親が死んだとき、役所などの手続きの煩雑さに、私は切れそうになりました。「これはここ」「これはあそこ」と行くべき役所が細かく分かれ、さらに同じ役所でも担当が違うと別の窓口に行かなければならない。そのたびに書類を記入しなければなりません。必要なものも窓口ごとに違います。
「マイナンバーは何の役に立っているんだ?」と言いたくなりましたっけ。というか、言います。「マイナンバーは何の役に立っているんです?」
【ただいま読書中】『ブロックチェーン、AIで先を行くエストニアで見つけた つまらなくない未来』小島建志 著、 孫泰蔵 監修、ダイヤモンド社、2018年、1600円(税別)
エストニアは「バルト三国」のひとつ、人口はわずか130万人、面積は九州と同じくらいの小さな国です。1991年にソ連から独立したのち、この国の政府は「行政システムの電子化」を一気に進めました。その結果、行政サービスの99%がオンラインで年中無休で利用できるようになっています。確定申告も数分から15分(すべての商取引が電子化されて残っているからだそうです)。「イーレジデンシー」という制度では、審査を通れば外国人でもエストニアの仮想居住者になれて会社の設立ができます(エストニアはEUに加盟しているので、これはでかい話になります。日本人もすでに1600人以上この資格を取得しているそうです)。
日本にあってエストニアにないもの。現金、確定申告用紙、ファックス、薬の処方箋、パーキングメーター、運転免許証、地域の回覧板、学校からのお知らせ、保険証……
エストニアでは、子供が誕生すると、10分後に政府からお祝いメールが届きます。そこにはその子の国民ID番号が記載され、それは同時に国の子育て支援制度への申し込みが終了したことも意味しています。日本のように煩雑な書類を書いて申し込む必要はありません(ちなみに、名前を決めるのは、日本では誕生後2週間以内ですが、エストニアでは2箇月以内です。すでにIDがあるから名前は二の次、ということかな?)。車の売買もオンラインで1分ですんでしまいます。日本のように書類を準備したり陸運局に行ったりする必要はありません。
エストニアでオンラインでできないことは3つ。不動産売買・結婚・離婚。どれも重大な決断で、ちゃちゃっとオンラインですることではないのだそうです。
エストニアのシステムは独特です。日本だったら巨大なデータベースを構築しようとして、入力ミスをしたりバックドアを開放してしまったりしそうですが、エストニアは既存のデータベース(政府のものと民間のもの)を安全につなぎ安全に利用できる「エックスロード」を構築することに注力しました。分散型データベースです。しかもエックスロードはオープンソース。人材を集めることとコストを安く抑えることが可能です。
役所は、若い人材を登用し、民間会社が開発したソフトをチェックします。民間に丸投げの日本とはここも違います。さらに13年以上前の古い技術は使用が禁止されているので、役人は常に新しい技術に関して勉強を続ける必要があるそうです。
プライバシーについてが気になりますが、エストニアでは、個人の情報にいつ誰がアクセスしたか、がすべて記録されてその個人に公開されています。そして、個人データの不正利用は刑務所行き。医師や警察官が罰せられたケースが実際にあるそうです。また、一般人はそもそも他人のデータベースにアクセスできません。もちろんそれでも不正利用はありそうですが、すくなくとも「透明性」は確保されているわけです。また、政府の目的が「国民のデータを管理する」ではなくて「国民の生活の利便性向上」だから、国民は喜んで利用している(そして利便性を向上させている)わけでしょう。(エストニア政府元高官に言わせると「日本のマイナンバーは実はユアナンバー(政府がコントロールしたいだけ)」と辛辣です。まあ、公文書改竄を平気でする国ですからねえ)
2007年エストニアはロシアからとみられる大規模なサイバー攻撃を受けました。サーバーはダウンしましたが、不幸中の幸いでデータ流出はなく、エストニアは逆にNATOに働きかけて「対ロシアのNATOサイバー防衛協力センター」を設置することに成功。さらにセキュリティーレベルを高めるためにエストニアは「ブロックチェーン」を採用しました。たとえデータが書き換えられたとしても、あとからそれが確実に追跡できる技術です。ただし、仮想通貨で用いられているものとは、質的に異なるものだそうです。
場所や金銭の制約をなくす、という点では、日本では「地方」がエストニアの方式を採用するメリットが多そうです。経費は節減できるし住民の満足度は上がります。エストニアのように他の地域から人材がどんどん集まる可能性もあります。エストニアは独立直後の非常に苦しい状態から電子国家で立国しました。ならば日本の地方も、同じようなことができる可能性はあります。
エストニアの歴史は「占領の歴史」でした。しかし、攻め込まれて国土を失ったとしても、国民のデータとシステムを新しいところで“インストール"できたら、そこで立国できる、という発想が紹介されます。すごい発想です。発想、というか、覚悟ですね。
※コメント投稿者のブログIDはブログ作成者のみに通知されます