【ただいま読書中】

おかだ 外郎という乱読家です。mixiに書いている読書日記を、こちらにも出しています。

100年安心なのは

2019-06-12 06:32:31 | Weblog

 老後の生活を保障してくれる十分な「年金」ではなくて、「年金制度の存続」だと政府は主張している、と私はニュースを“読み"ました。今の若い人のある部分が「将来は年金制度そのものがなくなっているかもしれない(から掛け金は納めない)」と言っていますが「それは違う。100年は制度は存続されている」と主張したい。「十分な年金がある」とは言えないでしょうが。
 ちなみに私は親よりもはるかにたくさん年金掛け金を納めてきましたが、親よりもはるかに少ない年金しか受け取れないことが確定しています。私が早く死ねば、政府としては喜ぶでしょうね。「年金を支給しなくちゃいけないやつ」と同時に「政府を批判するやつ」も減りますから。

【ただいま読書中】『空母信濃の生涯』豊田穣 著、 集英社文庫、1983年、400円

 戦艦「大和」は有名ですがその2番艦「武蔵」は影が薄い存在です。さらに、同型の3番艦を改装して空母にした「信濃」に至っては無名に近い存在。当時世界で最大の空母だったんですけどね。「信濃」を撃沈した潜水艦「アーチャー・フィッシュ」の元艦長ジョセフ・F・エンライト大佐に会うために著者が訪米する場面から本書は始まります。
 昭和19年11月、空母信濃は横須賀から呉軍港に回航を命じられました。しかし、陸からの航空機支援はなし、空母なのに航空隊の配属もなし。わずかに護衛として駆逐艦3隻がつけられましたが、連戦のため3艦ともぼろぼろの状態でした。さらに、急遽出港を命じられたためエンジンの12罐のうち4罐はまだ未完成。設計は最大速度27ノットですが、実際には20ノットしか出せません。阿部艦長は、敵航空機の襲撃を受けやすいが陸上基地からの支援も受けやすい日本沿岸航路を白昼航行する案を捨て、夜間に遠洋を航行することにします。
 ここで話は昭和15年に一度戻ります。「大艦巨砲主義」の産物として「大和」「武蔵」が着々と建造され、「信濃」も15年5月に起工。ところが開戦直後、イギリス東洋艦隊の「プリンス・オブ・ウェールズ」と「レパルス」が日本航空隊によって撃沈され、大本営は「大艦巨砲」の限界を感じ、信濃に興味を失ってしまい、下甲板まで完成していた信濃をドックから追い出してむき出しの艦体が錆びるにまかせます。しかし「ミッドウェー海戦で日本軍が虎の子の空母4隻を敵航空勢力によって失って、それまで山本五十六の「三番艦を空母に転換するべき」という意見をガン無視していた大本営の雰囲気が変わります。さらにマリアナ沖海戦で三空母を失うと大本営は態度を急変、信濃に対して突貫工事を命じます。無理な工事が続き、結果として防水隔壁に漏れがある欠陥品ができあがってしまいました。
 戦艦を空母に転換するのは、それほど珍しい話ではありません。第一次世界大戦ころから、既存の軍艦や商船を改造して空母にした「改造空母」は各国で作られていました。ただ、“下半身"はすでに完成した巨大軍艦を空母にするのは、なんとも中途半端な結果をもたらします。至る所をセメント詰めにする重装甲でトップヘビー(転覆しやすい)、空母としては速力不足、制式空母ほどには飛行機を搭載できない……もしも「信濃」に口があったら「もっと自分の特性を生かしてくれ」と言いたかったんじゃないかな。
 著者は江田島兵学校の卒業で従軍し、アメリカ軍の捕虜にもなっています。そこでちゃっかり空母エンタープライズの“見学"をしているところが、すごい。というか、本書は「信濃の生涯」について語るだけではなくて、著者の生涯についても語っているようです。
 しかし「信濃」はついていません。進水では前代未聞の大事故が起きます。だから無意味にせかしちゃいけないんです。さらに脱走兵が。もともと日本軍では脱走兵がけっこういたそうです。異常なリンチが横行していて、精神的に追い詰められたら脱走や自殺をする人間が出るのでしょう。「信濃」でも進水の事故直後に3名の脱走があり、軍部は「機密漏洩」と「復讐目的の犯行(たとえば艦内に爆薬を仕掛ける)」に気を揉みます。さらに、気密試験も注排水試験も省略されます。防水扉の開閉試験さえおこなわれません。大本営は何を考えているのか、飛行甲板に、特攻兵器の「桜花(一人乗りのロケット機)」と「震洋(ベニヤ板製のモーターボート)」を載せます。
 そして、エンライト大佐と「アーチャー・フィッシュ」が偶然「信濃」を発見。本当は速度差があるため追いつけないはずなのに、信濃は最大艦速が制限されている上にジグザグ航路を採っていたため、「アーチャー・フィッシュ」に魚雷発射のチャンスが訪れました。6本の魚雷が発射され4発が命中。普通ならこれくらいなら致命傷にはなりません。しかし……
 「軍人は、どんな状況でもベストを尽くすのが本分だ」と言われます。それは軍人には限らず、プロだったら誰でもそうでしょう。しかし「どんな状況」が「穴だらけの軍艦」だったら、そこでどんな「ベスト」が尽くせるでしょう? というか、「どんな状況」でも「兵隊にきちんとした装備」を与えることができない司令部は「プロ」の名前に値しないと私は感じます。兵隊にばかり責任を押しつけるんじゃないよ、と。




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