虹色教室通信

遊びや工作を通して 子どもを伸ばす方法を紹介します。

頭と目の前の現実、どちらにも接続可能の知恵を蓄える1(レンズーリの拡充学習について 16)

2017-02-16 08:13:16 | それぞれの子の個性と才能に寄りそう

前回の記事までの記事で、

『頭の中の世界』と『現実の世界』の間を取り持つ中間層にあたるもの

育むことや、

そのスペースに頭と目の前の現実、どちらにも接続可能の知恵を蓄えるといったことを

書きました。


 そこで、工作、実験、ゲーム、ごっこ遊び、算数学習のそれぞれの場で、

 どのようにそうした知恵を育んでいるのか、書いていこうと思います。


 工作の中で、『頭の中の世界』と『現実の世界』の間を取り持つ中間層にあたるもの

育む場合、上手に作れるようになるのを目指すのとは違う

子どもが自分の頭をより使いやすくなるような雰囲気作り

大人が随所で、応用のきく知恵を見せてあげることが必要になります。

 

たとえば、こんなちょっとしたことです。

先日、2歳の子といらないDVDの中央の穴にビー玉をつけただけという

簡単なコマ作りをしました。

↑ 別のレッスンのコマ作りの写真です。

 

その時、子どもがコマの表面に長く切ったセロテープをペタペタ貼っていました。

手当たり次第、セロテープを貼りたがる時期ですよね。

 

テープが、コマの外にビローンと伸びていた場合、

それは大人からすると、「はみだしている」というよくない状態です。

きれいなコマを完成させたいと思っている方には、「邪魔だから切ろうね」と指導する対象でしょうし、

「ああ、またやっているわ」とスルーするなら、普段の遊びの延長でしょう。

 

でも、もしそこで、「はみだしたテープをつけたまま回すとどうなるかな」と、

そのままコマを回してみると、円の中心からはみだしたテープの先までを半径

とするDVDより大きな円が見えるはずです。

もし、子どもが喜んでいたら、「もっと長いテープや紙をつけてみると、どうなるかな?」と、

テープや紙の長さを変えて、試してみると、それによって見える円の大きさが違うことに

気づくはずです。


教室では、工作でも実験でも遊びでも、ちょっと試してみたら面白そうという場面にぶつかったら、

長さを変えたり、傾きを変えたり、重さを変えたり、速度を変えたり、

面積を変えたり、を変えたり、強度を変えたり、

水に沈める深さを変えたりして、どうなるのか試しています。

創作する上でそうする必要があるから変えるのではなくて、

「変化に伴って、どうなるか見届けたい」という好奇心を満たすためにしています。

 

こうした活動は、他の人に見せる作品を作ることや

時間内に完成することを目的としている創作の場では、

脱線や無駄でしかありません。

 

でも、こうした脱線や無駄が、頭と目の前の現実、どちらにも接続可能の知恵

の源となります。

 

先ほどの2歳の子のように、コマからはみでたテープの描く円を作って遊んだ子は、

コンパスを使った工作をする時やコンパスで作図する時に、

かつてコマ遊びで得た知恵を使って、円についての気づきを発展させます。

 

 「棒にひもでつながれた犬は、どのような範囲の移動が可能か」

といった中学入試問題でも力を発揮します。

 また、理科で天体を学ぶ時期にも、そうした知恵が役立ちます。

 

過去記事から、先の2歳の子と同じDVDコマを作ったときの

さまざまな年齢層の子たちの中間層が育っていく様子を紹介します。 ↓

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メディアクリエイターの佐藤雅彦さんの『プチ哲学』という本があります。

かわいらしい漫画に解説がついている本で、

教室で、それぞれの漫画のテーマと同様の体験をした際に

子どもたちに漫画を見せ、解説を読んであげると、強く心の響くものがあるようです。

 

この日、小2の女の子グループと見た漫画は、『ビジネスマンダニエル氏』と『うっかり電池くんの証明法』。

 

『ビジネスマンダニエル氏』は、

拾ったセッケン箱を舟として使ってひと儲けしようとかんがえたカエルのダニエル氏。

ところが箱に穴があいていて、水が舟の中に入ってきて使いものになりませんでした。

そこで、ダニエル氏は、穴のあいたセッケン箱を水道につないで、シャワーきを開発して

成功をおさめました……という漫画。

 

テーマは「偶然性の発見」です。

画期的な商品は偶然にそのアイデアが発見されたものがたくさんあるという話。

新しいのりを開発している途中、「とてもはがれやすいのり」ができてしまった

ことよりポストイットができた例について話すと、子どもたちの間から笑いが漏れ、

ポストイットを見つけてきてみんなに見せていました。

 

人間の発想は見えない枠にとらわれています。しかし時として

失敗は、その枠の外にはみだしたところに発生します。その時、

私たちは新しい発見にめぐりあえたのです。このような偶然性の発見を、

難しい言葉ですが「セレンディピティー」と言います。 (『プチ哲学』P36)

