閑静な住宅街にある我が家のすぐ隣に車数台分の小さな青空駐車場がある。ちょうど四つ角にあるその駐車場と道路を分けるのは樫の木が植わった小さな緑地である。その小さな緑地を囲むようにブロック二個を積んだ囲いがある。ブロック二個分の高さは人が座って休憩するのにちょうどいい高さだ。毎日いろんな人が数分ひと休みをする。
70歳前後のご婦人の二人連れは座り込んだらいつまでもおしゃべりを続けている。休みの日には子供の待ち合わせ場所にもなる。また学校帰りの小学生には格好の平均台だ。重いランドセルを背中に両手を広げてバランスをとりながら4~5人が一列になってそのブロックの上を歩く様子をながめているのは楽しい。
ところで、この休憩場となった木のそばのブロックに毎朝缶ビールの空き缶が一つぽつんと残されているのだ。夜の内に誰がそこでビールを飲むのかどうしてもわからない。空き缶は家に持って帰ればいいのに必ずそこに置き去りにしている。雨の日以外は夏であれ冬であれ、毎日この調子だ。このひと缶のビールの空き缶が置かれ始めてもう二年になる。近所の人だろうがいくら努力してこの人に会おうとしても、ここでこの人が飲む時間がまちまちで姿さえ見たこともない。道を挟んだ向かいの家の軒には自治会の防犯の監視カメラが取り付けられているが、そんなものを調べてその人を確認しても面白くないのでやらない。僕はこの空き缶を集めて片づけるのだがすぐにごみ袋がいっぱいになるほどである。
何故家で飲まないのだろう。とにかくこの不思議が僕の想像を駆り立てる。この人が家で飲まない、いや飲めない理由はなんだろう?
次々と湧いてくる興味と想像を楽しもうと心に決めた。現在もまだこの空き缶の片付けは続行中である。Enjoy the world around you.(周りの世界を楽しもう)。さぁて、あと何年続くのだろう?