消された伝統の復権

京都大学 名誉教授 本山美彦のブログ

野崎日記(394) 日本を仕分けする(18) オバマ(2) 

2011-02-01 13:06:59 | 野崎日記(仕分け)

オバマ政策は米国経済を本格的恐慌に追い込む

                    

 現在の米国発の世界金融危機に米国オバマ新政権が積極果敢に対処していると、日本では高く評価されている。米国の素早い対策が今回の経済危機を早期に落ち着かせるであろうともいわれている。はたして、そういいきっていいのだろうか。事実はその反対である。

 オバマ政権は、金融危機の原因に対して何らの判断を示すことなく、目もくらむ膨大な公的資金を、危機に陥った企業や銀行にひたすら注ぎ込んでいる。しかし、危機の源を除去することは一切していない。何が問題であり、危機の責任を誰がとるべきなのか、危機の原因をどのようにして取り除くのか、等々、一切不問にされたまま、未曾有の膨大な公的資金の投入を口先で約束しているだけである。

 米国財政も膨大な赤字である。つまり、膨大な公的資金は、国債を中央銀行であるFRB(連邦準備銀行)に引き受けさせることによってしか作り出せない。しかし、中央銀行による国債引き受けによって資金を生み出すことはそもそも金融政策上の禁じ手である。


 一 米国には使える公的資金はない

 二〇〇九年二月一〇日、オバマ政権の新財務長官ティモシー・ガイトナー(前ニューヨーク連銀総裁)が、米国の新たな金融安定化策を発表した。ところが、その途端にニューヨークのダウ工業株三〇種平均株価が約四〇〇ドルも急落して、八〇〇〇ドルを割り込んだ。オバマ政権に対する失望売りであった。

 ガイトナーが発表した金融安定化策は、次のようなものだった。①官民共同の不良資産買取ファンドの設立(五〇〇〇億~一兆ドル)、②住宅差し押さえ回避策(五〇〇億ドル)、③FRBのTALF制度(Term Asset-Backed Securities Loan Facility=期間物資産担保証券貸出制度)といって、クレジットカードや学生・自動車ローンなどの小規模ローンを集約したABS(Asset Backed Securities=資産担保証券)を保有する個人や法人に、FRBが直接融資をおこなう制度(二〇〇九年より導入)を、それまでの最大二〇〇〇億ドルから最大一兆ドルに拡充。

 このように、最大で二兆ドル(一八〇兆円)規模の公的資金支出が発表されたのである。まだある。この発表直後に、米政府は八〇〇〇億ドル規模の景気対策法案も発表した。合わせて三兆ドル弱(二五〇兆円)規模の大盤振る舞いをするという宣言であった。ところが、ニューヨーク市場は株式の失望売りという反応を示したのである。

 こうした膨大な資金をどのような操作で生み出さすのか?市場の失望はこの疑念にある。そして、不思議な事態が見受けられる。FRBの国債引き受けが減少したのである。FRBが国債引き受けをしていないとすれば、膨大な資金をオバマ政権はどこから生み出そうとしているのか。

 二〇〇八年一一月末、米国の国債は高額は、一〇兆六六一二億ドル(約九七〇兆円)であった。同年一二月末では、一〇兆六九九八億ドル(約九七四兆円)で、対前月比三八六億ドル増。ところが、二〇〇九年一月末には、一〇兆六三二一億ドル(約九六八兆円)と、対前月比六七七億ドルも減少したのである。意外なことに、米国債の発行残高は、二〇〇八年一一月末以来横ばい、そして、減少したのである。

 この事実はどのように理解されるべきなのか?オバマ政権は膨大な公的資金供給を宣言した。しかし、実際には、二〇〇八年一二月半ば以降、米政府・FRBによる追加の金融対策や景気対策はほとんど実行されていなかったのである。年末以降、FRBや米政府は、毎週のように数千億~数兆ドル規模の景気対策・金融安定化策を発表してきたが、それらは口先だけであった。

 二〇〇九年二月一〇日のガイトナーによる金融安定化策の発表も、財源については一切触れられていなかった。それが市場の失望を呼び、株価を急落させたのである。金融機関や企業は、厄災の種をまき、混乱を引き起こしたのに、行き詰まると国家に救済を要求するご都合主義の姿勢には辟易するが、それでも、口先だけの約束への市場の失望感は深い。

 つまり、FRBは国債引き受けに逡巡し、さりとて、国債の市中消化は進んではいないのである。米国は、二〇〇九年二月に、一六四〇億ドル(約一五兆円)の米国債の入札が実施されたが、この程度の市中消化では、三兆ドルもの資金調達目標からすれば絶望的なほどの少額である。現在の米国政府には、金融・経済対策に動員できる財源の見込みなどほとんどなくなっている可能性が強い(http://www.financial-j.net/blog/2009/02/000823.html)。

 米『ウォールストリート・ジャーナル』(二〇〇九年二月一一日付)によると、FRBは、これまで以上の国債引き受けを忌避しているという。FRBはさらに、長期融資の拡大にも消極的という。景気が回復し、FRBが利上げのために金融システムから資金を吸い上げたい時に、長期融資で供給した資金は回収が困難になる可能性があるからであるというのが、伝えられるFRBの姿勢である(http://headlines.yahoo.co.jp/hl?a=20090212-00000446-reu-bus_all)。

 二 ニューディールを上回る資金供給約束

 二〇〇九年一月二六日付の米『タイム』誌が、オバマ政権の公的資金散布約束の異常な膨大さを指摘した。一九三〇年代の大恐慌を克服するためにフランクリン・ローズベルト大統領によるニューディール政策は伝説として語られてきたし、オバマ政権もグリーン・ニューディールを標榜している。ここにも、私たちを錯誤に陥れる仕掛けが用意されている。ローズベルトが、ニューディールとして使った公的資金は、わずか四九億ドルであった。もちろん、貨幣価値が異なるので、現在のわずか四九億ドルと受け取ることは間違っているが、それでも、現在価値に直したとしても、七五〇億ドルを超えることはまずないであろう。第二次世界大戦でも、GDPの二〇%を超す出費ではなかった(大前研一「相当に危ういオバマ政権の経済認識」、第一六三回、二〇〇九年二月一二日、http://www.nikkeibp.co.jp/article/news/20090212/131416/)。


最新の画像もっと見る

コメントを投稿

ブログ作成者から承認されるまでコメントは反映されません。