【ただいま読書中】

おかだ 外郎という乱読家です。mixiに書いている読書日記を、こちらにも出しています。

院長の憂鬱

2018-10-13 06:24:06 | Weblog

 私がよく行く歯科医院では、院長先生はいつもくるくる働いています。で、院長が先頭きって動いているものだから、スタッフはそれについていくのが大変で、傍目には「指示待ち」のようにも見えます。私が見る限り、他の歯科クリニックよりも優秀なスタッフが揃っているのですが、実際にはスタッフが動き始める直前に院長が指示を出してしまう、という場面もけっこうあるようです。
 で、いつもに増して忙しそうなある日「お待たせして申し訳ありません」と院長先生がすまなそうに言うから「一人でされるのは大変ですね」と返すと「そうなんですよ。なかなか思うように皆が動いてくれなくて」と愚痴をこぼされてしまいました。早くスタッフが育って院長に仕事の催促をするくらいになったらいいんですけどね。だけどそれはそれで院長先生には別のストレスになるかもしれませんが。

【ただいま読書中】『よくわかる医薬品業界』長尾剛司 著、 日本実業出版社、2009年(18年3版)、1400円(税別)

 就活の役に立てるため、取引先の業界について詳しく知りたい、などの目的のために「最新の業界の常識」をまとめたシリーズの中の一冊だそうです。
 医薬品は「モノ」と「情報」から成り立っていますが、売り手と買い手の間の「情報格差(情報の非対称性)」が非常に大きいことが特徴ともなっています。インターネットによってその格差は以前よりは小さくなりましたが、逆に偽情報や誤解や単なる思い込みの拡散も増えました(これは医薬品だけに限定した話ではないですけれど)。
 医薬品とユーザーを結ぶのは薬剤師ですが、現在日本に薬学部・薬科大学は74あります(定員は1万2千人)。卒業までに6年必要です(2006年度入学から。それまでは4年制でした。現在も4年制がありますが、これは研究者コースです)。
 新薬の研究開発は、製薬会社やバイオベンチャーが担当しています。あれ? 大学は? 確か欧米では大学発の薬もいろいろ会ったはずですが、日本の大学はそこが弱いのかな?
 販売は、医師が処方するルートと、ドラッグストアで一般に販売されるルートです。
 なお、各職種での年収比較、なんてものも載っていますので、就職を考えている人には参考になるでしょう。
 薬学部を卒業しても、国家試験に合格しないと薬剤師にはなれません。ところがこれがそれほど広い門ではありません。各薬学部の国家試験合格率一覧表が載っていますが(トップとビリで、なんと3倍もの差があります)、ここで注意するべきは「国家試験合格率を上げるために、危ない学生は卒業させない」という対策を取る大学があること。それは「卒業試験の合格率」を見る必要があります。
 新薬を一つ開発するのには、9〜17年の期間と約1000億円がかかります。しかも、候補の全てがものになるわけではありませんし、やっと発売にこぎ着けても発売後に意外な副作用が出現して薬が売れなくなる、ということもあります。副作用に関して「薬はリスク」とは言いますが、「薬の開発」もまたリスクだらけのようです。
 本書によると、日本に製薬企業は319もあるそうです。ちょっと多すぎるのでは? 世界に通用する新薬を開発できる会社(数社? 十数社?)と、ジェネリック専門の数社、くらいで、日本には十分なのではないか、と私には思えます。自由競争の社会だったら会社がいくつあっても構いませんが、薬の開発も健康保険での値付けも厚労省の厳しい統制下にあるのですから、「競争」はろくにないわけで、300以上も会社が必要な理由が私にはわかりません。
 医薬品の情報は、企業から医薬情報担当者(通称MR)によって医師や医療機関にもたらされます。営業マンというよりはもうちょっと学術的な存在ですね。意外なのは、薬剤師が少ないこと(MRの10%)。半数は文化系の出身だそうです。単に「モノとしての医薬品の知識」だけがあればよい、というわけではなくて、「患者」「法律」「経営」など、MRに必要な知識は幅が広いからでしょう。それを言ったら、医者だって「単に医学知識があれば良い」というわけではありませんから、もっと多様な人材を医者にした方が良いのではないか、と私は思います。アメリカのように一般大学を卒業後に面接で医学部に採用する、というのも一つの手でしょうね。
 今、処方期間は長期化しています。私自身、若い頃には2週間ごとに薬をもらいに行っていましたが、今は2〜3箇月分どんと出してもらいます。となると、その間、患者と医者の交渉は途絶えます。ところで厚生労働省は「地域で患者を見る」と言っているのですから、医者に対するMRと同じような「患者に対する医薬品情報を提供する人」がもっと増えてもよいでしょう。介護保険では出張の薬剤師が薬剤管理をする、なんてのもありますが、これを健康保険でもできたら、長期処方に伴う事故のようなものを減らすことができるかもしれません。地域にある薬局が、一種の「健康センター」のようになって、地域全体の人の医薬品についての、情報提供やモノの管理のサポートをするようになると、私の構想は現実的になるのですが。