 

 

工作をしていると、この「セレンディピティー」という言葉に

ぴったりの能力を使う場面がよくあります。

こうしたかったんだけど……→うまくいかない。失敗する。→失敗と思ったものから

新しい発見をする。新しいものが生まれる。

そんな自分の何気ない体験を、こうして別の視点から言葉で捉えなおす作業が

子どもたちの心を深いところから揺さぶる時があります。

 

 

コマの上に物を乗せて回そうとすると、転がり落ちてしまいます。

それにランダムに落ちるので、どこに飛んでいくかわかりません。

でも、Aちゃんは、そうした「うまくいかない」を利用して、ゲームを作ることができました。

2年生のお姉ちゃんたちのグループに参加していた

年中の妹Bちゃん。

コマにビーズや毛糸玉などをセロテープで貼ってデコレーションしていました。

ボンド等で貼るのと違い、セロテープで貼ると、どうしても不格好にテープが上にはみだした

ような貼り方になってしまいます。

ところが、これを回してみると、透明のはみ出したテープ部分が、

空間上に浮かんだ不思議な物体のように見え、なんともいえない美しさを生み出していました。

写真がうまく撮れていなかったので見せることができないのですが、

いくつもの色でコマを色分けてきれいに仕上げる子が多い中、二色だけの色でシンプルな

コマを作ったCちゃん。

作品を半分だけ鏡に映るように作った箱に入れたところ、

摩訶不思議な色の変化を楽める作品となりました。

 

 

 

紙から立体を作るのが得意なDちゃん。

全て紙でできた作品は、壊れやすいのが難点。

でも、この作品では、コマに接着した建物が、全て紙で組み立てた内部が空洞という作りだったため、

これだけ大きなサイズのものをコマに貼っても、

コマの回転に支障がなく、見る人がみんなうっとりするほど魅力的な作品となりました。

このコマを横から眺めてチェックしていたDちゃんは、横の一点から観察すると、

まるで景色が動いているようでとても面白いことを発見しました。

そこで、お家に帰ってから、

「窓つきの覆いを作って、車窓から景色の変化を眺める作品にしてはどうか……」という話しあいをしました。

 

この日のレッスンには、算数を教えておられる方が見学にみえていました。

制作中も、『プチ哲学』を見て雑談する時も、算数の学習(今回は旅人算でした)でも

子どもたちがとても集中していることに感心しておられました。

 

 

 

 

 

 

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年中の自閉っ子のAくん。1年前から考えると見違えるほどしっかりしました。

極端に狭かった興味の幅が大きく広がり、園でも楽しく過ごしているそうです。

以前は数分置きに、同じ質問を繰り返していたAくん。

 

「どうして?」「なぜ?」と理由を知りたがる質問が増えてきました。

この「どうして?」「なぜ?」も、少し前までは「こだわり」に端を発した

同じ質問を何度もして、同じ答えを聞きたがる……というものだったのが、

日常の不思議に対する好奇心から生じる

質問へ変化してきました。

お家で、「コマを回すとどうして模様が消えちゃうの?」とたずねたAくん。

お父さんが、「人間の目の解像度は……」と説明したそうですが……。

 

いっしょにいらなくなったCDでコマを作ることにしました。

このコマ、あるもので適当に作ってみたものですが、とても安定した美しい回り方をします。

↑の写真の左にある金属製の平たいコマの回り方にとてもよく似ています。

 

<作り方>

CDの裏面の穴の空いた部分をふさぐように

セロテープ(取れそうな場合ボンドを少しつけておきます)

を貼り、そこにビー玉を押しつける。

表面に絵柄を描いたらできあがり。

 

『こま まわるかな』(成井俊美作 福音館書店)の中に、

「回転すると色がみえるこま」や「逆回転するこま」「うずまきがみえるこま」

「帯がみえるこま」「色のかわるこま」などの

絵柄のパターンがたくさん載っています。

Aくんは、キラキラしたモールやテープを貼った自分オリジナルのコマを作った後で、

本のパターンを真似たコマを作りたがりました。

(この本で紹介されている紙とつまようじで作るこまは、

子どもには作りにくいようでした。)

 

 

ピンクと黄色と水色のコマを作って回した時、

Aくんが、「オレンジの色がある。回ると

真ん中のところらへんにオレンジの色がある」と声をあげて

喜んでいました。

白と黒に塗り分けたコマは、回転する速度が変わるにつれて

色が変わっていくところが、不思議で面白いです。

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録画用のDVD-Rに傷の防止のためについている透明の丸いプレート。

年長の子たちと、これを使って

「地球とその周りを公転している月」のコマを作りました。

 

アルミ箔を丸めて地球と月を作ります。丸めたアルミ箔は

厚紙やいらない下敷きなどでこすると金属のような塊になります。

地球は中心の穴にはめ、月ははさみで切って

両面テープで貼ると、できあがり。

 

時間のある時に太陽の周りを回る惑星のコマも作ってみたいです。