【ただいま読書中】

おかだ 外郎という乱読家です。mixiに書いている読書日記を、こちらにも出しています。

流行の責任

2020-11-27 07:37:01 | Weblog

 新しい病気が流行すると、「どこからやってきたんだ」が話題になります。「自分たちは悪くない、誰かほかのところに責任がある」と言いたいのかもしれません。しかし人が交流する限り病気は必ずどこかからやって来るものですし、それが流行するかそれともしないかは、たとえばその社会の公衆衛生がきちんとしているかとか人々の病気に対する意識がどうか、なども大きな要素になっているはずです。少なくとも公衆衛生とか人々の基礎的な健康状態とかは、「自分たちの責任」でしょ?

【ただいま読書中】『ペスト大流行 ──ヨーロッパ中世の崩壊』村上陽一郎 著、 岩波書店(岩波新書黄225)、1983年、430円

 ペストは中国が起源、という説が有力だそうです。それがおそらく元の勢力拡張に従って西に向かい、さらにヨーロッパに住んでいた鼠が(ペストを媒介する蚤が好む)クマネズミに入れ替わったことによって、ヨーロッパでペストが流行する条件が整えられました。さらに、都市への人口集中、交通網の整備、十字軍などでの国際的な人口移動によって、エピデミック(局地的な流行)がパンデミック(世界的な流行)に“昇格”する条件も揃います。ですから、中世ヨーロッパでペストが流行するのは、これは“必然”だったのかもしれません。
 ペストの原因は「有毒な気体」とされました。ならば病気に罹らないためには「病気から逃げる(有毒な気体に触れないようにする)」「空気を遮断する(換気の逆)」が有効と言うことになります。だから人々は病人を隔離したり流行地から逃げ出したし(隔離は有効だったでしょうが、避難はその結果各地に流行を広げることになりました)、窓を閉めたりそこにタペストリーをぶら下げたりマスクをしたり有毒な気体が肌に触れないように(肌を空気に露出する)入浴を避けるようになりました。その他にも、接触感染とか星の「合」なども疑われましたが、これについてはけっこう冷静な反論がおこなわれています。人気があったのは「ユダヤ人が病気をばらまいている」。その具体的手段についての言及はありませんが、ともかく「ユダヤ人が悪い」はユダヤ人以外の共通認識となり、その結果は虐殺でした。
 「感染症であることははっきりしているが、その経路を断つことが難しい」「有効な治療法がない」点で、中世の黒死病と現代のCOVID-19とは似ています。だとしたら、「歴史に学ぶ」ことは無駄ではないはず。さて、現代の医療関係者や為政者は、学んでいるかな?

 



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