消された伝統の復権

京都大学 名誉教授 本山美彦のブログ

野崎日記(392) 日本を仕分けする(16)  本多健吉先生追憶(6)

2011-01-30 12:57:14 | 野崎日記(新しい世界秩序)

 おわりに

 インペリアム・コンソリデーテッド・グループ(IGC)の創始者で、前会長のリンカーン・フレーザー(Lincoln Frazer)が、英国重要詐欺局(SFO=The Serious Fraud Office)によって逮捕されたのは、2004年2月3日であった。彼は、自宅の強制捜査の後、居合わせた同社の幹部数名とともに逮捕された。SFOは、すでに破産していた同社の管財人、マザーズ(Mazars)の告発を受けて、リンカーンシャー警察(the Lincolnshire Police )と合同で内偵を重ね、投資家を騙していたたとの確証を得、1998年1月1日~2002年6月30日の期間に投資家を欺いたとして告訴に踏み切ったのである。IGCは、2002年に破綻し、負債総額200万ポンドで、資産はほとんど残されていなかった。

 IGCの2人の創設者、リンカーン・フレーザーとジェアード・ブレントリー・ブルック(Jared Bentley Brook)の年収は、150万ポンドを超していた。フレーザーの弟のニコラス・グラント・フラーザー(Nicholas Grant Fraser)も、60万ポンドの年収を得ていた。しかし、彼らは、英国貿易産業省(the Department of Trade & Industry)の査察を受け、2001年、同社の経営から身を引いていた。しかし、管財人のマザーズは、引退後も、両者が実質的に会社をコントロールし続けていたと主張していた。

 しかし、インペリアル・コンソリデーテッド・グループ総帥のニコラス・グラント・フラーザー(Nicholas Grant Fraser)が、08年10月20日、ブラックファイアーズ・クラウン裁判所(Blackfriars Crown Court)で無罪として放免された。ジェアード・ブレントリー・ブルック(Jared Bentley Brook)、リンカーン・ジュリアン・フレーザー(Lincoln Julian Fraser)も放免された。

 裁判は、英国重要詐欺局(The Serious Fraud Office)の告訴を受けたものであった。裁判は、08年3月31日に開始されたものである(http://www.sfo.gov.uk/news/prout/pr_578.asp?id=578)。

 裁判の結末は当然である。彼らが天地神明に誓って無実だからではない。金融犯罪とは、既存の法の盲点をくぐり抜ける悪知恵で人々を騙す技術に長けた極悪非道の人間を、盲点だらけの既存の法で取り締まろうとする司直との戦いだからである。勝利はつねに悪人側にあった。金融犯罪を取り締まれることのできるより強力な政策とともに、業界の自主規制が強く望まれるゆえんである(6)。


  


(*)この「読み物」を私がもっとも尊敬していた本多健吉先生のご霊前に捧げる。このような語り口で、生前の先生と酒を酌み交わしながら朝まで語り合ったものです。
(**)大阪産業大学経済学部教授

(1)  英国リバプールに「インバーロ」(Invaro)という訴訟費用を融資する会社があった。テリー・リンドン(Terry Lindon)という人の経営であった。この会社は、いかがわしい闇の組織であった。2004年6月に解散したが、多額の債務を背負ったままであった。この会社に多額の資金を供給していたのが、カナダで組織されていたチャンセリー&リーデンホールであった。ゴッドレーのほかに英国の元政治家、ガーレー・リオンズ(Garey Ryons)も共同経営者であった。2005年4月、ゴッッドレーは、詐欺摘発警察(Fraud Squad )によって逮捕された。警察の調べで分かったことだが、ゴッドレーは、リンカーンシャーで組織されていたインペリアル・コンソリデーティッドに200万ポンドの損失を負わしていた。ゴッドレーは、この会社の元重役であった(Lashmar, Paul,"Liverpool firm's failure brings police raids in Japan," The Independent (Sunday), Jan 15, 2006.)。 

(2)   信託契約とは、託者が自己の財産権(信託財産)を受託者に移転して、自己または. 第三者(受益者)のために管理、運用または処分させる契約のことをいう。投資信託などはほとんどこの方式である(http://www.kabugraph.jp/s/)。複数の投資家から集められた資金を1つのファンドとしてまとめ、資産運用の専門家である投信会社が国内外の金融・証券市場で運用し、その成果 を投資家に還元するという仕組みが信託契約である。投資家(受益者)は銀行・証券会社・保険会社等の販売金融機関を通じて(または投信会社から直接)ファンドを購入する。その資金は、信託銀行(受託者)が管理・保管し、投信会社(委託者)が運用に当たる。専門別の役割分担が効率的な運営を実現するだけでなく、資産が分別 管理されることにより、販売会社、受託者、委託者いずれの金融機関が破綻した場合においても、投資家の信託財産は保全されるよう図られていると、業界用語では説明されている。しかし、信用が逆手にとられていたことは、米国発の金融危機が証明している(http://jp.credit-suisse.com/AM/investment/basics.htm)。

