夏木広介の日本語ワールド

駄目な日本語を斬る。いい加減な発言も斬る。文化、科学、芸能、政治、暮しと、目にした物は何でも。文句は過激なくらいがいい。

「強」と「弱」の正しい説明は?

2008年11月07日 | Weblog
 ある番組で7つで200万円の値の付いた物を「一つ30万円弱だ」と言っていた。別に間違いは無い。しかし私は一瞬、間違っていると思ってしまった。一つ30万円なら7つで210万円になる。それが200万円なのだから、10万円の切り捨てになる。切り捨てだから「弱」ではなく「強」ではないか、と思ったのだ。それで「一つ30万円強」になるのではないか、と早合点したのである。
 210万円が200万円になるのなら、「200万円強」と言えるが、これは一つの値段の話であり、一つは平均約28万6千円だから、30万円弱なのだ。
 
 念のために、いつもの事ながら、国語辞典を見た。
Aの辞書
・強=切り捨てた端数のあることを示す語。⇔弱。「五百円強・三キロ強」
・弱=近似値の示し方の一種。ある数をある桁で切り上げた時に添える語。⇔強。「三千名弱」

 本当に毎度の事ながら、どうしてこのようにまるで異なる説明になるのだろう。反対語がそれぞれ「弱」と「強」なのだから、同じ概念に決まっている。例えば次のように出来ないのか。
・強=近似値の示し方の一種。切り捨てた端数のあることを示す。
・弱=近似値の示し方の一種。切り上げた端数のあることを示す。

Bの辞書
・強=単位量の整数倍に端数が何ほどか加わることを表わす語。「五キロ強」⇔弱
・弱=単位量の整数倍に何程か足りないことを表わす語。⇔強

 Aの辞書と全く同じ事が言える。しかも片方は「何ほど」で、もう一方は「何程」である。片方には「端数が」とあり、もう一方には無い。しかも用例も片方だけにしか無い。別にスペースが無い訳ではない。私は馬鹿じゃなかろうか、としか思わない。

Cの辞書
・強=その数よりも、少し多いことをしめす。たとえば、「一・三二」を「一・三強」という類。
・弱=その数よりは、すこし足りないことを示す語。「五十八人」を「六十人弱」という類。

 反対語は説明の前に示されている。説明は良い。特に用例の説明がきちんと出来ている。ただし、こうした説明よりも、例えば「強」では、〈実際の数が、示した数よりも少し多いことを表す。例えば、実際の数が「一・三二」の場合に「一・三強」として示したりする〉などとすれば、もっと分かり易くなる。
 そして「も」と「は」の違い、「少し」と「すこし」、「しめす」と「示す」。引用の間違いかと思わず見直してしまった。特に漢字と仮名の使い方については、単に見識が足りないだけの事である。

Dの辞書
・強=端数を切り捨てたことを表す。「千人強の人数」「四メートル強の高さ」
・弱=《数を表す名詞に付いて》端数を切り上げたことを表す。「五百メートル弱の距離」「三万人弱の観客」「三か月弱の工事期間」

 反対語の表示は無い。これも「弱」だけに「数を表す名詞に付いて」の説明がある。しかも三つもの用例は要らない。

Eの辞書
・強=数量を表す語に付いて、実際はその数よりも少し多いことを表す。数の端数を切り捨てたときに用いる。「五キロ強」「九割強」⇔弱
・弱=端数を切り上げたとき、数を表す語の下に付けて用いる。「五〇〇人弱の聴衆」「二〇万円弱の給料」⇔強

 もう言う言葉が無い。しかも「五〇〇人」「二〇万円」とまるで見識が無い。「五〇〇人弱」とは切り上げて五百人になったのである。だからその数は概数である。四九九人でも、五〇一人でもなく、五〇〇人ジャストである、と言うのではない。従って「五百人弱」「二十万円弱」が正しいはずだ。これでも国語辞典か。しかも大型国語辞典なのである。

Fの辞書
・強=ある数のほかに切り捨てた端数のあること。実際はその数値よりもやや多いことを表す。「二メートル強」⇔弱
・弱=切り上げてその数になったことを示す語。実際はその数値よりもすこし少ないこと。「一万人弱」⇔強

 「実際は」との説明は良い。しかしこれまた説明の仕方が両者で違う。それに「やや」と「すこし」はどのように違うと言うのか。

 以上。これで、これらの辞書は本当に理解が出来ているのだろうか、と私は疑ってしまう。なぜ説明の仕方を変えるのか。同じでは能が無いと思われるとでも言うのか。
 はっきりと言えば、これが絶対だ、と確信の持てる説明になっていないから、ふらふらと揺れるのである。いい加減な説明に終始しているから、同じ概念なのに異なる説明が生まれるのである。簡潔で分かり易く、誤解を生まない、などの条件を考えれば、どうしたって、ある一つの説明に落ち着くはずである。もちろん、それは誰がやっても同じになる、などと言うのではない。しかし、それがまるで異なる二つの説明になってたまるもんか。まさか、反対語の両方を見て、それぞれに不足している説明を補って読め、と言うのではないだろう。
 因みに上記の辞書は、順不同で、「新撰国語辞典」「岩波国語辞典」「広辞苑」「明鏡国語辞典」「新明解国語辞典」「大辞泉」である。