虹色教室通信

遊びや工作を通して 子どもを伸ばす方法を紹介します。

ひとりひとりの子にとって一番大事な働きかけ 9

2011-05-26 14:16:18 | 子どもの個性と学習タイプ

子どもの外側にある価値のありそうなものを与えるのに忙しくて、
子どもの内部にある価値を見いだすことをおろそかにしている場合も、
子どもの発信するものを「ノイズ」と捉えてしまいがちです。

特に内向的な子たちは、
どんなにすばらしく見えるものよりも、どんなに高く評価され、どんなに人気があって、どんなに得したように思えるものよりも、
自分の内部にあるものに価値を置きます。

周囲からはどんなに無価値に見えても、
自分で思いついたアイデア、
自分で考えたこと、自分が好きだと感じているものが、
一番だったりするのです。

ですから、こうしたタイプの子たちには、
「すばらしい体験をさせてあげよう」「こんな知識、あんな知識を与えよう」
といった親の態度が、

「自分の発信しているものを否定された」「自分自身は無価値な人間だ」という伝わり方をしてしまうことがあります。

また実際、いろんなすばらしい体験を与えることに忙しければ、
子どもが思いついたアイデアは親の目には色あせて陳腐なものに映るし、
子どもの考えたことに耳を傾けるのは、忘れがちになります。

子どもが「好き」と思うものがあっても、
「そんなものよりもっともっとステキなものをあげたいのよ!」と
喜ばせたい気持ちが先に立って、
その子の好みをスルーしてしまっている事実にも気づけません。


1歳後半のおそらく内向的感覚の思考寄りと思われる★くんのレッスンで、
★くんのお母さんは、★くんがかわいくてたまらない様子でした。
★くんはとても利口な子で、電車のおもちゃを指しながら、
細かい部分にも気づいて指摘していきます。
さまざまなものを几帳面に観察していて、語彙も豊富です。

慎重で神経質な性質なので、自分から積極的に何かをはじめることはまれで、
たいていは、
お母さんに誘われたり、ちょっと背中を押してもらったりしてから、
やりはじめるのですが、
少しすると緊張した面持ちになってやめてしまいます。

それか、★くんは自分では動かずに、
お母さんに欲しい物を取ってくれるよう催促したり、お母さんに自分の代わりにやってくれるよう頼んだりしていました。
★くんのお母さんは、ほとんど機械的に、
★くんに催促されると、すぐにそのように動くことを繰り返していました。

その様子を見た私は、★くんが、電車のおもちゃを取って!と身振りで催促するときに、すぐに渡さずに、それを後ろ手に隠しました。
すると、びっくりした表情の★くんが、
私の方に「んっ!」と言いながら手を突き出して、さらに催促しました。

そこで、私は、その電車を子どもイスをくぐらせて★くんの方に
滑らせました。
それから、★くんがどうするのか様子をうかがっていました。

★くんは、しばらくはそれまでと同じく一人遊びを始めて、
電車のおもちゃを無表情で動かしていました。
が、急に思いついたように、子どもイスをくぐらせて電車のおもちゃをこちらに滑らせてきました。

私は「内向的な★くんにとって、このように自分から思いついて他人に働きかけるのは、本人にすれば重要な意味を持つのだろう」と感じました。
ここで、しっかり★くんからのメッセージを受信したのです。


すると、その日★くんは、静かに一人遊びをしているかと思うと、
あっと思いついたように、こちらに電車を滑らせてくるということを
何度も繰り返して、
そうするたびに、それまで見たことがないような顔をくしゃくしゃにさせた笑顔を見せるようにしました。
★くんは、私の方に電車をシューと滑らせるたびに、
「これ、ぼくが自分で考えたことなんだよ」とでも言いたげな
自信に満ちた満足そうな表情を浮かべていました。

★くんは、「これは●色」「これは●●だよ」といった
自分の知識をたくさん発信していて、それにはお母さんがきちんと応えてあげています。

けれども、「これしてごらん」という指示で動くか、「これして!」とお母さんにしてもらうか以外、自分から動いて、
誰かがしたことを真似してみたり、
自分で考えたフィードバックを返したりすることがほとんどないので、
こんなささいなことも、心躍らせる出来事だったようです。

