【ただいま読書中】

おかだ 外郎という乱読家です。mixiに書いている読書日記を、こちらにも出しています。

学校給食

2019-08-30 07:26:04 | Weblog

 私がすぐに思い出すのは、脱脂粉乳(小学6年生からやっと牛乳になりました)・鯨肉・魚肉ソーセージ・冷凍ミカンです。味はあまり思い出したくありません。

【ただいま読書中】『給食の歴史』藤原辰史 著、 岩波書店(岩波新書1748)、2018年(19年2刷)、880円(税別)

 義務教育経験者なら学校給食について何らかの思い出をもっているはずです。私自身も、小学校での給食の思い出はある程度残っています。授業の記憶なんか残っていないのにね。
 しかし思い出だけで給食を語ると大きな間違いが生じるでしょう。たとえば2005年から栄養教諭の制度が始まっています(知っていました?)。これは「各学校における指導体制の要として食育の推進に当たる専門教員」だそうです。本書に最初に登場する京都府伊根町本庄小学校の栄養教諭は「何時に農家を訪ねたら、一番先方の都合が良いか」を知るところから仕事を始めたそうです。この小学校では自校方式の給食ですが、地域農家の協力を得て運営しているのです。
 給食は「工場」「病院」「学校」が主です。軍隊や会社(社食)も給食と言えるでしょう。その中で本書で扱われるのは「学校給食」です。学校給食には「自校方式(学校に調理場が付属)」「センター方式(大型の調理場が複数の学校に給食を提供)」「親子方式(自校方式の学校が別の学校にも給食を提供)」「デリバリー方式(弁当外注)」があります。
 (学校)給食には「家族から切り離されて食べる」「貧乏のスティグマを子供に刻印しない鉄則がある」「食品関連事業の市場である」という特徴があります。
 日本で江戸時代に、会津藩の藩校日新館や松下村塾で食事を出していたという記録があります。明治時代では、1889年(明治二十二年)に山形県の私立忠愛小学校が設立と同時に給食を開始したのが「学校給食」の始まりとされています。握り飯二つと野菜と魚類(ほとんどは塩乾物)だったそうです。義務教育が普及するにつれ、子供を学校にやることを渋る親に対して学校の魅力を高める役割も給食は果たしました(これは西洋でも同じだったそうです)。給食には栄養学の実験、という意味もありました。「栄養のバランスが取れている食事がよい」という仮説を実証するためには、そういった給食を提供して児童の身体測定をすれば良いわけです。「栄養学の父」佐伯矩は実際にそういった実験を行っています。
 貧困対策(かつ子供にスティグマを与えない)も給食史では世界的な共通事項です。また、見逃されがちですが、東北の飢饉による欠食児童・関東大震災後の東京市での学校給食(センター方式)普及など、「災害」と給食には密接な関係があります。著者はさらに「戦災」も「災害」に含めています。「兵隊の体位向上」を名目に学校で牛乳を飲ませたり、空襲後には調理場を炊飯場に転用して炊き出しができる、と言ったり、給食関係者はあの手この手を使っています。
 戦後のアメリカからの脱脂粉乳や小麦粉の援助については広く知られていることでしょう。ただGHQでは「不穏な空気を醸成させないためにも給食が必要」と議論されていたそうです。つまり給食は治安維持装置でもあったわけです。ところが「一斉の給食は社会主義的」と反対する人(たとえば池田首相)もいました。
 1960年代から給食の合理化運動が始まります。都会ではセンター方式が推進されますが、これによって質が劣化するとして反対運動も起きました。また、先割れスプーンをめぐって「犬食いの姿勢を招く」とマナー論争が起きます。米離れと生産調整の失敗から大量に生じた余剰米の受け皿として給食が使われました。しかしそれまで学校給食に貢献していたパン屋を無視するわけにもいきません。そこで、パン屋が米を炊いて学校に納めることになったそうです。大まじめに面白いことをやっています。子供たちに人気のソフト麺は、原材料が小麦粉・食塩・脱脂粉乳で、著者は「日米の余剰農作物処理プロジェクトの結晶」と評しています。家庭では敬遠されていた冷凍魚も給食(特にセンター方式)では歓迎されました。
 給食には「政治」「経済」「農業」「災害」「科学」「社会」「教育」「運動」など様々な側面があります。そして現在給食が問われるのは「なぜ給食が必要なのか」の根拠でしょう。著者は「貧困」がまだ解消されていないことを重視しているようです。そして「子ども食堂」だけではなくて「給食」がもっと貧困層の救済に活用されて良いのではないか、という指摘も本書ではされています。食のセイフティーネットとしての給食が「画一的なエサ」ではなくて「美味しい食事」であれば、それは貧乏ではあっても文化的な社会であることを意味するのでしょう。





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