虹色教室通信

遊びや工作を通して 子どもを伸ばす方法を紹介します。

発達障害のある子の対人関係能力を伸ばす活動

2013-01-03 21:09:31 | 自閉症スペクトラム・学習が気がかりな子

 

発達障害のある子を育てるうちに、だんだん育て方がわからなくなってきました 2 の続きですが、

話が脱線してきたので

タイトルを変えさせていただきますね。

 

発達障害のある子の対人関係の能力を育てていくことは、

社会性の発達はもちろんですが、人から学ぶ力が向上させ知力を高めることにもつながります。

他人への興味は、視野や好奇心を広げるのを助けてくれます。

 

それでは、虹色教室での活動の中で

どのような活動を通して、そうした力を伸ばしているのか紹介しますね。

 

ブロック講座では、ブロックの爆弾作りが一般的な子にも発達障害のある子たちにも

とても人気がありました。

 

「2つのデュプロブロックの突起に輪ゴムを引っかけてから、

ゴムを伸ばしながらブロックをひっくり返します。

それをもうひとつのブロックでとめるとできあがり。」という

シンプルな作り方ですが、

ゴムを伸ばしながらひっくり返す際に、指先にしっかり力を込めておかねばならず、

器用さと集中力のどちらも要求される作品なのです。

 

あやとりのひもの取り方を観察するのと同じで、教えてくれる相手の

手元をよく観察していなければ、

作れない作品でもあります。

 

この爆弾作りは、作る過程の短さと

「バンッ」と爆発する瞬間の面白さが

発達障害の子たちを強く惹きつけるらしくて、

なかなかうまく作れなくても、がんばって何度もチャレンジし、

「ちがうちがう、それは間違っているよ。見本とよく見比べてみてよ」といった注意も、

ちゃんと聞き入れて、上手に作れるようになろうという気持ちを保ちやすい活動のひとつです。

 

(他にも泡が吹き出す化学実験や水を扱う工作、ねんどの絞り機で作る粘土細工やビー玉を使う工作など

発達障害の子たちに人気のある活動はいろいろあります。)

 

発達につまずきのある子どもたちに他人から学ぶことや、手本を見ること、自分のしたことを振り返ること、

相手の注意を聞き入れること、友だちに教えてあげること、他の子の行動に興味を持たせることなどを

教えていくには、

まず、活動自体が、本人が「やりたい!」と強く渇望するような

魅力的なものであることが大事だと思っています。

本人に、「できそうだ」という気持ちを起こさせるレベルであることも

大切です。

 

ブロックの爆弾作りの見本を見せる時に、

短い劇のようなものを演じて、

いたずらの仕掛け方を教えます。

 

「★くんの弟の●くんにね、この爆弾を見せてね、こう言うのよ。

ああ、固くてはずれないな。このブロック固いや。ここはずしてくれないって。

そうしたら、●くんが、いいよ、そんなのできるよ、ってはずしたら、

バンッて爆発するのよ」

「あのね、お母さんが、このブロック爆弾を見つけたの。

もうっ!だめじゃない。こんなところにブロックを散らかしっぱなしで。

ちゃんとはずしてお片づけしなくちゃって、これをはずしたら¨¨バンッ!って

なるのよ」

 

といった話は、もしもこういうことをしたら、次にどうなるかな?

もし、こんなことが起こったら、あの人はどんな反応をするかな?

っと予測しなくてはならないので

社会性の問題を抱えている子たちには難しいのです。

でも、発達障害のある子たちは、こうした設定について

あれこれ考えてみることが大好きで、

何度も聞きたがるし、もっといろいろな場面を考えるようにうながすと

自分でも考え始めます。

 

ブロックの爆弾は一度マスターすると

あっという間に作れるようになりますから、

作れるようになったら、他の「どうやって作るのか教えて!」と言っている子に

教えるチャンスを作るようにします。

 

もし、教える相手がいない場合、

子どもができるようになり次第、「上手ね、ここのところが難しいんだけど、

どうやってするのか教えてちょうだい」と大人が教わる役をしたり、

お人形たちに「教えてよ。教えてよ。」と言わせて

相手に伝わるように説明する機会を作ります。

 

そんな時に、教わりながら、同時に教える際のヒントを

与えていくことが大事だと思っています。

 

たとえば、こういうことです。

 

わたし 「もう作れるようになったの?上手ね。

どうやって作るのか教えてちょうだい」

 

子 「こうして……」と手だけで作っていきます。

 

わたし 「ああ、ポイントは、輪ゴムを、真ん中のところと真ん中のところ同士で

かけることだったのね。でも、ひっくり返そうとすると、

先に爆発しちゃうのよね。どこらへんで押さえているの?」

 

子 「ここ」

 

わたし 「ああ、手の平の横のところ?」

 

子 「そう」

 

わたし 「わかったわ。1番最初に、ゴムをかけて、その次に手の平の横のところで

押さえながら、ひっくり返すんでしょ。最後はどうするの?」

 

