となっているのはあくまで「近代」(近世15世紀までふくむ長い近代史)なのだが、ウォーラーステインの思想を発想の基盤において、資本主義の終焉をあれこれとシミュレーションすることが可能になる。わたしが関心をもってきた水野和夫さんの著書の中に、その反響音を聞くことができる。
むしろそこから、わたし的にはウォーラーステインへと遡ってきたようなものだ(^^;)
ウォーラーステインのさらに一歩先をあるいていたのが、レヴィ=ストロースやブローデル。
ブローデルとの関連をもっと詳しく教えてもらえるかと思ったが、残念なことに、ブローデルへの言及は必要最小限にとどまっている。
英語とフランス語の壁があるのか、慎重を期するためこうなったのか?

「資本主義的世界に内在する支配構造の可視化」をテーマにしたウォーラーステインの仕事は、はじめて彼を知った読者には、かなりのインパクトがある。むろん世界史に関心をもっている読者にとって・・・のことだが。そのわりにはガイドブック、入門書の類が少ないが、これはどういう事情によるものだろう。

《十九世紀社会科学の中心概念は「発展」である。》(本書226ページ)
《資本主義的世界経済は、始まりと終わりのある史的システムである。》(本書229ページ)

こういう、「近未来」を啓示するヒントは、いたるところにばらまかれてある。読者の知力や基礎知識の厚みに応じて、ウォーラーステインの思想はさらなる発展、展開の可能性をひめている。わたしがこれから手に取ろうとしている柄谷行人さんの「世界史の構造」のなかにも、資本主義的世界経済は、始まりと終わりのある史的システムであるという概念が大きな影を落としているようである。

なお欲をいえば、これら執筆陣による座談会、それがムリなら川北さん、山下さんによる対談を実現してみたかった。よりくだけた話のとっかかりから、研究者たちそれぞれの関心の方向が違うのがあぶり出されただろう。
作品に即した「作品解説」はたいへん役に立つが、ほかの論文では、それぞれの意見を併記しただけ・・・といった印象がぬぐいきれない。
それによって、ウォーラーステイン理論の功罪がよりはっきりと読者に伝わるはず。
座談かあるいは対談が実現していたら、五つ星まちがいなし´Д`|┛



評価:☆☆☆☆

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