二草庵摘録

本のレビューと散歩写真を中心に掲載しています。二草庵とは、わが茅屋のこと。最近は詩(ポエム)もアップしています。

「茶の世界史 緑茶の文化と紅茶の社会」角山栄(中公文庫 1980年刊)レビュー

2018年04月06日 | 歴史・民俗・人類学
   (背景の建物はわが茅屋「二草庵」の一部)


本書は1980年12月に刊行されている。奥付をみると2016年までに37版が発行され、わたしが入手したのが、2017年の改版。
かなりの冊数が世の中に出まわり、高い評価をあびているものと推測される。
広告ページを参照すると「名著刷新!」の大きな文字が躍っている。
ただし、mixiには42件のカスタマーレビューがあるれど、Amazonには2件のレビューしか置いてない。改版によって板が変わったのだろうか?

本文ではアナール学派のことには一切ふれられていないけれど、おそらく何らかの影響を受けて書かれたものではないだろうか?
いわゆる“モノカルチャー”に的を絞った茶の文化史、世界史。
途中からわたしの読書に他の本が割り込んできたため、斜め読みした部分がある。

つぎにWebからデータベース上の内容紹介を引用させていただく。

《一六世紀に日本を訪れたヨーロッパ人は茶の湯の文化に深い憧憬を抱いた。茶に魅せられ茶を求めることから、ヨーロッパの近代史は始まる。なかでもイギリスは独特の紅茶文化を創りあげ、茶と綿布を促進剤として伸長した資本主義は、やがて東洋の門戸を叩く。突如世界市場に放り出された日本の輸出品「茶」は、商品としてはもはや敗勢明らかだった。読者がいま手に茶碗をお持ちなら、その中身は世界史を動かしたのである。》

茶は、米、麦、砂糖、ジャガイモ、コーヒー、唐辛子等の香辛料とならんで、世界商品なのである。
明治初期、世界貿易に遅ればせながら乗り出した日本にとって、生糸と茶が輸出品の二大商品であったことを、この本によって知った。
そして一時は健闘するも、インド、セイロンの紅茶に敗れ、主力商品の座から転落する。

本書は第一部「文化としての茶」、第二部「商品としての茶」で構成されている。
過去の文献をくまなく渉猟し、学問的にも、高い水準にある著書なのではないかと思われる。新書の体裁をとってはいるものの、この本を書き上げるにあたって、角山栄さんは、かなりの年月を要したであろう。
後半に入ってしばしば引用される「領事報告」などは、国会図書館へ足を運ばなければ参照できないはず。

商品としては、緑茶は紅茶におされて、貿易の首座からすべり落ちる。そのあたりの世界情勢を、これでもか、これでもかと論証していく。
非常に手堅い、学者的な手法だが、本書は専門書ではなく、読みやすい、こなれた日本語として書かれてある。
朝はミルク入りのインスタントコーヒー二杯、昼から夜にかけてはペットボトルの緑茶。個人的なことをいえば、それにわたしは“依存”している。たまに紅茶も飲むが、ホットレモンティ、オンリー。イギリス人が大好きな、ミルク、砂糖入りの紅茶を飲む習慣はまったくない。

スペインへいったときも、インドへいったときも、紅茶といえば、ミルクティーであった。それに砂糖(おもに角砂糖)が必ずついてくる。レモンティーを飲むのは日本人だけだ・・・ということが、海外へいくたび、身に沁みた。そもそもメニューにないのだから。
本書を読みはじめてから、影響を受けて、ペットボトルの「ストレートティー」を買って飲んでみたが、臭くてまずい。香料を添加しているとしか思えない、甘い香りがした。それが、わたしには合わない。
愛飲しているのは抹茶入りの緑茶。3-4種類の気に入った銘柄があり、よく飲んでいる。サントリーのウーロン茶なども飲んでいる。

角山さんのこの本を読んで、日本人がコーヒー好きとなったのは、ずいぶん最近のことだと教えられた。コーヒーが一般庶民に知られるようになったのは、昭和の初年のころからであろうか?

そして戦後、アメリカ文化の浸透によって、爆発的にコーヒー党がふえていく。
《茶は「文化」から資本主義的「商品」になっていく。そうした過程をあとづけたのが第一部である。》と角山さんは、あとがきに書いている。
《第二部は、開港後の日本茶の命運をテーマとしている。日本の茶は、室町時代以来日本人の生活に定着した伝統的「文化」を形成してきた。それが開港によって、「文化」から世界市場のための「商品」への転換を余儀なくされた。》と。

・・・緑茶vs.紅茶。

モノカルチャーから見えてくる歴史。卑近な日常の世界史。
本書が、わたしにとって「必需品」となっている茶を、あらためて見直すきっかけを与えてくれたことに感謝。
名著といっていいだろう。



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