【ただいま読書中】

おかだ 外郎という乱読家です。mixiに書いている読書日記を、こちらにも出しています。

シンデレラ

2019-06-10 06:41:06 | Weblog

 「シンデレラ・ストーリー」という言葉は今の日本では「デビューしたらすぐヒットした苦労知らず」といった意味合いで使われているようですが、実際のシンデレラは舞踏会で“デビュー"する前にとっても苦労していませんでしたっけ? そしてそれと同じことは「シンデレラ・ストーリー」の人たちにも言えるはずでは?

【ただいま読書中】『平家物語の女たち』宮尾登美子 著、 朝日新聞社、2004年、1300円(税別)

 『平家物語』は基本的に「男の物語」ですが、それを「平成に生きる女の視点」で読んだらどうなるか、と著者は考えたそうです。
 まずは「名前」から。『平家物語』には1000人以上の人物が登場し、名前も同じ漢字を使う人(平家は「盛」、源氏は「頼」と「経」)が多いので区別をするのが大変です。ところが女性はほとんど「名前」を持っていません。もちろん実際に名前がないわけではなくて、それは外には公的には知らせずあくまで「イエ」の中だけで使われるものだったのでしょう。そこで著者は『宮尾版平家物語』を執筆するにあたり、全ての女性に「名前」を与えました。
 清盛には「生母」と「乳母」と「育ての母」がいます。乳母がいるのは当時の高位階級では当然ですが、実の父が白河院であることで、話が難しくなります。そして、清盛を巡る女たち(母、妻など)の人間関係の中に、著者は「頼朝助命」を起きます。女性それぞれ、さらには男性にもそれぞれの思惑があり、それらがお互いに影響をしあって結果として頼朝の助命ができたのではないか、と。
 清盛の娘たちも、生母がたくさんいるため、人間関係が複雑です。そして、その運命もシンプルではありませんでした。
 壇ノ浦の戦いの特異性は、戦場に高い身分の女性がいたことです。普通だったらあり得ません。ただし、その中で死んだ者はごく少数でした。著者はその戦いの“前"にも思いを馳せます。都を離れて1年8箇月、女性たちは一体どんな生活をしていたのか、と。もしかしたら、着の身着のまま? 食べものは? いやいや、そんなことを想像すると「戦場のリアル」がこちらに迫ってくる気がします。
 『平家物語』は、私にとっては平家の「盛者必衰」の物語であり源氏の内輪もめの物語でもあります。だけど著者のような読み方もあるのだ、という指摘は新鮮でした。さて、私が今『平家物語』を読んだら、どんな読み方ができるのかな? それはたぶん「私(の人生)」を問われるものになるはずです。




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