二草庵摘録

本のレビューと散歩写真を中心に掲載しています。二草庵とは、わが茅屋のこと。最近は詩(ポエム)もアップしています。

セキレイの庭(ポエムNO.2-67)

2015年10月12日 | 俳句・短歌・詩集
          (在位六十周年記念式典、天皇の頬をつたう涙)



昭和天皇について書かれた本や昭和史をあつかった本を読んでいて
ある夜 ぼくは寝つけなくなってしまった。
玉音放送が流れるまでの
これまであまり公にされていなかった事実を教えてもらいながら
木々の葉を騒がす風の音を聞いていたあのとき。

ぼくの胸はその風の音より激しく騒いで
騒いで
つぎの日(三、四時間眠ったあとで)早くに庭へ出て
すでに明るくなっていた大空を見あげた。
スズメたちはいつもと変わらずチュンチュンと鳴いて

わかかりやすいことばでぼくに告げる人はいないが
この平和が危うい 
じつに危ういバランスの上に築かれたものであることを実感する。
昨夜忍び込んだ本の中のことばたちが
胸の底をクロオオアリのように動きまわることをやめない。

すぐそこにあるものの尊さについて
ぼくはこの歳になって
あらためて 学ばねばならないのか?
昭和の最後の一年間
そこに佇んだままのぼくをさがしにいくために。

そのあたりにはたくさんの家族にかこまれた日常があったのだし
あのとき三十六歳だった男は
迷路のように曲がりくねった道をたどってここまでやってくるあいだに
ずいぶんと老いた 人並みにといえばそのとおりだが。
セグロセキレイが庭の向こうのはずれに舞い降りなにか啄んでいる。

あれは・・・あれはだれかの魂なのか
セグロセキレイという名の。
初夏の風が頬を撫でる。 
やがて一羽のセキレイとなって
ぼくもこの庭に舞い降りる日がくるだろう。

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