【ただいま読書中】

おかだ 外郎という乱読家です。mixiに書いている読書日記を、こちらにも出しています。

人気の和尚さん

2011-06-24 19:04:56 | Weblog

 日本で庶民に人気がある和尚さんと言ったら、一休さんや良寛さん。あとは分福茶釜の和尚さん?
 ところで、一休さんにはトンチという一大特徴がありますが、良寛さんの人気の秘密は、何でしたっけ?

【ただいま読書中】『良寛詩集』良寛 著、 大島花束・原田勘平 訳注、 ワイド版岩波文庫92、1993年、1068円(税別)

 技巧を凝らした、というものではない、素直な詩が並んでいます。たとえばこんなもの。
「花無心招蝶 蝶無心尋花 花開時蝶来 蝶来時花開 吾亦不知人 人亦不知吾 不知従帝則」
最後の「帝」は「帝王」「皇帝」などではなくて「天帝」のことです。万物は知らずに天の道に従って生きているのだ、とでも言ったところ。
 猫と鼠の詩も面白いものです。鼠の“罪”は器を穿つこと。でも、それは補修が可能。失われた命は補修はできない。だから、もしも猫と鼠の“罪”を比較したら、猫の方が重い、とさらさらっと述べています。これは気に入りました。
 本書の前半は「五言」、後半は「七言」がまとめられています。要するに一行五文字か七文字かという形式の違いなのですが……七言の方はちょっとことばの流れが悪く感じます。たとえば「地震後詩」と「土波後作」はどちらも出だしの二行が同じで「日々日々又日々 日々夜々寒裂肌」なのですが、私の感覚ではことばの調子がもたついています(繰り返しによる特殊効果、とも言えますが)。また、「七言」の方では、詩によっては行の長さがばらばらになっているところがあります。一行が五文字だったり、あるいは九字や十字だったり。
 そもそも平仄などの約束事には囚われない融通無碍の作詞が特徴だそうですから、行が凸凹するのもご愛敬、と見るべきなのでしょう。
 内容はしみじみしたものが多いですね。高歌放吟するものではなくて、夜に一人でそっと呟いてみるのに向いているようです。
 ちょっとシュールなものもあります。「毬子」というタイトルの短い詩ですが、「袖裏繍毬直千金 謂言好手無等匹 箇中意旨若相問 一二三四五六七」(豪華な刺繍の毬、名人上手と自称する人、その意はと問われたら……一二三四五六七)……意味は全然わかりませんが、なぜか笑っちゃいます。

 昨日の読書日記に書いた『乾燥標本収蔵1号室 ──大英自然史博物館迷宮への招待』では、実用的な“貢献”をいっさいしていないかのように見える変人奇人が、(安定した生態系にまったく無駄なものなど存在しないのと同様に)博物館という社会だけではなくてこの世界全体に実は文化的に重要な存在であることが力説されていましたが、それと同様に、生産などには一切寄与しない「良寛さん」の存在が実はこの社会には重要なのかもしれない、と私はぼんやり思っています。それとも、良寛さんどころか、こんなぼんやりした人間にはこの世に“居場所”がありませんか? それはずいぶん窮屈だなあ。