【ただいま読書中】

おかだ 外郎という乱読家です。mixiに書いている読書日記を、こちらにも出しています。

障害物

2010-11-29 18:41:58 | Weblog
何かまたは誰かに自分を近づけようとするとき、理性が勝っている人は理解しようとするでしょうし、感情が勝っている人は共感しようとするでしょう。しかし、そこに批判が存在すると理性は堅くなって理解が遅れるでしょうし、悪口があれば感情が堅くなって共感の邪魔になるでしょう。だとしたら、まず自分に向いているのが理解か共感かどちらの方法論かを決定して、次に批判や悪口を慎重に排除する、という前処置が必要になりそうです。

【ただいま読書中】『陰陽師(9)玄武』岡野玲子 作、夢枕獏 原作、白泉社、2000年、790円(税別)

初っぱな、真葛が静かに荒れています。「おれも晴れて解禁の身となったのだから、さっそく夜這いのお声がかかってもよさそうなのに」と、「真葛延う 月の夜道の 通じれば 呼ばう声なく 忍ぶ音もなし」という露骨な歌まで詠んでしまいます。おやおや、乙女がそんなことを言うなんて、本巻は色っぽい方向に行くのかな、とちょっと期待してページをめくると……
方術師が瓜売りをたぶらかす有名な挿話が登場した後、実は前巻の雨乞いの話がまだ完結していないことがわかります。五行(木火土金水)だと水が生むのは木ですからではてっきり「木」の話なのかと(だから瓜が登場したのか、と)思っていると……なんと「火」でした。私はなんとなく裏切られた気分です。でもまあ、これが作者の“仕掛け”なのでしょう。五行の相生ではなくて相克でしかもそれを逆コースにたどった、と解釈するべきなのかな。そう解釈したら、本巻最後のあたりの晴明のことば「壊れるということはな、よいことなのだよ、博雅」に特殊な響きが感じられます。
これまで都は「異界」と接点を持っていましたが、本巻では都全体が異界と重なってきているように見えます。まだわずかにずれているのでおおごとにはなっていませんが、禍々しいことが起きそうな予兆がぷんぷんと。
そうそう、内裏に平気で盗人が現われますが、これは当時の貴族の日記にも記述されているので(『御堂関白記』で読んだ記憶があります。たしか別の日記でも)、たぶん「リアルな話」なのでしょう。古代エジプトや中国では呪的に守られている王家の墓でさえ荒らされるのですから、日本の天皇家の倉は盗人にはよい獲物だったではないかな。少なくとも呪われる心配はしなくて良さそうですから。
7巻くらいまでは、「動く(あるいは解説する)安倍晴明」に対して源博雅は傍観者というか読者に代わって解説を聞く係、という役回りでした。しかし8巻くらいから、博雅の動きがかわってきています。晴明はこれまでより一歩ひいて、博雅の動きも視野に入れながら何事かを行なう、といった感じに見えます。だからこそ晴明は博雅の身を案じているのですが。
ただまあ、博雅は、相変わらずのトンチンカンの朴念仁で、「動く」と言っても「行動の主体」というよりは「触媒」です。「触媒」だから彼が傷つけられる心配はあまりしなくてよさそう。そして、博雅が「夜這い」をさせられてしまうのには大爆笑です。新婚初夜に、姫ではなくて笙の方に夢中になっていては、イカンでしょう。



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