子どもの外側にある価値のありそうなものを与えるのに忙しくて、
子どもの内部にある価値を見いだすことをおろそかにしている場合も、
子どもの発信するものを「ノイズ」と捉えてしまいがちです。
特に内向的な子たちは、
どんなにすばらしく見えるものよりも、どんなに高く評価され、どんなに人気があって、どんなに得したように思えるものよりも、
自分の内部にあるものに価値を置きます。
周囲からはどんなに無価値に見えても、
自分で思いついたアイデア、
自分で考えたこと、自分が好きだと感じているものが、
一番だったりするのです。
ですから、こうしたタイプの子たちには、
「すばらしい体験をさせてあげよう」「こんな知識、あんな知識を与えよう」
といった親の態度が、
「自分の発信しているものを否定された」「自分自身は無価値な人間だ」という伝わり方をしてしまうことがあります。
また実際、いろんなすばらしい体験を与えることに忙しければ、
子どもが思いついたアイデアは親の目には色あせて陳腐なものに映るし、
子どもの考えたことに耳を傾けるのは、忘れがちになります。
子どもが「好き」と思うものがあっても、
「そんなものよりもっともっとステキなものをあげたいのよ!」と
喜ばせたい気持ちが先に立って、
その子の好みをスルーしてしまっている事実にも気づけません。
1歳後半のおそらく内向的感覚の思考寄りと思われる★くんのレッスンで、
★くんのお母さんは、★くんがかわいくてたまらない様子でした。
★くんはとても利口な子で、電車のおもちゃを指しながら、
細かい部分にも気づいて指摘していきます。
さまざまなものを几帳面に観察していて、語彙も豊富です。
慎重で神経質な性質なので、自分から積極的に何かをはじめることはまれで、
たいていは、
お母さんに誘われたり、ちょっと背中を押してもらったりしてから、
やりはじめるのですが、
少しすると緊張した面持ちになってやめてしまいます。
それか、★くんは自分では動かずに、
お母さんに欲しい物を取ってくれるよう催促したり、お母さんに自分の代わりにやってくれるよう頼んだりしていました。
★くんのお母さんは、ほとんど機械的に、
★くんに催促されると、すぐにそのように動くことを繰り返していました。
その様子を見た私は、★くんが、電車のおもちゃを取って!と身振りで催促するときに、すぐに渡さずに、それを後ろ手に隠しました。
すると、びっくりした表情の★くんが、
私の方に「んっ!」と言いながら手を突き出して、さらに催促しました。
そこで、私は、その電車を子どもイスをくぐらせて★くんの方に
滑らせました。
それから、★くんがどうするのか様子をうかがっていました。
★くんは、しばらくはそれまでと同じく一人遊びを始めて、
電車のおもちゃを無表情で動かしていました。
が、急に思いついたように、子どもイスをくぐらせて電車のおもちゃをこちらに滑らせてきました。
私は「内向的な★くんにとって、このように自分から思いついて他人に働きかけるのは、本人にすれば重要な意味を持つのだろう」と感じました。
ここで、しっかり★くんからのメッセージを受信したのです。
すると、その日★くんは、静かに一人遊びをしているかと思うと、
あっと思いついたように、こちらに電車を滑らせてくるということを
何度も繰り返して、
そうするたびに、それまで見たことがないような顔をくしゃくしゃにさせた笑顔を見せるようにしました。
★くんは、私の方に電車をシューと滑らせるたびに、
「これ、ぼくが自分で考えたことなんだよ」とでも言いたげな
自信に満ちた満足そうな表情を浮かべていました。
★くんは、「これは●色」「これは●●だよ」といった
自分の知識をたくさん発信していて、それにはお母さんがきちんと応えてあげています。
けれども、「これしてごらん」という指示で動くか、「これして!」とお母さんにしてもらうか以外、自分から動いて、
誰かがしたことを真似してみたり、
自分で考えたフィードバックを返したりすることがほとんどないので、
こんなささいなことも、心躍らせる出来事だったようです。
それは自分で思いついて、やってみたことだったからです。
「ささいな」と書きましたが、内向的な子どもたちにとって「ささいな」ことしか大事でない場合は多いのです。
外からくる多量の刺激は、美しくて面白いものでも、
苦痛でしかないか、自分自身の感性をにぶらせて、
ぼんやりした意識で
ベビーカーに乗ったまま楽しむものでしかないのです。
こうしたタイプの子たちは、
遊園地にお出かけしなくても、
親御さんたちが自分のおしゃべりに心から面白そうに注目していれば、
それは最高の休日なのです。
内向的な子たちは、外にあるすばらしいものではなく、
「自分から発信するもの」「自分の内部にあるもの」が何より大切で、
親御さんにそれを認めてもらい、
愛情を込めて大切に扱ってもらうと
幸せそうにしています。
もちろん、外向的な子たちにしても、子どもは
外のすばらしいものを与えてもらったり、自分に付け加えるよりも、
自分のすばらしさを親に発見してもらう方がうれしいのです。
そこには才能の種が芽吹いているし、
そうして注目されて、日が当たったり、水が与えられたら、
子どもの能力は自然にどんどん伸びていくのです。