消された伝統の復権

京都大学 名誉教授 本山美彦のブログ

ギリシャ哲学 20 オルペウス(1)

2006-11-14 23:56:14 | 古代ギリシャ哲学(須磨日記)

 天空は「ウラノス」と呼ばれていた。鋼鉄の鉢が大地を被う。大地は丸い。イリアスやオッデッセイアにそうした記述がある。雲までは靄が被っている。靄は「アーエール」と呼ばれる。雲の上は輝く大気であり、「アイテール」と呼ばれた。大地の下も金属の鉢で被われている。大地から天空の頂点までの距離と、大地から下方の底までの距離は等しい。下方の底は「奈落の底」で「タルタロス」と呼ばれる。イリアスでゼウスが語り、ヘシオドス『神統記で語られている。地下世界は「冥府」(ハディス)であり、「闇」(エレボス)である。大地を取り巻く河が「オケアノス」であり、水の源である。ホメロスに語られ、ヘロドトスが神話として記述している。河の神が「アケロオス」である。

 

 こうした世界の観念はギリシャ以前からあった。ヒッタイト、メソポタミア、エジプトにもあった。オケアノスは輪という形容詞でもあった。

 

 太陽は「ヘリオス」と呼ばれ、「曙」が「エオス」、「夕闇」が「ヘスペリス」、大地は「ガイア」とも呼ばれた。オケアノスは神々の祖、オケアノスの妻がテテュス、この2神から万物は生まれたとの考え方もギリシャ以前からあった。イリアスには、ゼウス、ポセイドン、ハディスによる世界分割も記されている。さらに、クロノス、テイタン族もイリアスにはある。プルタルコスは「イシス」と「オシリス」という神のエジプト起源に言及している。プラトンはオルペウスが「流れ美しきオケアノスが妹のテテユスを娶った」と語っているとの紹介を『クラテュロス』で行った。プラトンはさらにオルペウス教を紹介している。「ゲー」(大地)とウラノスの子としてオケアノスとテテュスが生まれ、彼らからポルキュス、クロノス、レアが生まれてというのである。彼らがテイタン族である。

 

 オルペウス教によれば、オケアノスとテテュスが最初の完全に人間化された夫婦である。この人間夫婦はクロノスとレアよりも先に生まれている。

 

 どうも古代ギリシャのオケアノス観は古代エジプト、バビロニア人を起源としているようだ。そして、オルペウスの神々と重複する。

 

 神々も人間をも従わす「夜」は「ニュクス」である。ホメロスでは「ニュクス」は完全に擬人化されている。これもオルペウス教の観念である。アリストテレスもこのことに気づいていた。

 

 オルペウス教とは浄化の神アポロンを崇拝しつつ、トラキア地方の転生信仰と結びつけ、魂は清浄なままであれば生き続けることができると考えて、ディオニソス神を中心にすえながら独自の神話を創り上げてきた教団である。トラキア人のオルペウスは性的な清廉さ、音楽の才能、死後の予言力をもつ「聖なる言説」として記録されてきた。ヘロドトスは前5世紀においてオルペウス教にピタゴラスが染まっていたと紹介している。