消された伝統の復権

京都大学 名誉教授 本山美彦のブログ

民営化される戦争とグローバル企業(12) 広島講演より(9月24日)

2006-11-06 23:45:05 | 世界と日本の今

8、石油利権のためのイラク戦争

価格支配による利益の争奪戦

今、世界中で進展していることは、いわゆる石油メジャー、巨大資本が合併を繰り返してきて巨大石油会社がどんどん少数になってきています。価格統制をするためなのです。ちょうど王子製紙が北越製紙を乗っ取ろうとしたのと同じことです。増産に次ぐ増産により価格を下げることでシェアを増やす行動よりも、M&Aという形で競争相手企業を吸収合併して価格を吊り上げていく方法。文字通りカルテル的な行為が現在の石油産業に起こっているのだろうと思います。

 
だから1バレル90ドルとか100ドルという信じがたい程の高い値段が出てくることは、メジャーズや産油国が原油を増産しないという一言に尽きるのです。結局、価格支配が完成直前になったということです。実はサウジアラビアとアメリカの関係はよくないのです。スセインを叩き潰すことによってイラクを第2の石油基地にしてゆこうとアメリカは画策していたのです。サダム・フセインの登場と共にOPEC(石油輸出国機構)が形成された。そしてイラクのほかにはロシア、フランス、ドイツ、中国、そしてキューバなどが35ヶ国連合というものを形成した。そこではアメリカとイギリスが排除される構造になりかねなっかった。

 
父ブッシュがサダム・フセイン政権のイラクを攻めたのですが、バグダットへの侵入は父ブッシュでも恐くてしなかった。ちょうどナポレオンがモスクワを侵略して敗退したと同じように危ないというので矛を収めたのですが、チェイニーやラムズフェルドが今度は子ブッシュを説得した。バグダットへの侵入は民営化された戦争請負企業が行ったらいい。そういう連中を使えばアメリカの正規軍の被害は少なくて済むと言っておそらく説得したのだと思います。そして、バグダットへ侵入したのです。

アメリカとロシア・フランス連合の対立

 
イラクを攻める前のアメリカにとって一刻の猶予がならなかったのは、サダム・フセインがついに切り札を切ったからです。アメリカの生命線は石油であると同時に世界の石油取引がドルで行われていることに尽きるのです。つまりフセインがそのドル建てをユーロ建てに変えると言いましたら、それに何とサウジアラビアも賛意を表明した。インドネシアも賛意を表明したのです。しかもイラクの利権はフランスにほぼ握られていた。そういう状況の下では一刻も早くあらゆる口実を設けてイラクを攻めるしかなかった。

 
それで大量破壊兵器があるはずだということで攻めた。こんなことは言ってはいけないけれど、おそらく人の見ていない間に大量破壊兵器を運び込むチャンスがあったのではないかと思いますが、結局は全く発見できなかった。普通であれば大統領は引責辞任です。でも居座ってしまっているのです。

結局あそこでフセインを叩きのめしたために、世界の石油取引はユーロ建てに移らないでドル建てに戻ったのです。但し、今ご存知のように、ガスブロム(ロシア国営のガス会社)のロシア側が必死になってアメリカを追い出そうとしています。サハリン第2鉱区ではおそらくアメリカ・日本連合軍が追い出されるかもしれません。中国はまだアメリカと対決する自信はないはずです。というのは石油採掘はものすごく技術を要する。単なる資本力だけでなくて技術そのものがいる。この技術が一定程度中国に移転しない限り中国はアメリカとの対決を避けるだろうと思います。

 
そうしますと、世界はここ当分の間、アメリカ対ロシア・フランス連合という方向に行くのだと思います。わが日本は世界で最もアラブ側に尊敬されている国であってイランなどとは特に仲がよかったのです。その今までに築いたせっかくのいい財産を今度のアメリカとの軍事的一体化によって失っていくのであり、非常に危ないことになります。

日本の若者よ、声を上げよう

 
それに対して、日本ではどうしたものか若い人達がデモ一つ起こしてくれません。私の勤めている大学ではビラ一枚張られておりません。この間久しぶりに京都大学に行きましてほっとしました。ここにはまだビラが貼られている。若い人達はこういう話を嫌うのですね。それはものすごく恐ろしい現象なのです。世界で最も日本人は恥ずかしく思わなければいけないのは、世界中の若者達があちこちで反戦デモをやっているのに、わが日本だけは静かであるということです。ここのところに致命的な恐さがあります。

 
私が政治家だったらこの状況を利用しますね。教育基本法を変えます。憲法も変えます。それこそ「晋ちゃん」ブームです。そういう意味でこの私達のつらい状況、何とか皆さんの力で乗り切ってほしいと思います。

 
貧しさと若者の無関心さという今の状況が権力にとって有利に展開してしまっています。でもどのくらいかかるか分かりませんけれども、いずれ世界は、社会は平等になっていくでしょう。しかし少なくとも世界の人々の動き方に対して、我々は日本人の明確な意思を表明しなければ大変なことになるだろうと思います。今後も共に頑張りたいと思います。私も何とか生き延びたいと思っております。今日はこれで話を終わらせていただきます。