トムくんは月に何度かアトリエに通っています。
そのアトリエの先生と親しくさせていただいていることもあって
わたしもトムくんのアトリエ通いに同行させていただきました。
アトリエの話は別の記事でくわしく書かせていただきたいのですが、
今回はほんの少しだけ……。
そこのアトリエでは、活動の後でその日の取り組み方や選んだ素材や色から察することができる
子どもの状態や芽生えつつある能力についてのアドバイスがあります。
この日は、トムくんが穏やかでのんびりした様子で活動していたことや、
これまでにはなかった色を混ぜて楽しむ姿があり、
集中力が増してきたため、色の変化する様子を観察する余裕が出てきたのではないか、
といった会話が、アトリエの先生とyoshikoさんの間で交わされていました。
わたしが鎌倉に滞在している3日間、トムくんは終始穏やかでした。
以前ならパニックに陥って激しく動揺した態度をしめすような場面でも、
誰かに助けを求めるようなかすかな声をあげながら、自分に注意を向けている人の表情をちらっとうかがって、
そのまま静まって元の活動にもどるか、笑顔になるか、休憩スペースに黙って移動するかで
事が収まっていました。
トムくんは左右の下唇に口内炎ができていて、何かを口にするたびに沁みるようでした。
それにも関わらず、小さな声で痛みを訴えて、
唇に触れてみて、少し首をかしげてかんがえていたかと思うと、
そのまま、また食べ始めることを繰り返していて、一度も騒ぎには至りませんでした。
穏やかで落ち着いているトムくんの態度からは、
メタ認知力がつき始めていて、
見通す力がついてきたことによる精神的な余裕が見て取れました。
が、一方で、トムくんには「穏やかさ」とは真逆の態度も見られました。
アトリエの一角で、トムくんは金づちで木にくぎを打ち付ける作業をしていました。
金物の本格的な金づちでガンガンと激しく釘を打ち付けているのです。
危なくないかと怖いほどなのですが、意外に的を外しません。
確実に狙いを定めて、荒々しいほどの激しさで金づちを
振るっていました。
そういえばトムくんの活動は動と静のメリハリがはっきりしてきていて、
静の時も以前のようにぼんやりと意識がはっきりしていないような態度ではなく、
静かに視線で何かに狙いを定めているし、
動の時も、ただバラバラと木製ビーズを手から落とすような時にも、
的になる缶やプラスチックの空き容器に狙いを定めていたことが
思い当たりました。
できるだけ「目的」や「因果関係」が
目で見て確認できるよう
わかりやすい場面を作ってあげると、
トムくんの心がいきいきと高揚してくるのが、
わかりやす過ぎておかしくなるほど感じとれました。
でも、そうしたトムくんの変化は良いことばかりでもありませんでした。
トムくんはさまざまな場面で自分が取るべき正しい態度を知りたがっており、
ある原因とある結果がシンプルなわかりやすく展開していくことを求める気持ちが強くなっています。
でも現実には、ランダムで混乱するような場面が
たくさんあるのです。
特に、妹のジェリーちゃんは、トムくんがせっかく学んで推理できるようになっている
展開を、たびたび混ぜ返します。
トムくんがルールを把握しかかったところで、
ジェリーちゃんルールを押し通して混乱させがちです。
トムくんの学習意欲が高まっていて、さまざまな状況を読み取ろうとしているだけに、
そうしたルールがあいまいで相手次第で状況がコロコロ変わるような場面は
トムくんの神経を疲れさせて、
強いストレスを感じさせているのを感じました。
こんなこともありました。
すれ違いざまに、「トムくん、手をつないで、あっちの部屋で遊ぼうか?ぶらさがるおもちゃのある部屋」と
声をかけたときのこと、聞き取れていなかったらしくそのまま数歩先までいってから、
後ろに下がってきて、わたしの手を取り、
「なあに?」という表情で顔を近づけてきました。
「あっちの部屋で遊ぼうか?ぶらさがるおもちゃのある部屋」と繰り返すと、
すごくホッとした様子になって、手をつないで奥の部屋に向かいました。
わたしとしては何気なくかけた言葉だけれど、
トムくんにすると、きちんと正しい指示が読み取れているだろうかと、
正しさを確認するまで緊張感が高まっていたようなのです。
見守る人々の対応が
大切な時期にさしかかっているのかもしれません。
次回に続きます。