【ただいま読書中】

おかだ 外郎という乱読家です。mixiに書いている読書日記を、こちらにも出しています。

信頼関係

2011-11-30 18:50:31 | Weblog

 「田中聡沖縄防衛局長の不適切な発言」で一川防衛相は記者会見で「沖縄県と信頼関係を向上するために努力してきたことが失われかねない大変重大なこと。」と述べたそうです。これが「信頼関係を構築」と言っちゃうと「ゼロから作る」とも取れるから、「信頼関係を向上」と言って「すでにプラスいくらかの状態であるところから、もっとプラス方向に上積みをする」というニュアンスを込めているのでしょう。政治家というのは言葉を選ぶものだ、と感心しました。で、「向上」の具体的な事例として、最近の「軍属の裁判権を日本でも」というのがあるのだそうですが……あれって「米国にお願いしてそのお情けで」ということなんですよねえ。私はすっきりしません。
 なんだか「理不尽なことをこれまで散々強制しておいて、その理不尽さをほんの少し軽減したからそれで『信頼関係』が“向上”するよね」と言っているみたいで、私には「女を姦(や)る」発言と根っこが同じ発想のように見えてしまいました。セクハラ親父が職場で「昨日まではお前たちのお尻を10回触っていたが、今日から一日8回にするから感謝しろ」と言っているような……でも「セクハラくらいでがたがた騒ぐな」の人も世の中にはいるでしょうから、“問題”はない、ということなんでしょうね。

【ただいま読書中】『死の世界1』ハリー・ハリスン 著、 中村保男 訳、 創元推理文庫、1967年(80年15刷)、360円

 凄腕の賭博師ジェイソンは、惑星ピラスの大使カークからとんでもない依頼をされます。ピラスの人間たちが2年間汗水垂らしてさらに命まで賭けて働いて稼いだ2700万クレジットを、カジノで一晩で30億クレジットにしてくれ、と。好奇心と騒ぐ賭博師の血に負けてギャンブルに成功したジェイソンは、その金が武器弾薬の購入費に充てられることを知ります。戦争ではありません。ピラスで、人類が生きのびるための戦いのためなのです(ちなみにピラスでの人類の平均寿命は16歳です)。
 好奇心に負けて、ジェイソンはピラスに渡ることにします。
 惑星ピラスは死の世界でした。重力が地球の倍もある上に、環境自体が人類に有害です。そしてそこに棲息する総ての生命体が(植物も動物も)人類を殺そうとしているのでした。はいはいができるようになったピラス人はまず生存訓練を受けることになります。安全なものが何一つないことを学び、自分で自分の身を守ることができるように。できない人間は死ぬだけなのです。
 自分は無力なよそ者だ、と思っていたジェイソンは奇妙なことに気づきます。生態系が変なのです。ピラスの生命体は、人類にだけ有害・有毒で、お互いは殺し合っていません。しかもピラス植民当時にはそこまで人類に敵対的な環境ではなかったこともわかります。何が過去にあったのかを知り、今のままでは滅亡が必至のピラス植民地の未来を変えるために、とジェイソンの孤独な“戦い”が始まります。ピラスの人々はよそ者によって自分たちの社会が引っかき回されることを好みません。さらに、“今日”を生きのびるだけで精一杯です。未来のために動けるのは、ジェイソンだけなのです。何かと言えば反射的に銃が引き抜かれる世界で、ジェイソンは、自分が殺されないための戦いと惑星ピラスの未来を救うために必死で動き続けます。
 何かで激しく対立している二つの集団があった場合「対立しているという事実」にだけ注目するのではなくて「対立の要点は何か」と一度原点に戻ってみることは、迂遠なようですが実は最短の解決法かもしれない、と思わせてくれる作品です。最後の“解決”はちょっと素早すぎるような気はしますけれどね。昔読もうと思って結局読みそびれていた作品ですが、なんとか読むことができて良かった。




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