シアトルの工作のワークショップでの出来事。
もうすぐ5歳という★くんは、内向型の控え目で繊細な性質の男の子です。
集団の場でも、最初は何もせずにずっと観察していて、
誰が何をどのようにやっているのかを把握できるまで
仲間に入ろうとはしません。
外向型でテキパキした性質の親御さんは、
★くんの個性を認めて愛情を込めて育てていました。
でも、「アメリカでは自分から前へ前へ出ていって自己主張しなければ、成功はありえない。
評価もしてもらえない」とおっしゃって、
どうすれば、もっと積極的に振舞えるようになるのかという
相談をいただきました。
わたしは内向型の子なら、まず内向型の子だからこその長所にたくさん気づく前に
「外向的に振舞うようになるにはどうすればいいのか」と考えることは、
その子の本質的なものを否定することにもつながると
感じました。
そこで、「内向型の子は物事をていねいに観察していたり、
内省したり、じっくり考えることが得意だったりするので、
この子はこういう気質の子として、具体的な良い面に光を当てていく方がいいのでは?」
といった話をしました。
工作のワークショップでの
★くんの工作作品は「がちゃぽん」でした。
わたしが見せたお手本から
基本のしかけのアイデアを取り入れながらも
別の素材で別の作り方で工夫して作ってありました。
「がちゃぽん」の投入口が見つからなかったので、
「箱の上の部分にカプセルを入れるための穴をあけたら?」と
★くんにたずねました。
すると★くんは、回転部分を引き出しのように引っ張って、
「こうやって入れるんだよ」と言いました。
おとなしいようでも、他人の言うままにならずに、
きちんと主張するところはしているのです。
その姿から、
「この子はおとなしくて控えめだけれど、
自分の意志や考えがはっきりしている子なんだな」と感じていました。
親御さんたちとの談話中、(滞在先の)Aさんのご主人が
園庭で子どもたちを見てくれていました。
後から、Aさんのご主人からこんな話をうかがいました。
遊んでいるうちに、数名の男の子たちが叩き合いをはじめたそうです。
けんかを止めに入ると、
「あの子が最初に手をだした」「あの子が最初に叩いた」「あの子が……」
とそれぞれの子がてんでバラバラのことを口々に言ったのだとか。
どの子も好き勝手なでたらめを言うので
困ったご主人は、
けんかの一部始終をジャングルジムの上からずっと
眺めていた★くんを呼んで、
本当はどんなことがあったのかたずねました。
すると★くんは、「最初に○○がこんなことをして、次に○○がこうやりかえして、
その後に○○がこういうことをした」
と細かいところまでていねいに説明したそうです。
するとそれまで、適当なことばかり言っていた子らが、
「ぜーんぶ、★くんの言うとおりだった!」と意見がビシッと一致したそうなのです。
「最初から最後までちゃんと見ているな~」と感心すると、
★くんは急に自信に満ちた態度で
他の子らに混じって遊びだしたそうです。
★くんは、内向的で慎重で控え目な本来の性質のままで
褒められたからこそ、
自信に満ちた態度で遊び始めたのだと思いました。
★くんは来たときよりもいきいきとした明るい表情で帰っていきました。
練習してできるようになったこととは別に
「これはわたし」という部分について褒められると
本当にうれしいものです。
それは大人だって同じです。
わたしもシアトルに来て、思いがけないところで詩を褒めていただくことがあって、
他のどんなことを褒めていただいたときより
うれしい気持ちを味わいました。
日々の雑事に追われて自分が詩を書くことがすきだったことすら
忘れかけていたのに、そうして自分の詩について
感想をいただくと、
心の底から元気が自信が湧いてくる思いがしたのです。