【ただいま読書中】

おかだ 外郎という乱読家です。mixiに書いている読書日記を、こちらにも出しています。

マンマ・ミーア

2010-06-21 18:53:53 | Weblog
アバの曲ばかりで構成されたミュージカル「マンマ・ミーア」は、見ているととにかくほっこりと幸せになるものですが、あそこで示される“時代の価値観”は私の年代からは非常に興味深いものです。だって「過去の全否定」だった全共闘世代の価値観とその子どもたちの「保守への回帰」の対立も見えるものですから。それが1970年代後半に一世を風靡したアバの曲で語られるとは、一見お手軽などたばたミュージカルなのですが、実は手が込んでいます。
ふっと思いつきました。もうちょっとシリアスな内容のミュージカルを、こんどはクイーンの曲だけで構成できないでしょうか。日本だと、日本語直訳の「女王様」の“先例”もありますから、これはこれで面白い作品になりそうです。誰かやってくれないかなあ。

【ただいま読書中】『最長片道切符の旅』宮脇俊三 著、 新潮社、2008年、1600円(税別)

1979年版の復刻版です。
一読「懐かしい~」の連発ですが、30年前に読んだときには知的な興奮が主だったのが、現在はむしろ時間との戦いや体力面に注目してしまいました。自分自身の境遇(時間がない、体力は落ちている)が読書感想にもろに反映していることが興味深く思えます。
それまでは金曜の夜から月曜の朝までの日程でいそがしく日本中の国鉄に乗っていた著者は、会社を辞めて時間がいくらでも使える状況に呆然とします。何をしたら良いんだ、と。選んだのは「一筆書き切符」。最長距離になるように連絡船と新幹線を含む国鉄を片道切符で乗ろう、という一部鉄道ファンの間では人気の試みです。さすがに国鉄バスは除くそうですが。
計画の段階から大変です。日本地図に国鉄線と距離を書き込み「一筆書き(同じ駅は通らない)が可能か」「どのルートが最長か」を検討しなければならないのですから。しかも新線が開通したら(あるいはどこかの線が廃止されたら)その計算は最初からやり直しです。最終案は、北海道の広尾から九州の枕崎まで13,319.4キロ(国鉄全線の営業キロの63%)となりました。なおこの経路は最短なら2,764.2キロだそうです。
さて、次は切符の購入。著者はレポート用紙三枚に、経由線区・乗換駅・運賃計算用の区間キロ数をぎっしり書いて窓口に持ち込みます。発行されたのは、乗換駅がぎっしりと手書きされた、有効期限68日間(最終期限は12月19日)、お値段は65,000円のとんでもない乗車券でした。
北海道の広尾を振り出しに北海道をぐるりと回り青函連絡船で青森に渡って東北をジグザグに南下して東京へ。そこで「いつでも乗れる」というダイヤにちょっとだらけてしまいますが、また気を取り直して著者は西に向かいます。しかし豊橋まで行ったところでまた北上。会津若松まで戻るというとんでもないルートなのです。そうそう、会津若松を出発して少し行ったところがこの「最長片道」の中間地点なのですが、カレンダーはすでに11月26日。実はもうあまり余裕はありません(途中で仕事が入って旅が中断されたり風で1週間寝込んだり、が効いています)。
12月18日(最終日の前日)、日向駅の看板は「21世紀の鉄道、浮上式実験線、当駅より16キロ、タクシー20分」。そう言えばリニアの実験をこのころからやっていたんですね。そして19日(最終日)、著者は寝坊をしてしまいます。

著者は「自分は一体何をやっているのだ」と自問しながらも、車窓の風景を愛で、地名や駅名からその土地の歴史に思いをはせ、その地の名物を食べようとするという「鉄」として“豊かな旅”を送っています。弱点は、植物の名前に弱いこと(私と同じ)と物忘れが多いこと(これまた私と同じ)。
旅に出る前は「日本を北から南に旅するのだから、ずっと紅葉がきれいだろう」などと著者はのんびり構えていたのですが、実際に出発すると、葉っぱの色に注目していたのは初めの数日だけです。そのかわり「におい」には敏感なタイプのようで、各地に特有のにおいを車内に嗅ぎつけ続けています。「日本匂いの旅」なんて企画は……売れそうにありませんね。
そういえば本書には「特急の食堂車」と「しばらく駅弁を売っている駅はない」は何回も登場しますが、朝早く旅館を発ったので朝食抜きだから駅前でちょっとコンビニに寄って弁当を仕入れる、というシーンが登場しません。著者が旅をした頃は、県庁所在地には少数のコンビニがあったけれど、地方都市ではまだその姿は見えない、という時代だったからでしょう。今著者と同様の一人旅をしたら、駅弁の登場は激減してその代わりをコンビニ弁当が占めるかもしれません。
……影響されやすい私は、ちょっとこういった旅行をしてみたくなりました。それも一気に最初から最後まで中断抜きで。ただ、路線が変わっているので最長ルートの開拓からやらなきゃいけませんね。面倒だし、体力面での不安が大だなあ。でも“老後の楽しみ”にすると、ますます体力が落ちてしまうなあ。



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