【ただいま読書中】

おかだ 外郎という乱読家です。mixiに書いている読書日記を、こちらにも出しています。

国鉄

2017-11-06 21:10:49 | Weblog

 国が所有する鉄のことでしたっけ?

【ただいま読書中】『人はどのように鉄を作ってきたか ──4000年の歴史と製鉄の原理』永田和宏 著、 講談社ブルーバックス、2017年、1000円(税別)

 「製鉄は簡単だ」と著者は言います。砂鉄と木炭、あとはホームセンターで手に入る材料で「炉」を組んだら数時間で「鋼塊」を得ることができるそうです。もっとも「簡単だ」と言えるようになるまで4年間の試行錯誤が必要だったのですが。
 純鉄の融点は摂氏1536度。銅は摂氏1084度ですから、青銅器時代が鉄器時代に先行したわけがわかる気がします。ただし鉄に炭素を溶解させると凝固点降下が起きて最大1154度まで融点が下がります。これは銅の融点に近いので、青銅器文明を確立できた人類にとっては「鉄と炭素」の組み合わせさえ発見できたら鉄器文明への移行は割と容易だったはずです。
 鉄は温度によって結晶構造が変化します。また、同じ温度からでも、急冷すると焼き入れによって硬度が増し、ゆっくり冷やすと焼き鈍しで軟らかくなります。つまり、同じ「鉄」でも、様々な特性を持った製品が作り出されるのです。
 製鉄の歴史を著者は「炉の高さ」で二分します。1)炉高が1mで、固体のまま低炭素濃度の鋼塊を作る製鉄法 2)炉高が2m以上の溶鉱炉法(2はさらに鋼の融点直下で完全に溶かさず銑鉄を脱炭して「錬鉄」を作る方法と、1856年ベッセマーが発明した転炉以降の、溶解した鋼を作る方法に二分されます)。溶鉱炉法でできる銑鉄は炭素の含有量が多いため、脱炭する必要があります。また、16世紀以降には高価な木炭ではなくて安価な石炭が加熱に用いられるようになりましたが、石炭の硫黄が赤熱脆性(900度くらいでもろくなる)の原因になるという問題があり、加熱炉では石炭、脱炭炉では木炭が用いられました。
 古代エジプトのピラミッドからは紀元前3000年頃のビーズの飾りが発見されていますが、それには隕鉄から作られた鉄が使われていました。小アジアのアナトリア地方では紀元前2500〜2200年前の前期青銅器時代の王墓から隕鉄で作られた鉄剣が発掘されています。隕鉄は、製鉄の手間は省けますが、非常に硬くて加工は難しいしろものです。当時アナトリアに住んでいたプロト・ヒッタイトの人々は、高度な技術を持っていたようです。
 産業革命から後、ルツボ炉、反射炉(パドル炉)、転炉など、様々な炉が開発されました。そのたびに、鉄が含むリンや窒素などの不純物が問題となります。「製鉄」と一口に言っても、事態は非常に複雑です。スクラップのリサイクルも、この「不純物」が問題となります。特に最近の鋼材は様々な用途に特化したものがあって、それをまとめてスクラップとすると不純物だらけになってしまうのです。それでも、鉄鉱石からの製鉄よりは二酸化炭素排出量が削減できるので、無駄にはできません。
 製鉄の原理そのものは、実は400年前から進歩していないそうです。進歩したのは「規模」。以前には考えられなかった大量生産が可能になりました。また、木炭の節約は顕著です(400年前には銑鉄1トンを作るのに木炭が5トン必要だったのが、現代では550kg)。
 そうそう、「不純物」として酸素があります。脱炭の過程で酸素を高速で吹きつけて炭素を燃焼させますが、残った酸素が溶解して一酸化炭素ガスの気泡として残留することがあります。これは強度を低下させるため、こんどはアルミニウムを投入して酸素と反応させて固体のアルミナにして酸素を完全除去します(アルミキルド鋼と呼ぶそうです)。しかしこんどはアルミナの一部(特に微小粒子)がスラグに吸収されずに鉄の内部に残ります。これは、細い鋼線や薄い鋼板で破壊の起点となることがあります。話はやはり複雑です。
 日本では「たたら製鉄」が有名ですが、実際にその技術を保存している人たちは、著者の研究申し込みを断ったそうです。ただ、時に詳しく調べる機会を与えられることがあり、その時には著者は大喜びで科学的なデータを取っています。
 いつかテレビで、刀鍛冶に弟子入りした人が、熱した鉄塊に鍛造を始めるタイミングがつかめず苦闘していましたが、鍛冶屋が目安にしたのは「湧き花」と呼ばれる、鉄の微粒子が燃焼してできる細かい火花だそうです。人間の「眼」を「温度計」にして作業をするわけですが、これは教えてもらわないとわかりませんよねえ。
 本書の最後には(私には)「電子レンジ製鉄」が登場します。材料の混合物を入れたルツボを電子レンジで「チン」すると、鉄ができちゃうのです。金属を「チン」しちゃって良いのか?と私は仰天ですが、内部から急速に加熱されるためか、従来の製鉄法よりも不純物を少なくできるそうです。これが産業レベルで実用化されると、「製鉄」はまた姿を変えるのかもしれません。




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