子「おなかで押さえておいて、ブロックをつける」

 

わたし 「ありがとう。よくわかったわ。

1番目、2番目、最後の順に言葉にしてもらったら、

教えてもらう時にわかりやすいわ」

 

次回に続きます。

 


発達障害のある子を育てるうちに、だんだん育て方がわからなくなってきました 2

2013-01-03 13:14:18 | 自閉症スペクトラム・学習が気がかりな子

親御さんが、「発達障害のある子を育てるうちに、だんだん育て方がわからなくなってきました」

と感じる一番の理由は、

ちまたにあふれている「発達障害の子にこのように接するといい」という情報が、

わが子の個性と特性と発達段階にぴったりあうものではない、

ことにあるのかもしれません。

 

わたしがこのブログで書き連ねている情報についても

同じです。

おそらく、どれも目の前にいるお子さんのためにあつらえた

オーダーメイドのアドバイスにはなりえないでしょう。

ちょっと参考になる、考えるきっかけになる、観察するポイントがわかる、

頭の整理に役立つという程度でしょう。

 

「だったら、虹色教室に行って、直接、子どもを先生に会わせたら

わが子に最適の方法が見つかるんじゃないか」と考える方がいらっしゃるかもしれません。

でも、わたしが子どもに会う、くらいのことじゃあまりプラスにはならないし、

もしそれが良い方向に働くとすれば、事前に伝えておかなくちゃならない、

ひとつ逃しちゃいけないポイントがあるように

思うのです。

 

確かに、わたしは、物作りや学習を通して

たくさんの子どもたちと接してきたことからくる経験の蓄積から

わかることがいろいろありはします。

 

もともと、人と関わりながら、相手の理解力や技能を高める手伝いをすることが

好きでもあるし、どちらかというと得意な方です。

こういう時にはこうすればいい、

こういうタイプの子にはこう接するべき、こうした問題が起こらないように今すべきこと、に

その都度、敏感に気づくし、どのように振舞うべきかも

だいたいわかります。

 

でも、実際には、問題点に気づいて、どのようにすればいいのかわかったとしても、

今その子に必要なことは何か感じていることがあったとしても、

それを正確に親御さんに伝えることは至難の業です。

 

正しく伝わったとしても、子どもの変容は一瞬の魔法のようにはいかず、

長いゆったりとした時間の経過が必要であることを理解していただかなくては

なりません。

 

今、その子にどんな働きかけをすればいいのか、どんな体験を用意すればいいのか、

どんな会話をすればいいのか、といったことが、

正確に親御さんに伝わらないのには訳があります。

 

価値観のちがい、といったら元も子もありませんが、

親御さんが成長の線上に思い描いている重要な事柄と

わたしが重要だと感じて注目している事柄が

微妙にずれていることがよくあるのです。

 

わたしが「これはとても大事」と思って時間をかけている内容が、

親御さんにすると、全く無意味で無駄なもののように

見えていた、ということは、しょっちゅうあります。

全く視界に入っていなかった物事を

いきなり理解して、価値を認めろと言われても

ピンとこないのは当然ですよね。

 

ただ、それって、別の見方をすると、

親御さんがそれまで重要な「ある何か」について

大切だと気付いていなかったので、

子どもに必要な体験が不足して、できないことが膨らんでいた可能性を

感じさせる事実でもあるのです。

 

何だか話が、言葉をこねくりまわしているだけの

よく意味がわからないものになっちゃいそうですが¨……

 

いろいろある中で、「コレ」という例をあげてみますね。

 

冬休み中、教室でブロックの講座を開いています。幼稚園児と小学生のグループで、

わたしがとても重要だと思っているのは、

それぞれの子の対人関係能力の発達を促すということです。

ブロック講座には、ごく普通の子たちも、発達に凹凸のある子たちも

いっしょに参加してもらっています。

対人関係が苦手な子たちには、苦手が軽減するような機会を作り、

得意な子たちは、リーダーシップを取ったり、他の子と協力して問題解決の当たる場を設けるようにしています。

 

もちろん、ブロックの組み方や問題解決の仕方、頭でイメージしたものを形にする方法など

も教えるのですが、それと同時にその子の対人能力の課題を見つけ出して

それが向上するように努めているのです。

 

ひとことで対人関係能力といっても、「お友だちといっしょに活動する」とか「けんかしない」といった

ことではなく、それぞれひとりひとりの子が具体的に

身につけたらいいと感じられる課題です。

 

たとえば、こんな点があります。

 

