雪の朝ぼくは突然歌いたくなった

2005年1月26日。雪の朝、突然歌いたくなった。「題詠マラソン」に参加。3月6日に完走。六十路の未知の旅が始まった…。

050624 歌の力

2005-06-25 00:11:00 | 歌の力
落ち方の素赤(すあか)き月の射す山をこよひ襲はむ生くる者残さじ
磧(かはら)より夜をまぎれ来(こ)し敵兵の三人(みたり)迄を迎へて刺せり
ひきよせて寄り添ふごとく刺(さ)ししかば声も立てなくくづをれて伏す
一角の塁奪(と)りしとき夜放(よるはな)れ薬莢(やくけふ)と血潮(ちしほ)と朝かげのなか
俯伏(うつふ)して塹(ざん)に果てしは衣(い)に誌(しる)しいづれも西安洛陽の兵

                   (宮柊二「山西省」『宮柊二集1』岩波書店、1989年)

 周知のように、白秋を師と仰ぐ宮柊二は一兵卒として4年間中国侵略戦争に従軍しました。これらの凄惨な白兵戦の歌は、その3年目の1942年、宮柊二30歳のときに詠われたものです。
 高野公彦を介して宮柊二の孫弟子に当たる大松達知は、1995年と2002年に「宮柊二の旅」に参加して、山西省を訪れ、次のような歌を詠っています。

日本軍を語る老人ふりあげてふりおろす手の鈍(どん)たれど速し
語りゆき顔赤らめる老人は怒りてゐるか表情が読めず
カメラにてわが追ひてゐし幼子を無言のままに引き寄せし女(ひと)
写さんとすれば隠るる女ありかく犯せしかあのときの兵ら

              (大松達知『大松達知歌集 フリカティブ』柊書房、2000年)

日本鬼子(リーベンクイズ)とささやかれつつこの村過ぎたる中に柊二ありけん

              (大松達知『大松達知歌集 スクールナイト』柊書房、2005年)

 この間の中国における「反日」感情の高まりや、それに対抗する日本での「反中国」感情の高まり。
 また、それと深く関わる「靖国」問題。
 これらの複雑な問題を粗雑なナショナリズムの罵詈雑言の応酬に終わらせないためにも、上記の歌を含めた宮柊二の戦場詠を改めて丁寧に丁寧に読み解いていくことが必要だと思います。
 そこには、侵略戦争への疑問と中国民衆への敬意の芽生えとともに、よき日本人であろうとし、戦友の死を深く悲しまざるをえない、ひとりの誠実な揺れ動く魂の記憶がリアルに詠われているからです。

 遅まきながら、『宮柊二集』全11巻をインターネットで買い求めました。これまで長いあいだ短歌の世界とは無縁の場所で考え続けてきたことを、短歌との関わりでも考えて見たいと思い始めたのです。
 


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5 コメント

コメント日が  古い順  |   新しい順
こんにちは。 (大松達知)
2005-07-04 16:47:08
こんにちは。

 わが師である宮柊二の歌、そして、それらと関連付けて拙作に理解あるコメントをいただけたこと、とてもうれしいです。このテの歌は敬遠され画地なようですが、自分では思い入れの強い歌なのです。

 旅行詠には傑作が少ないと言われます。そこをなんとか切り開こうとして作った作品です。自分の足元から社会問題も政治問題も考えて行きたいと思っています。

とりあえず。

大松達知
返信する
がち、ですね。 (大松たつはる)
2005-07-04 16:49:14
誤記がありました。がち、です。
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光栄です (謎野)
2005-07-04 17:30:04
大松さん

書き込みありがとうございます。

「このテの歌は敬遠されがち」ななかで、それらに注目した最初の何人かの人間になったわけですね。

光栄です。

宮柊二関係や渡辺直己関係の文献をボチボチ集め始めました。

『支那事変歌集』などというものも買って読んでいます。

まだ星雲状態ですが、いずれ形になればと願っています。

いろいろと教えてください。
返信する
ご無沙汰しています (今泉洋子)
2005-07-15 22:19:48
 謎髭さん

ご無沙汰していますが お元気ですか?

私もコスモスで勉強しているので、宮柊二の作品

ぼちぼち勉強しています。以前「小紺珠」を読む

勉強会にも参加していました。



私の父も昭和十四年宮柊二と同じ年に招集され山西省の太原の野戦病院で衛生兵だったそうです。



・山西省(さんしい)に兵の日遠く生き継ぎし

父と語れり宮先生を



宮柊二の作品の中でも、「山西省」は特に好きです。謎野さん宮柊二の作品採りあげていただき

有り難うございます。



謎野さんコスモスで一緒に勉強しませんか?

(コスモスの回し者ではありませんが、、、)

それから、講談社学術文庫の高野公彦「現代の

短歌」とてもいいですよ。



 またお邪魔します。
返信する
今泉さん、ようこそ (謎野)
2005-07-15 23:09:16
今泉さん、ようこそ。



山西省(さんしい)に兵の日遠く生き継ぎし父と語れり宮先生を



そうなんですか。びっくりしました。



「コスモスで一緒に勉強しませんか?」の件は大松さんからも言われたことがあるのですが…。

なにせ基礎的教養を欠いていますので、もう少し一人で勉強してからかなあなどと、愚考しています。



真白なる十字架背負ふドクダミは「エリ、エリ、レマ、サバクタニ」と言ふにかあらむ



ところで、今泉さんのこのお歌をこのブログで取り上げたつもりになっていましたが、見つかりません。

どこかほかで触れたのでしょうか。

歳をとるとこれですからねえ。

神は我を見捨て給ひしか、ですね。



ありがとうございました。
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