消された伝統の復権

京都大学 名誉教授 本山美彦のブログ

野崎日記(377) 日本を仕分けする(1) 金融(1) 

2011-01-13 22:11:06 | 野崎日記(新しい世界秩序)
さらに深刻化した世界金融危機
                                             

 銀行には、規制を厳しく受ける商業銀行と規制を受けることのない「闇の金融機関」である投資銀行がある。二〇〇八年の世界の金融の激震は後者の投資銀行を震源地とするものであった。米国では、〇八年中に、ゴールドマンサックス、モルガンスタンレー、メリルリンチ、リーマンブラザーズ、ベアスターンズといった一世を風靡していた闇の金融機関が消滅した。彼らは、商業銀行に吸収されるか、自らを模様替えするか、破綻するかして消滅したのである。しかし、これで一件落着したわけではない。吸収した投資銀行があまりにも傷ついていた。投資銀行を引き受けたことによって、商業銀行自体の経営がおかしくなったのである。

 商業銀行業務と投資銀行業務、さらには、保険業務を兼営する総合金融機関のシティグループには、〇八年一〇月に二五〇億ドル、一一月に二〇〇億ドル、計四五〇億ドルの公的資金投入が投入されていた。しかし、八年一〇~一二月期決算の同グループの純損失は八二億九四〇〇万ドル(約七五〇〇億円)と五・四半期連続赤字となってしまった。〇九年一月一六日の同グループの株価終値は、前日比九%安の三・五ドルと下がり、二〇〇九年に入ってまだ二週間なのに、株価は五〇%も安くなった。

 結局、シティグループは、商業銀行(シティコープ)と証券業務(シティ・ホールディング)を分離することになった。〇八年一一月、シティは三〇六〇億ドルの不良資産を分離しただけでなく、〇九年一月、スミス・バーニーや日興グループ売却方針発表した。つまり、銀行、証券、保険を兼営する総合金融業務を自ら放棄せざるを得なかったのである。

 バンカメ(バンク・オブ・アメリカ)も〇八年九月にメリルリンチを買収したことの負の効果に苦しめられている。買収価格は五〇〇億ドル(約五兆二〇〇〇億円)であったが、メリルリンチの不良資産が重くバンカメの上にのしかかっている。

 バンカメも〇八年一〇月に二五〇億ドルの公的資金を供与され、〇九年一月にも、二〇〇億ドルの公的資金の追加投入を受けたが、同期決算で一七億八九〇〇万ドル(約一六〇〇億円)の大幅赤字に陥り、九年一月一六日の株価終値は、前日比一四%安の七・一八ドル、二〇〇九年に入ってバンカメもシティと同じく株価が五〇%安となってしまった。そして、バンカメもまた、〇九年一月、一一八〇億ドルの不良資産を分離したのである。

 AIGも、膨大な公的資金の支援にもかかわらず、同じ苦しみに浸っている。同社は、〇八年九月に八五〇億ドルの公的資金の融資を受けた。その見返りに同社は、公的管理下に入った。〇八年一〇月に二五〇億ドルを追加投入され、〇八年一一月にはさらに四〇〇億ドルの公的資金追加投入を受けた。まさに立て続けに公的資金を投入されて、同社は、生き長らえている。結局、日本の生保事業など多くの子会社の売却方針を発表せざるを得なくなった。同社もまた、一九九九年の金融近代化法による銀行、証券、保険の兼営が裏目に出たのである。

 『ワシントン・ポスト』(〇九年一月一五日付)は、〇九年には〇八年以上に金融機関が苦境に陥ると指摘した。シティグループやバンカメもAIGのように政府管理下に入る恐れがあると分析した。

 米国では、〇八年九月二九日、金融安定化法(Emergency Economic Stabilization Act of 2008)が成立し、最大七〇〇〇億ドル(約七五兆円)の公的支援が用意された。〇九年一月一六日現在で、その半分の三五〇〇億ドル(約三一兆七〇〇〇億円)が残っている。これで、金融機関が保有する不良債権を買い取ることを専門とするバッド・バンクの創設が検討されている。

 連邦預金保険公社(FDIC)のベアー総裁(Governor,  Sheila Bair)は、〇九年一月一六日、CNBCテレビで、不良資産買取の受け皿銀行設立で財務相などと協議中であると説明した。一九八〇年代の米貯蓄貸付組合破綻後に設立された整理信託公社(Resolution Trust Corporation=RTC)がモデルになるとした。こうして、今後、金融機関は好むと好まざるとを問わず、公的な管理に入ることになるだろう。

 英政府も、米国と同じようなバッド・バンクの設立を真剣に検討している。政府は、総額二〇〇〇億ポンド(約二六兆七〇〇〇億円)の不良資産の買取に踏み切るであろうと『デーリー・テレグラフ』(電子版)(〇九年一月一七日付)が報じた。

 英政府は、〇八年一〇月に包括的金融安定化策(Emergency Bailout Package to Rescue Britain's Banks)で、ロイヤル・バンク・オブ・スコットランド(the Royal Bank of Scotland plc=RBS)、HBOS(Holding Company for Bank of Scotland plc)、ロイズTSB(Lloyds Trustee Saving Bank Group plc)という大手三グループに総額三七〇億ポンドの公的資金を投入した(『毎日新聞』二〇〇九年一月一八日付)。

 RBSは、総資産でドイツ銀行に次ぐ世界のトップクラスの銀行である。しかし、RBSは、二〇〇九年一月一九日、二〇〇八年一二月期の赤字が、英企業としては過去最大の二八〇億ポンド(約三兆七〇〇〇億円)に達したと発表した。RBSは「世界経済と金融市場の不確実性は以前高く、今後も資産の減価が続くのは確実である」と告白した(『讀賣新聞』二〇〇九年一月二〇日付)。

 英政府は〇九年一月一九日、金融機関の不良資産の損失を政府が肩代わりすることを柱とした第二次金融救済策を発表した。イングランド銀行も五〇〇億ポンド(約六・七兆円)を上限に社債などの買い取りに踏み切る。英政府が、〇八年一〇月に打ち出した総額五〇〇億ポンドの資本注入を柱とする救済策の追加措置で、英国でも深刻化しつつある貸し渋りを防ぐのが狙いであった。

 金融機関の不良資産については、将来発生する追加損失の九割を政府が公的資金で肩代わりするというのがその措置の内容であった。同時に金融機関に対し、貸出強化や経営陣の報酬の抑制を政府は求めた。さらに、金融機関の持つ高格付けの資産担保証券に政府保証を付け、急落する住宅市場の下支えを図る。外資系金融機関も対象で、ブラウン(James Gordon Brown)英首相は〇九年一月一九日、欧州諸国などにも導入を呼びかけた。またイングランド銀行も〇九年二月から企業の社債やコマーシャルペーパー(CP)などを買い取り、企業の資金繰りを支援する。英国でもまた、金融機関の国有化は不可避となった。