【ただいま読書中】

おかだ 外郎という乱読家です。mixiに書いている読書日記を、こちらにも出しています。

禁止の強制

2010-05-27 18:38:59 | Weblog
心理学の面白い実験で、「○○のことを考えてはいけない」というのがあります。たとえば「何を考えても良いんだけれど、これから10分間はショッキングピンク色の象のことだけは考えてはいけません」と被験者に言い渡します。すると「そんなの簡単だ。ショッキングピンクの象なんていないんだから」と被験者が実験に突入すると「えっと、考えちゃいけないんだよな。白い象は大丈夫。黒い象も大丈夫。えっとピンクの象はいいけどショッキングピンクのは考えちゃいけないんだ……あああああ、考えちゃった」となるわけ。
「そんな莫迦な」と思った人。ではこれから数分間「赤と白のしましまのミミズ」のことを考えないでいてくださいね。考えちゃダメですよ。ダメですってば。

【ただいま読書中】『失楽園(上)』ミルトン 著、 平井正穂 訳、 岩波文庫32-206-2、1981年

叛逆の天使たちを従え、天界で神に対する闘いを始めたサタンが闘いに敗れ、仲間とともに地獄の底に落とされたところで本書は始まります(私は一瞬孫悟空を連想してしまいます。孫悟空の場合には数百万の仲間はいなかったし、墜とされたのは地獄ではありませんでしたが)。サタンの隣に横たわっているのはベルゼバブ(ヘブライ語で「蝿の王」)。自分たちの本来の住処である天国を失ったことを惜しみ、神の意図を推し量りながら二人は会話を続けますが、意外なところにガリレオ・ガリレイが登場します(「さながら月そっくりであった──そうだ、例のトスカナの科学者が、斑点だらけの表面に何か新しい陸地か河か山を発見しようと、望遠鏡を通し……」という形で)。
そして、地獄の底での員数調べが行なわれます。無数の軍団の主だったメンバーが次々紹介されるのです。モーロック、ケモシ、アシトロテ、タンムズ、ダゴン、リンモン、オシリス、イシス、ホルス、ベリアル……それぞれの“勇名”とその主立った“業績”が語られますが、もちろんここに挙げたのですべてではありません。リストは延々と続きます。著者はなんだか楽しんでいるようです。
異教徒の神はすべて悪魔の仲間、ということなのかもしれませんが、それらがすべて「天使」のジャンルに含まれているのには、私は呆然とします。
さて、墜とされた天使たちは地獄で今後の方針を決定する会議を開きます。戦争かあるいは平和か、あるいは神の鼻を明かすために人類を堕落させて地上と地獄とをない交ぜにしてしまうか。最後の案(実はサタンの腹案)が採択され、そのために偵察員が派遣されます。困難なその役を買って出たのは、サタンその人。
さて、サタンの動きを神はすべてつかんでいました。しかし神は傍観します。「人は堕落しないように造ってある。万一人が堕落したとしてもそれはサタンのせいだからそれは免罪される」と。
なんだかひねくれた理論に思えます。そもそも「神に復讐するために、人を堕落させてやる」というサタンも相当屈折していますが、これではまるで人は「ゲームの駒」ではありませんか。(そういえば「ゲームの駒」の“資格”は「他人に自分の欲望を知られ、それを弱点として使用されること」という意味の言葉が先日読んだ『剣嵐の大地』に登場しました。しかしアダムとイーヴは無垢の存在で欲望は持っていません。ではサタンはどうしようというのでしょう。
エデンの園に忍び込んだサタンはガブリエルによってとっとと追い出されます。さらに神はガブリエルに、アダムに警告をするように命令します。そこでガブリエルは「天国での戦い」についてアダムに語り始めます。
ことはサタンの嫉妬から始まりました。神の御子(イエス)を自分のナンバーツーに据えようとした神に対して「自分の方が上なのに」とサタンが不満を抱き、仲間たちとかたらって戦いを起したのです。その数は、天国に住む全天使の1/3。数百万の大軍勢です。
第一日は神側が優勢でした。しかし天使は不滅の存在です。夜の間にサタン側は傷を癒し、さらに新兵器を開発します。大砲です。かくして第二日のはじめはサタン側が優勢となりますが、神側は山を引き抜いて投げつけ、サタン側も投げ返し、事態は泥沼化します(「力は山を抜き」(項羽)の西洋版ですな)。神はそれを憂え、第三日には神の御子を投入します。御子は神の雷霆(いかずち)を駆使し、サタン勢を地獄にたたき落としてしまいます。(しかし、超人的な戦い、地獄へたたき落とす、そして地獄でもおとなしくしていない……スーパーサイヤ人の戦いを連想する私は、もうちょっと高尚になった方が良いですか?)
ということで、本書の最初のシーンに戻るわけです。さて、この圧倒的に不利な状況から、サタンはどんな逆転策を見つけるのでしょうか。




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