★ 自分の身の回りの環境で起こっていることに

注意がいくようになる。

★ 相手の指示を受け入れることができるようになる。

★ 素早く注意を次の事柄に移行できるようになる。

★ アドバイスを受けて、変更することができるようになる。

★ お友だちの行動を参考にして、自分の作品作りに役立てる。

★お友だちと協力して作る時、自分の役割を自覚して行える。

★ 自分の作っている作品について作る過程を振り返って

難しかった点などを説明できる。

★ お友だちがどんな点に気を配って

作ったのか、相手の気持ちになって了解する。

★ お友だちの問題の解決を手伝ってあげる。

★こちらの話を集中して聞いて、最後まで注意を持続する。

★顔の表情でコミュニュケーションが上手に取れるようにする。

 

 ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

そうしたそれぞれの課題に取り組めるような機会を作って、

子どもが実際やってみることで

だんだん自信がついてくるように調節しています。

 

が、そうした子どもの姿を目にしている親御さんが、

子どものブロック作品の出来だけに注目していて、

子どもの潜在的な可能性に気づかない、ということはよく起こります。

 

また潜在的な可能性について理解しても、

そうしたことの価値や大切さを感じられないという方もいらっしゃいます。

 

それは親御さんが子どもの対人関係能力の向上を願っていない、

重要視していない、という意味ではありません。

 

どういうことが対人関係能力の発達につながるのか、

対人関係能力の発達が、知力の向上とどのように結びついているのか、

具体的に想像がつかなくて、

何にどう価値があるのか、見ただけではピンとこない、

と言うのが正しいのかもしれません。

 

 

次回に続きます。

 

 


発達障害のある子を育てるうちに、だんだん育て方がわからなくなってきました 1

2013-01-03 08:45:10 | 自閉症スペクトラム・学習が気がかりな子

「発達障害のある子を育てるうちに、だんだん育て方がわからなくなってきました。

情報を集めたり、療育に通ったり、自分でもいろいろな取り組みをしてみるのですが、

ある時、そうしてがんばってきたことが全て、

間違っていたんじゃないか、今の子どもの問題行動を

作りだしたんじゃないかという迷いや挫折感に打ちのめされる時があります」

 

発達障害のある子を育てている親御さんからそうした声をいただく時があります。

 

また、直接、言葉にしているわけでも、

その方の意識にのぼっているのかさえ定かではないけれど、

ひたむきな一生懸命さの合間合間で、そうした不安に囚われて

戸惑っておられるように見える方もいらっしゃいます。

 

発達障害のある子を育てていると、

その子の持っている障害特性ゆえに

さまざまな困った事態や悩みにぶつかるものです。

 

が、それとは別に、

親御さんのそれまでのしつけ方や接し方や教育のあり方に

いきなりダメだしを突き付けられたように感じる

出来事に遭遇したり、

状況に陥ったりすることが多々あるようなのです。

 

それは、そのように感じるだけで、おそらく

それまでの親御さんの育て方が間違っていたわけではないと思います。

でも、同時に、今までのやり方をずっと続けていくのは

よくないはずです。

 

発達障害のある子を育てていく過程では、

その都度、最優先順位というものがあります。

 

時にはしつけとか、相手の気持ちになったり、自分を客観視したり、論理的に考えたりすることは

後回しにして、

まず親子の愛着が形成されていくことだけに集中した方がいい時期や、

とりあえず子どもの不安感を取り除くことが重要な時期があります。

 

感覚過敏への対応が第一で、

多少の自己中心的でわがままとも思える言動には目をつむって

子どもの機嫌を取りながら、

みんなと同じ場にいるだけで精いっぱい、という時期があるのです。

 

また多動が激しすぎて、怪我をさせないように追い回したり、

散らかしたものを片づけていくので手いっぱい、という時期もあります。

 

そうした本当に大変な時期に

多くの親御さんは、何度も挫折感を味わいながら

苦しんで苦しんで、

 

子どもの問題行動を和らげる方法を身につけていったり、

子どもがパニックを起こしたり、激しく拒絶するのを回避するような

接し方をするようになったりしていきます。

 

ハンディーを抱えながら懸命に生きていくわが子の姿に共感して、

困った面も含めて子どもを受容して育てるようになっていく方がとてもたくさんいらっしゃるのです。

 

ただ、そうした緊急事態向けの対応というのは、

どうしてもその時々の問題を避けることや、素早く火消しをすることに終始しがちで、

その子の先々の成長まで見通した長期的な視点が欠けがちになります。

 

 

また、「サポートする」という態度が、

「助ける」ことや「困らせない」ことにばかり焦点があたると、

みんながみんな母性的な受容したり保護したりする対応になって、

子どもに適度な負荷を与えて、

恥ずかしさや罪悪感に気づような社会的な感情に目覚めさせて、

外の世界に押し出していくような

父性的な対応が足りなくなってきます。

 

母性的な対応は間違いではなくて、

どの子にも必要不可欠なものです。

 

ただ、そこに少しずつ父性的な対応を取り入れていかないと、

子どもが成長するにつれて、「今までのやり方は全部間違ってたんじゃないか」という

迷いにつながりやすいのです。

 

それでは、少しずつ取り入れるといい父性的な対応というのは

どういうものか、次回に具体的に書かせていただきますね。