(3) 2005年12月23日付の『讀賣新聞』は次のように伝えている。
 「144億円投資、酒販中央会の元会長ら追認。全国小売酒販組合中央会の外債投資による年金破綻問題で、投資した当時の中央会会長らが、元専務理事や元事務局長(業務上横領罪で起訴)から事後報告を受け、追認していたことが分かった。理事会に諮らなかった巨額投資に対し、元会長らは追及しないまま、あいまいな説明を受け入れていた。同会は2005年12月22日、元専務理事と元事務局長に計20億円の賠償を求めて東京地裁に提訴したが、執行部首脳の安易な姿勢も浮かんだ。問題の外債は、元専務理事元事務局長が2003年1~5月、スイスの大手金融機関に預けた資金で計約144億円分を購入。年利6.75%をうたっていたが、04年6月、資金投資先の英企業が破綻(解散)、ほぼ全額が回収不能になった。この投資は契約から8か月後の03年8月末、同会の会長、副会長らによる年金委員会で、ようやく報告された。元事務局長は同年7月末に退職しており、元専務理事と総務部長が説明した。議事録などによると、元専務理事は<スイスの銀行の運用で10億円くらい入ってくる。損することは絶対ない>と説明。当時の会長らは<スイスの銀行は大丈夫か>、<契約書を見せてほしい>と質問したが、総務部長が実際は契約書があるのに<ファンドなので契約書はない>と答えると、それ以上説明を求めなかった。投資前に理事会の承認を得なかった点は、誰も追及しなかった」。同じパターンで多くの企業が餌食になっている。

(4) 全国小売酒販組合中央会の政治団体「全国小売酒販政治連盟(酒政連)」は、酒小売業の規制緩和を阻止するために、政界に対してすさまじい攻勢をかけていた。政治献金は、04年までの5年間で、寄付やパーティー券など2億1,000万円であったといわれている(http://cnb.chuohjournal.jp/entry/2008091002773.php)。
 中央会の事件が発覚される前の02年には、この「全国小売酒販政治連盟」が昨年、酒類の小売り自由化を一部地域で凍結する緊急措置法案の提出議員ら与野党36人に対し、パーティー券購入などで約700万円を提供していたことが、03年9月12日付で公表された02年分の政治資金収支報告書で明らかになった。当初は03年9月から自由化の予定だったが、03年4月に法案が成立し、全国約1000か所で新規出店ができない「逆特区」ができた。緊急措置法は、02年7月に議員立法で提案されていたものである。政府は98年、段階的な規制廃止を決定。03年に自由化を目指してコンビニや薬局などが出店の準備を進めてきたが、その矢先に同法が成立。経営が厳しい酒店が多い地域では1年間、新規出店ができなくなった。
 政治連盟の収支報告書によると、法案提出者8人のうち自民党の3人から多額のパーティー券を購入した。政治連盟はまた、自民党の有志議員でつくる「日本経済を活性化し中小企業を育てる会」など、酒店の保護を主張する同党議員26人に対してもパーティー券購入などで総額約570万円を提供していた。自民党以外にも、民主党、自由党の幹部にも政治献金が支出されていた。しかし、業界は深刻な状態にあった。全国小売酒販組合中央会によると、02年9月からの半年間で、酒店経営者36人が自殺し、2380人が行方不明になった。転廃業は2万5000店を超えた。中央会幹部は「りそな銀行やダイエーが守られている。我々も守られる資格はある」と主張した(Asahi.com, 09/12, 2003。

(5) 金商法の「第24条の5」(半期報告書及び臨時報告書の提出)。「第24条第1項の規定による有価証券報告書を提出しなければならない会社(第23条の3第4項の規定により有価証券報告書を提出した会社を含む。第4項において同じ)のうち、第24条の4の7第1項の規定により四半期報告書を提出しなければならない会社(同条第2項の規定により四半期報告書を提出した会社を含む。第3項において同じ)以外の会社は、その事業年度が6月を超える場合には、内閣府令で定めるところにより、事業年度ごとに、当該事業年度が開始した日以後6月間の当該会社の属する企業集団及び当該会社の経理の状況その他事業の内容に関する重要な事項その他の公益又は投資者保護のため必要かつ適当なものとして内閣府令で定める事項を記載した報告書(以下「半期報告書」という)を、当該期間経過後3月以内に、内閣総理大臣に提出しなければならない」。

 「第24条第1項(同条第5項において準用する場合を含む)の規定による有価証券報告書を提出しなければならない会社は、その会社が発行者である有価証券の募集又は売出しが外国において行われるとき、その他公益又は投資者保護のため必要かつ適当なものとして内閣府令で定める場合に該当することとなつたときは、内閣府令で定めるところにより、その内容を記載した報告書(以下「臨時報告書」という)を、遅滞なく、内閣総理大臣に提出しなければならない」。

 「第7条、第9条第1項及び第10条第1項の規定は半期報告書及び臨時報告書について、第22条の規定は半期報告書及び臨時報告書並びにこれらの訂正報告書のうちに重要な事項について虚偽の記載があり、又は記載すべき重要な事項若しくは誤解を生じさせないために必要な重要な事実の記載が欠けている場合について、それぞれ準用する」。
 半期報告書、臨時報告書、有価証券届出書の虚偽記載の場合の役員等に対する損害賠償責任の規定、提出会社の役員に対して賠償請求、等々が問題になる。

 アーバンコーポの場合、正確にはすべてを開示していなかったということなので、「重要な事実の記載がかけている場合」の方に該当すると思われる。

 ライブドア事件判決でも適用された損害賠償額の推定規定が第21条第2項である。市場価格の下落分(前後1か月の平均)が賠償額と推定される。しかし、賠償額の立証まで必要となるところに難点がある(http://japanlaw.blog.ocn.ne.jp/japan_law_express/2008/09/bnp_b9bf.html)。

(6) 本多健吉先生と語り合い、夜も明け始めた頃、「美しく生きましょうね」という合い言葉で分かれるのが、私たちのつねであった。本当にそうありたい。天国の先生に誓う。