夏木広介の日本語ワールド

駄目な日本語を斬る。いい加減な発言も斬る。文化、科学、芸能、政治、暮しと、目にした物は何でも。文句は過激なくらいがいい。

「におっていいですか」とは何たる言い草か

2008年11月05日 | Weblog
「におっていいですか」の意味を答えて下さい。
 先日、テレビ出演者は自分の辞書を持つべきだ、と書いた。
 言うまでもなく、テレビは意思を伝えたいと存在している。そしてその手段は言葉である。同じ言葉を使ったって、受け取り方は人それぞれに異なる。代表的なのが「考えておきます」あるいは「考えさせて下さい」である。
 文字通り、考える場合と、はなから考えずに拒否している場合とがある。「嫌です」「駄目です」と言いたくないから、こうした言い方がされている。これは文化だから、習得するしか無い。
 そうした事を含めて、言葉は非常に難しい。上のように極端ではなくても、少しずつずれが生じている場合は多い。言葉をきちんと使っていてさえそうなのだから、間違って使っていようものなら、とんでもない事になる。

 タイトルの「におっていいですか」の意味、あなた、分かりますか?
 これはフジテレビの「ごきげんよう」と言う番組での出演者の言葉である。同番組は小堺一機さんが司会をしてゲスト出演者と面白おかしい会話を展開している非常に面白い番組である。司会者の人柄がよく出ていて、私は気に入っている。出演者も、含蓄のある事を言う人も結構多く、特に年齢の行っている人ほどそれが目立つ。
 問題の出演者は、今、人気の女優であるらしい。女性タレント、と言うのかも知れないが、魅力的な女性である。様々なドラマにも出演していると言う。出演者の一人のお笑いタレントが、風呂の無いアパートに住んでいて、風呂に行く代わりに、赤ちゃん用の一枚1円也のお尻拭きで全身を拭っているとの話に、皆が驚き、爆笑した。
 その彼が隣に来た時、彼女が聞いたのである。「におっていいですか」と。
 もうお分かりだろう。意味は「においをかいでいいですか」である。

 彼女はせりふをきちんと覚えて、演技をしていれば良いだけの人なのかも知れない。それなら、別に言葉を知らなくても用は足りる。だが、タレントとしても活動している訳だ。現に、この番組に出演している。それが「におっていいですか」なのである。
 いい歳こいて、いい加減にしろよ、と言いたくなる。小学生低学年だってそんな事、言わないぞ。その男性も結構きつい事言うくせに、この時は、何も言わなかった。まさか「におってませんか」と聞かれたと勘違いした訳ではないだろうに。にこにこと、においをかがせていたのだから、勘違いなどしていない。

 これが決して特殊な例などではないから言うのである。「アメリカをやめる」と言ってカナダに移住してしまったアメリカ人の話を聞き書き(本当は読み書きとでも言うのだろうか)で書いた。だが、我々日本人は「日本をやめる」事が出来ない。日本語は日本でしか通用していない。それなのに、その大事な日本語があまりにもいい加減である。多分、日本人しか使っていないから安心してしまうのだろう。「未曾有=みぞう」を「みぞうう」とはっきりと発音していた語り手が居る。実は私も昔そうだったから、特に気になるのだ。「相応しい=ふさわしい」を「あいおうしい」と言っていたレポーターが居る。今までに何度もその言葉を使って来ているはずだ。こんなのは氷山の一角に過ぎない。
 思い込みはなかなか抜けないが、他人の言葉にほんのちょっと注意深くなれば、あれっ? 自分の言っているのとは違うぞ、と気が付くはずである。それが気が付かない。つまり、他人の言葉を注意深く聞いてなどいないのである。そんな人が他人に向かって発言する資格があるのだろうか。