それは自分で思いついて、やってみたことだったからです。


「ささいな」と書きましたが、内向的な子どもたちにとって「ささいな」ことしか大事でない場合は多いのです。
外からくる多量の刺激は、美しくて面白いものでも、
苦痛でしかないか、自分自身の感性をにぶらせて、
ぼんやりした意識で
ベビーカーに乗ったまま楽しむものでしかないのです。

こうしたタイプの子たちは、
遊園地にお出かけしなくても、
親御さんたちが自分のおしゃべりに心から面白そうに注目していれば、
それは最高の休日なのです。

内向的な子たちは、外にあるすばらしいものではなく、
「自分から発信するもの」「自分の内部にあるもの」が何より大切で、
親御さんにそれを認めてもらい、
愛情を込めて大切に扱ってもらうと
幸せそうにしています。

もちろん、外向的な子たちにしても、子どもは
外のすばらしいものを与えてもらったり、自分に付け加えるよりも、
自分のすばらしさを親に発見してもらう方がうれしいのです。
そこには才能の種が芽吹いているし、
そうして注目されて、日が当たったり、水が与えられたら、
子どもの能力は自然にどんどん伸びていくのです。


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ひとりひとりの子にとって一番大事な働きかけ 8

2011-05-26 08:57:43 | 子どもの個性と学習タイプ
前回の続きです。
子どもの発信するものを「ノイズ」と捉えてしまう理由のひとつに、
子どもの個性についての知識が少ないために、
その子の性質の長所も含めたあらゆる面を「悪いもの」や「ノイズ」として受信してしまうということがあります。

たとえば、内向的感覚の子が「新しいチャレンジにぐずぐずして参加しない」のは、
「やりはじめたことは簡単に投げ出さずに、根気よくていねいに関わる」ことと表裏一体なのです。

けれども、次々と新しいことを求めて探索し続ける直観が優れた親御さんでしたら、
「何をさせようとしてもぐずぐずして取り組まない姿」を
「ノイズ」として捉えるだけでなく、

「根気よくていねいに取り組む姿」も
「まだ同じことばかりやっている。進歩がない……」として「ノイズ」と感じてしまうことが多々あるのです。

フォン・フランツは、『ユングのタイプ論』という著書の中で次のように述べています。
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実際上とても重要になるのが、タイプ論です。
なぜならこれがまるきり見当違いに人を理解しないようにする、
唯一の方法だからです。
自然な反応がまったく捉えがたく、こちらが自覚しないで対処すると取り違えてしまう、そんな人を理解する手掛かりとなるのが、
タイプ論なのです。
             (『ユングのタイプ論』創元社)
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

性格タイプによって勉強への取り組み方のようなものもずいぶん違います。
先日、内向的思考の感覚寄りと思われる小2の●くんが
算数の問題を解く様子を「面白いな」と思って眺めながら、

この子の解き方は見る人によって「ノイズ」として扱われてしまうことがあるんだろうな……と考えていました。

●くんは、とても思考する力のある子で、プライドも高くで、
知的な課題では、非常にチャレンジャーな一面を見せることがあります。

それまで習ったことがない自分なりの方法で式を立てて解こうとするのです。
といっても、思考とともに感覚が優れている子なので、独創的に解くのではなく、
式をより洗練させる形で工夫します。

たとえば、この日私が出した問題は、●くんが初めて解く問題で難しいものでした。
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バケツに 水を 入れて、長い ぼうを まっすぐに 立てました。
つぎに その ぼうを さかさまにして 立てると、水に ぬれなかった ところが
7cm のこりました。 水のふかさが68cmだとすると、ぼうの長さは
何cmですか。

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すると、●くんは、68×2+7
と書いて解き始めました。

●くんにすると、68+7+68なんていう式がダサい……と感じるらしいです。
ですから、いつもよりシンプルでかっこよく見える()を使ったり、かけ算や割り算を入れたりした式にして
表そうとするのです。

