虹色教室通信

遊びや工作を通して 子どもを伸ばす方法を紹介します。

広汎性発達障がいと診断されたり、広汎性発達障がいの疑いを指摘されたら 13

2012-02-10 17:15:15 | 自閉症スペクトラム・学習が気がかりな子

子どもが社交的でないことを心配する親御さんは、

「自立してほしい」という気持ちが強い方が多いです。

早く親のもとを離れて子どもの集団でいきいきと活動してほしいのです。

 

でも親御さんの「自立してもらいたい」という気持ちが

子どもの内面の「自立したい」という自然な衝動の大きさよりも

値が大きければ、

親御さんの期待が

漠然とした不安となって子どもの心を覆ってしまいがちです。

 

恥ずかしがり屋でひとり遊びが好きな子も、年齢相応のその子の個性に応じた

「ひとと触れ合いたい」という気持ちや「ひとを求める」気持ちを持っているものです。

まずその子のそうした気持ちの強さを見極めて、

それと同じか

それより少し弱いレベルの体験を用意してあげるといいです。

 

たとえば、親御さんとしっかり遊び込むことや、

祖父母やいとこと交流するのもいいでしょうし、

1,2人のおとなしいお友だちと過ごさせて、

いっしょに遊ばなくても、近くで過ごしているだけでOKとする

ことなどです。

 

子どもと「バランスをとる」というのは、思いの他 難しいものです。

それに、大人にとって、日頃、あまり重要なことのように感じていないものです。

 

先日の工作のワークショップで

1歳くらいのお子さんを背負った親御さんから

「この子にドッツカードを見せようと思っていますが、どのように始めればいいでしょう」

という相談をお受けしました。

 

見たり聞いたりすることに非常に敏感になっている

1歳6、7ヶ月の子は、

ドッツカードや絵や写真や文字が印刷してあるカードを

何枚も見たがることがよくあります。

 

(↓トーマスの絵カードを見ながらそれぞれの名前を読みあげてもらいたがる

1歳7カ月の男の子)

ですから親子の相互交流がしっかりなされて、

さまざまな親子間のバランスが整っていて、

おまけに子どもの側から、カード類を何枚も「見たい、聞きたい、という強い気持ちが

溢れている時は、

そうしたカードを見せることも子どもの能力を飛躍的に伸ばすことに

つながります。

でも、わたしは、「この子にドッツカードを見せようと思っていますが、どのように始めればいいでしょう」

という相談をお受けした方は、まだドッツカードのような早期教育的な働きかけをしない

方がいいように思いました。

そして、そのようにお伝えしました。

 

なぜなら、その方はおんぶしているお子さんをずっと小刻みに揺すっていたのですが、

その揺するすばやくて激しいリズムが

おんぶされている子の弱弱しくておっとりした雰囲気と

あまりに調和していないように感じられたからです。

 

もしおんぶされている子が、背後からお母さんを強くキックしたり、大きな声を上げたり、

キャッキャと笑い転げたりするような

活動的なタイプの子なら、親御さんの揺すり方もそれくらい強くてもいいとは

思ったのです。

 

でも、子どもは、そこにいるのを忘れられてしまうほどおとなしくて、

なん語で「アーアー、ダーダー」と訴える様子もなく、それだけ揺らされていても

されるがままになってぼんやりおぶわれていたのです。

 

その様子を見て、子どもから発しているものが弱いままで、

これ以上親御さん側の子どもに向けられるものの量が増えたら、

子どもの心や知能の成長に

あまりいい影響を与えないように感じられたのです。

 

まず子どもの発信しているものをしっかり受信することを第一にして、

親子で交わされるもののバランスをとるように

努める必要を感じました。

 

親御さんにそうしたことを簡単に説明すると、

何とか理解していただけました。

ただドッツカードのようなものは見せない方がいい、とだけ伝わったかもしれませんが。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 


広汎性発達障がいと診断されたり、広汎性発達障がいの疑いを指摘されたら 12

2012-02-10 09:43:47 | 自閉症スペクトラム・学習が気がかりな子

「バランスをとる」という方法は、

以前からわたしが子どもと過ごす時には

自然に行っていたことを、親御さんに伝わりやすくなるように

数値で比べて調整できるような形で言いなおしたものです。

 

というのも、「これはまずいな」という親御さんの子どもに対する言動に

アドバイスをしても、

「他の親たちはもっとしている」「わたしの方針を否定された」という受け取られ方をしたり、

自己流に間違って解釈されたり、軽くスルーされてしまうことが

たびたびあったのです。

 

そこで、その子その子の発達段階、能力、意志、性格、特性といったものに合った

接し方を体得していただくために、

「バランスをとる」という言葉を使って

親の取るべき言動の強弱を調整していただくようにすると、

それまでよりずっと、イメージしていただきやすくなり、

正しく実践していただけるようにもなったのです。

 

もちろん「バランスをとる」という言葉だけでは、曖昧でぼんやりとして

何のことやらわからないはずです。

これから、少しずつ具体例を挙げていきますね。

 

たとえば、恥ずかしがり屋でひとり遊びが好きな子がいるとします。

 

親御さんは、幼稚園に入ったら、お友だちができるようになるのか、

学校に入ったら積極的に振舞えるのかと心配でならないとします。

そんな場合、たいていの親御さんは、

少しでも早くから集団生活になじませようとして、

泣いて嫌がる子を保育所や幼稚園に放り込むという方法を選びがちです。

 

でも、こうした荒っぽい対策でうまくいったという話はほとんど聞いたことがありません。

登園拒否を起こしたり、ひとりだけ集団でする活動に参加しなかったり、

適応はしたもののぼんやりと何も考えていないような気力のない態度を身に付けたり、

園で暴力を振るったり、いじめられる対象となったりと、

頭を悩ます問題が多発するのです。

 

それなら、どうすればいいのでしょう。

 

わたしがお勧めするのは、

子どもがその時点で抱いている

「他人への関心」や「他人への興味」や「他人に求めているもの」の度合いと、

親御さんがその子に期待する

「社交性」や「積極性」の度合いを

数字で表した時に、子どもの側と同じか、少し子どもの方が勝っているくらいの量に

調整することです。

 

1、2歳の内向的な子を持つ親御さんの話をうかがうと、

 

子どもの側は、

散歩中に近所の猫を見かけては、「いたいた、猫ちゃん今日もいた!こんにちは」と声をかけたり、

年上のおっとりした女の子に遊んでもらうか、年下の物静かな子のそばで自分の世界に浸って遊ぶという程度の

他人との関わりを求めている時期に、

 

親御さんは公園でママ友とおしゃべりする間、子ども同士でわきあいあいと遊び戯れて

欲しいと期待していることがよくあります。

 

子どもと大人の間に

それほど落差があると、

子どもが小さな興味からより大きな興味へ、

薄い関心からより深い関心へ、

狭い視野から、より広くい視野へと

自分の今持っているものを自然に高めていく過程が

大人の気持ちで押しつぶされたり、せかされて、

育つものも育たなくなってしまうのです。

 

そのように親と子の思いに

落差がある時は、落差がなくなるように

努めるということが一番の解決策です。

 

それは子どもの気になる部分を見て見ぬふりをして

放っておくという意味ではありません。

次回に続きます。