私が解答の答えを示すと、次にはそれと同じではなくて、より美しい式にできないかと必死になります。

こうした態度は内向的直観思考寄りのうちの息子が小学生のときにも
よく見られて、息子の場合は直観が優れているので、
同じ算数で見せるチャレンジャーな一面も、「洗練された美しい式を立てる」ことに向わず、
「公式そのものが生まれたときの理由にまで遡って、
全くゼロの地点から新しい解き方を生み出す」
ことに燃えていました。

●くんにしても、うちの息子にしても、こうした一面は、
公立私立に関わらず、小学校では頭ごなしに否定されてしまうことがよくあります。

●くんの場合も、息子の場合も、先生の指示通りの式を書かない点でも
たとえ正しくても減点されるし、

おまけにそうしたチャレンジゆえに計算間違いなどをしてしまうときには、
ひねくれていると取られたり、
厳しく攻撃されることもあるのです。

そうした面を、「ノイズ」として捉えてしまうと、
無視するか、注意してやめさせるかしか選択肢がありません。

でも、そこに、その子の個性的な能力の輝きを見出すのなら、
今は無意味で無価値に見えても、
時が経てば、それはその子の人生で必ず役に立つ何かになるはずなのです。


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ひとりひとりの子にとって一番大事な働きかけ 7

2011-05-26 05:53:14 | 子どもの個性と学習タイプ
昨日は1歳後半の★くん、☆ちゃんのレッスンでした。
★くんはおそらく内向的感覚の思考寄りの男の子。
☆ちゃんはおそらく外向的感情の感覚寄りの女の子。


★くんは新しいことにチャレンジしようと思うたび、少しやりかけると
お片づけが気になって、まだ遊ばないうちから
緊張した表情で几帳面におもちゃをきっちりそろえて、お片付けをはじめます。
親御さんがいつも片づけを強要しているからというより、
内向的感覚の子独特の神経質さが、そうさせているようでした。

出したものを片づけられることは大事ですが、
それが気になって、何もはじめられなくなったり、していることへの熱意がすぐに遮断されるようでは困ります。

内向的感覚の子のように慎重で神経過敏な性質の子には、
これまで何度も書いてきている
「親が子どもの発するものを受信する」力が非常に重要になってくると感じています。

さまざまなことが「できない」とき、
能力的な問題でできないのではなくて、
取りかかる時に不安が強すぎて、その結果、ほとんど何もしないために
できるようにもならないという子がいるのです。

慎重すぎる性質の子には、親は
「これしてごらん」「あれしてごらん」と後押しして
やらせようとすることが増えます。
でも、それが原因で、もともと慎重で、「あれがしてみたい」という意欲が生まれる機会が少ないのに、そのチャンスをほとんど親が奪ってしまうので、
本人は自発的に始めたという実感がいつまでも持てない場合があるのです。

声をかけるとすれば、
「子どもの好奇心や意志が表情に浮かんでいるのを見て、自分から関わろうとするまで黙って待ってあげる」など、
タイミングがとても大切です。 

ただ慎重な子というのは、親が期待する反応と、その子の今にとってちょうど良いレベルの反応というのに、
かなりの落差があるので、
注意が必要です。

慎重な子の場合、初めて目にするものなら、「あれ?面白そうだな」と
チラチラそれを楽しそうにしている様子をうかがう……
程度でその日はお腹いっぱい状態だったりするのです。
無理やりやらせると、不安や恐怖心や嫌悪感が高まって
2度とそれをしようとしなくなるかもしれません。

ですから、「消極的で何をするときも嫌々取り組む姿が心配です」といった内向的感覚の子には、
本来なら、「あれ?面白そうだな」とチラチラと見る段階の経験をたくさん積ませてあげて、しまいにやりたい気持ちがあふれてきて、
自分から働きかけていくのを待ってあげると、
このタイプの子の「一度はじめたことにじっくり取り組み、完璧になるまで根気よく繰り返す」という良い面が発揮されるようになるのです。

次回に続きます。



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